12
登校する時にはカラーコーンなどが土手に並んでいた。おそらく昨日のうちにやったんだろうな。下駄箱に靴を入れ、教室に入る。
「栞さん、あれ面白かったよ。ありがとう。」
「へぇ、そっか。てか、持久走だるくね? あたしインドア派だからさ、うざいんだけど。」
「そう? 俺は結構楽しみにしてたけど。」
「やっぱ変わってるね。まぁ、帰り早いし、それだけがいいとこかな。」
「お、青木は楽しみにしてんだ? 俺さぁ、走るの久々でヤバいんだよね。」
「山口は運動得意でしょ? たしかシャトルランとかすごいじゃん。」
「まぁね? 俺が一位取っちゃおうかな?」
担任が珍しくチャイムの前にやってきて、今日の予定を一通り話している。給食は出ずにこのまま走って終わりだそうだ。たしかにここはいいところかもしれない。俺も走った後に英語とかやりたくないし。
時間が空いたので白木くんのクラスに行ってみると、教室の隅で窓の外を眺めてる彼がいた。声をかけようと教室に入っていくと、こちらに気づいたのか振り向いた。
「ついに本番だね。青木くんは緊張してる?」
「うーん。逆に落ち着いてるかもしれない。」
「そうなんだ。もう僕は緊張して、今すぐにでも走りたい気分なんだ。」
「4キロだっけ? 良く覚えてないけど。」
「5キロくらいじゃなかったっけ? さっきそんなこと言ってたような気がするな。」
「まぁ、どうせ今から何かやるのは無理だし、どっちでもいいや。」
「ははは。そうかもね。」
校内放送で生徒が校庭に集められた。大半はダルそうにしてるけど、少数のガチ勢は今から準備運動を始めていて、空気が二つに分かれているような感じがした。白木くんも準備運動を欠かさずにやっていて、だいぶガチだ。
「青木さ、一緒に走らない? ペース合わせるからさ。」
「いいね。てかそれって置いてかれるやつじゃん。」
「はは。マジで一緒に走ろうよ。」
「じゃあそうしようか。」
どうせ一緒に走らないんだし、適当にオッケー出しておこう。俺も今日まで二週間ほぼ毎日走ってきたけど、中学生ならそれぐらいは運動してるだろうから、上位はおそらく無理だろう。ただ半分より上に行けたらいいなぁぐらいにしか思ってない。
校庭に並ばされ、みんなで準備体操をするらしい。最近すっかり冷え込んでいるのに半袖で外に集められていた。寒さで縮こまりながらも両手を伸ばして、体操の隊形に開いていくが、風が吹くと伸ばしていた手を引っ込め、腕を組む。サミィ!
「それでは皆さん。寒さに負けずに自らの全力を出し切れるように頑張ってください。」
どうやらそろそろ始まる。さすがに緊張してきた。さっき一緒に走ろうと言ってた山口はどこかに消えてしまい、走る前からはぐれてしまった。
パァン!
スタートの合図だ。まず、校庭を二周してから外に出ていくようだったが、速い人はもうすでに一周を終えている。おそらく後半失速するんだろうな。
塊になっていたところから抜け出し、一応上位を目指すだけ目指して走り出す。白木くんにもらったアドバイスを思い出しながら、ピシッと姿勢を良くしながら。
学校から出ると朝にみたカラーコーンとPTAの人がコースを外れないように誘導してくれている。こんなに寒いのにご苦労さまだ。
俺は急ぎすぎないようにマイペースに走っていたが、大体2キロを過ぎたくらいで、疲れて呼吸が激しくなり、足が重たくなってくる。そういえばいつもはもっと遅い時間に走っているので、こんなに寒いのには慣れていない。走っても走っても向かい風が吹くので体が冷えるし、背中が風から逃げるように曲がっていってしまう。
自然と丸まってしまう背を伸ばして、多くの空気を体の中に取り込むようにする。取り込む空気も冷たくて、鼻水が出そうになるが、まぁ、気にしないことにした。
走っていると3キロ地点を教えてくれるカラーコーンが立っていた。どうせなら順位は高い方がいいので、ラストスパートをかけようと思い、スピードを上げていくと前方にいた数人を抜くことができた。その中には山口もいて、誰かと一緒に走ってるみたいだった。混ざろうかとも思ったけどせっかくだし行けるところまで行くことにした。
脇腹が痛くなってきたので歩こうか迷っていたけど、1キロぐらいならと走り続けていたが、4キロ地点を示すカラーコーンが見えた時には流石に走るのをやめた。そういえば今日の朝、白木くんが5キロだよって言ってたな。俺は4キロのつもりでラストスパートをかけたけど、5キロだったらしい。
後ろから山口達がきて、歩いている俺の背中を押して、走るようにうながした。だいぶ楽になってきたので一緒に走ることにしたが、流石に向こうも疲れているようで話とかはしなかったけど、それでも一人で走るよりは楽しい。
校内に入るとすでにゴールをした人たちが座り込んでいた。そこには白木くんもいて、大分前にゴールしたのか息もあんまり上がってない。こちらに気づいた彼がなんとなく応援してるような素振りをしてくれた。
てっきりこのまま一緒にゴールするもんだと思っていた山口達は、校庭に入った瞬間知らん顔して走って行く。それに追い付きたいと思っていたが、さっきのミスでもう満身創痍だった。
無事にゴールをすると、邪魔にならない場所に座り、色々と反省する。あぁ、俺はなんてバカなんだ。冷静になって辺りを見るとまだ、ゴールしてない人の方が多いように思えた。多分半分よりは上だろう。
「おつかれさま。初めて君を見た時よりも早くなったね。」
「はぁはぁ……そりゃ毎日走ってたしね。でもちょっとミスった。」
「どうしたの? 何かあった?」
「ラストスパートをミスちゃって……4キロだと思ってたから、3キロ地点から全力で走ってたら、実はまだあったていう。」
「あぁ、そういえば今日の朝も4キロだと思ってたね。」
「教えてくれてたのに間違えちゃったよ。」
「ははは。もし分かってたらもっと順位上がってたかもね。」
「まぁ、しょうがないか。あ、そういえば一位は取れた?」
「多分だけどね? 一着だと思う。」
「流石だね。おめでとう。いやぁ! 取ると思ってたよ俺は!」
「本当かな? まぁ、ありがとう。」
「オリンピックとか出れるんじゃない?」
「はは。無理言わないでよ。」
白木は先生に呼ばれて、朝礼台の近くまで歩いて行った。一位を取ると思ってたのは本当だったけど、その理由までは話せない。
最後の一人がみんなに応援されてゴールする。これで今日はもう帰るだけ、最後に表彰式で白木くんが表彰されている。恥ずかしそうにしてたけど、どうやらぶっちぎりの一位だったらしく、すげぇ褒められてる。
持久走大会も無事に終わった。結果は教室に戻れば聞けるらしく、疲れた足で階段を上って教室に向かう。もうやることもないので帰りの支度をしながら先生を待つことになっていた。
「青木、思ったより速いね。山口とおんなじぐらいだったんでしょ?」
「実はランニングが趣味だからさ。ちょっと練習もしたし。」
「へぇ、あんたって結構努力家だよね。なんか意外な感じすごいするわ。」
「昔は努力とかしたことなかったけど、最近いろいろあってね。」
「そうなんだね。」
先生がやってきて、一人一人名前を読み上げると小さな紙を配っていた。どうやら順位が書かれているらしく、すこし緊張しながら呼ばれるのを待っていると青木と呼ばれた。
見ると学年全体の半分よりは上で、努力した甲斐がありました。ありがとう。自分。その紙を渡されたやつから勝手に帰っていいということなので、紙をポッケに入れて、帰宅する。
階段を上がる時も辛かったけど、なんだか降りる時の方が怖い。手すりをしっかり掴んで、重たい脚を慎重に下ろして行く。下駄箱でもふらつきそうになり、手をしっかりと壁につきながら、靴を履き替えた。
土手では先生達がカラーコーンを片付けていて、横を通るたびに声をかけられ、挨拶を強要された。服が汗で濡れて気持ち悪い。家に帰ったらシャワーでも浴びようかな。
持久走大会も終わり一安心したが、俺にとって本当に大変なのはこれからだ。なんとか上手いこと伝えてあげて、白木くんをオリンピックとかのなんかすげぇ大会に出そう!
まぁ、多分何とかなるでしょ。
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