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ついに明日は大会当日だ。今日は休みだったので、数日前に栞さんにまとめて何冊か借りた本を読んでいる。全て面白くて、いつのまにか後一冊だけになっていた。
「今日はいつ走るの?」
「今日はいいかな。だって、最近ずっと走り詰めだしさ、ちょっと休んでもいいんじゃないかな?」
「そうなの? ちょっとだけ走ってみたら?」
「行ったとしても散歩だけだよ。」
ここまで頑張ってきた分、結果は出るだろうという風にどこかで確信していた。間違いなく下から5番目にはならないだろうな。そもそも、ランニングが楽しくなってきたので、これからも走ることになると思う。それなら一週間に一度ぐらい休みを作った方がいいはずだ。ちょうど今日は日曜日なので休日にするにはちょうどいい。
区切りがいいところまで小説を読み終えた。他にやることもないし、勉強でもしようかな。単純な暗記などは教科書などでも出来るので、出来ることからやることにした。いつかは別のやり方で学んでいきたいと思っているけど、今のところこれで十分だろう。両親が大体一ヶ月後には帰ってくるので、その時まではこれでいいと思う。
おじさんは俺が忙しくなってから退屈そうに窓の外を眺めることが多くなった。この世界でも何もしないんだろうか? 俺には色々言ってきたくせに、結局行動は何もしていない。別にそれでもいいけど、おかしい気もする。
なんだか疲れてるんだか疲れてないんだか分からないような状態がずっと続いてる。持久走が終わったら何か息抜きできるようなことがしたいな。机に向き合っていたら、勉強に対する集中が切れてしまったので、すこしだけ散歩することにした。
「おじさん。ちょっと散歩行ってくるね。」
「あ、行ってらっしゃーい。」
土手に行くと今日も彼が走ってる。一体どこにそんな体力があるんだろうか。当たり前のようにやっているけど誰でも出来ることじゃないし、何より楽しんで走ってるのがこの前話した時に分かった。だからこそなんとかして助けてあげたい。
ベンチに座っていると、風が強く吹くことがあって、もう一枚羽織ってきても良かったなと思った。走っている時はポカポカとしたり、汗が冷えて寒くなったりと、体感温度の変化が激しいのであんまり分からなかったが、季節が変わり始めてるみたいだ。
「青木くん! 良かったら一緒走らない? ペース落とすからさ。」
「うーん、今日は体を休ませたいかも、本番で変なことになったら怖いから。」
「僕は落ち着かなくてね。休もうと思ってても体が走りたくなっちゃうんだよね。」
「へぇ、いつも走ってるもんね。そりゃいきなりやめろって言われても難しいか。」
「そうなんだよ! しかもさ、家を一歩出るといつものランニングコースだからさぁ、窓から見てるだけでウズウズと言うか何というか。」
「ちょっとだけ歩かない? 歩きながら話そうよ。」
「いいね。君と話してると走らなくても落ち着く。」
涼しい風が二人の間を通っていく、日に日に澄んでいく空気を全身に浴びると、頭の中まで洗われるような気がした。川にしっかりとした生き物を見たことはあんまりなかったが、今日は鶴が川の中に出来た島で佇んでいた。
白木くんは楽しそうに明日の持久走について話している。このランニングを通して、彼と一つの目標を共有できて嬉しかった。結局、辛くなるだけかもしれないけど。一回、おじさんと話してみようかな。
「あ! そうだ!」
「え? どうしたの青木くん?」
「持久走大会が終わった後で、ウチに遊びに来ない? ここから近いしさ。良くない?」
「いいの? じゃあ、お邪魔しちゃおうかな。」
「じゃあ、いつにしようか? ウチはいつでもいいけど。」
「うーん、次の日曜日とかどうだろ。」
「それぐらいがいいかもね。それじゃよろしくね。」
もう直接言ってしまおう。未来のことは言わずに、上手いこと出来たらいいけど、最悪、未来の事を話してしまってもいいだろう。おじさんも協力してくれれば、なんとかなる。と思う。
「じゃあ明日はお互いに頑張ろうね。僕も一位目指すからさ。」
「またねー」
家に帰ってからおじさんに事情を説明すると、渋い顔をして話し始めた。
「この家に遊びに来るのはいいけど、僕はその、白木くん? には会わないからね。」
「おじさんから説明してくれれば一番分かりやすいからそうして欲しいんだけど。」
「いや、それは出来ないよ。」
「なんでよ。悪いことをするわけじゃないからいいじゃん。むしろ人助けになるし。」
「とにかく! 僕は何にも知らないから、一人で勝手に話をつけてよ。」
「おじさんから白木くんが怪我をするって聞いたんだから、何も知らないなんてことないでしょ!? どんな状態で怪我するのか教えてあげてよ!」
「知らない! 覚えてないよ! そんなこと……」
喧嘩になってしまったけど、こっちとしては彼に会うたびに将来の怪我のことがよぎってしまう。俺はこの問題を解決しないと、ずっと後悔を引きずるような気がして嫌だ。もし何もしてくれないなら、おじさんも教えてくれない方が良かったのに。
そんなことを言っていてもしょうがない、明日はようやくの持久走大会なので、出来れば早く寝たい。いつもより早めにお風呂に入ったりなどの寝る支度をしていると、おじさんが話しかけてきた。
「あのさ、僕もその子のことがどうでもいいってわけじゃないんだよ?」
「いや、大丈夫です。僕がちゃんと話しておくんで。」
「君が気にすることじゃないと僕は思うんだけどな。だって何年も後のことだし、それに怪我したからと言って必ず不幸になるわけじゃないしさ。結局は本人の問題じゃない?」
「そうだとしても彼と話してるとこっちまで辛くなるんですよ。出来ることはやってあげたい。」
「でも、本来知るはずのないことだよね? 僕が教えたからそう思ってるだけでさ、だからちょっと違うんじゃないかな。」
「そんなこと言ったらランニングも始めてないですし、宿題もやってないです。それで高校に落ちて、ニートになるのが本来の俺じゃないんですか?」
「それを止めるために僕が頑張ってるじゃないか。」
「だから俺も白木くんが怪我しないようにするんです。やってることはおじさんと変わらないですよ。」
モヤモヤのまま布団に入る、いつもより早い時間だと言うこともあって、なかなか寝付けずにボーッとしている。気分転換に開いた小説は目が滑ってしまい、内容が何も入ってこず、同じところを何度も読み直してしまった。あまりにも眠くならないのでイライラしてお腹が空いた。何か食べようとリビングに向かうとおじさんが寝転がっていて、眠たそうにしている。お昼に寝てたはずだけど。
お湯を沸かし、カップ麺に注いで三分間じっと待っていた。怪我のことは、もしかしたら言わない方がいいのかもしれないし、言ったとしても彼が大学生になった時にはきっと忘れているかもしれない。
「あ、僕もそれ食べていい? お湯あるよね?」
「まだ残ってますよ。」
「久々に食べたい気分なんだよねぇ、お腹空いちゃってさぁ。」
「おんなじです。俺もお腹空いちゃって。」
「ははは。そうだよね。」
「何か変なこと言っちゃってすみません。」
「僕も余計なこと言ったね。ごめんね。」
「出来たみたいですね。でもおじさんのはまだ固いかも。」
「これぐらいがいいんだよ。ははは。」
こうやって話をしてると、分からなくなりそうだけど、この人は未来の俺なんだ。そこはやっぱりお互いに忘れてはいけないことだと思う。それを忘れて一人の人間として向き合ってしまったら、おかしくなるような気がする。すこし固そうなカップ麺をほぐしているおじさんがこっちを向いて笑った。何で笑ったのか分からなかったが、笑い返しておいた。
お腹がいっぱいになり、眠気が出てきたので布団に入るとすぐに寝た。
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