15

 

「うん、分かった。三日後ね。分かった。それじゃぁ。」


 深夜に電話がなったので、取りに行くと両親からだった。いつも年越しの前にはやってくるのだけど、正月を迎えずにそのまま海外に戻る。今回も二泊三日で泊まっていくだけだ。俺の両親は海外で車から歯ブラシまで幅広く、いろいろな物を売り歩いてると聞いてる。忙しい分、収入は良いみたいだ。


 俺の誕生日と両親の結婚記念日は日にちが近いので、両方を同時に祝うために必ず帰ってくる。プレゼントは両親がお土産に買ってきた奇妙な海外の置き物が多い。俺が欲しいと言う前に買っているので、完全に両親の感覚で贈られてくる。


「そろそろ帰ってくるんだね。君も久しぶりでしょ?」

「はい、でもおじさんも会うの久しぶりなんじゃないですか?」

「え、僕は会わないよ。」

「一応、何でか聞いても良いですか?」

「気まずいじゃん! 何かさぁ、会いたいけど良いや。色々面倒だしね。」


 ずいぶん消極的だな。でも普通に考えたら会えないか。


「そういえばさぁ、あれ買った?」

「あれって何ですか?」

「買い物リストに載ってたじゃん。ステキなプレゼントって!」

「あ、あれって両親に送る物だったんですか!? でも何で。」

「だって、結婚記念日でしょ? 君もさぁ、本来はそういうことを自分からやりだす年なんだよ。」

「普通は反抗期まっしぐらな年齢だと思うんですけど。」

「まぁ、でもプレゼント買っておかないとね。三日後でしょ? 明日から行かないと。」

「いや、俺、明日学校ですよ。てか早く寝ないと。」

「あ、今日土曜じゃなかったけ?」

「違いますよ。俺もう寝ますね。起こしてくださいよ!」


 すこしは時差のことを考えて電話をしてほしい。寝ていたところを起こされてしまった。


「あのさ、親にプレゼントとかってしたことある?」

「え、ウチ? ないよ。そんなことする奴いんの?」

「俺は毎年さ、母の日とか、あと誕生日とかに花とか贈ったりするなぁ。」

「すごっ、やっぱめっちゃ偉いね山口って。」

「普通だろ、他にもやってる奴結構いるよ。青木は今までない?」

「俺んとこは親がいつも海外に居たからあんま、そんな機会が無かったなぁ。」

「へぇ、ユウトの親って海外で働いてるんだね、」

「うん、まったく帰ってこないけどね。」


 この年だとみんな反抗期だと思ってたけど結構贈るやつはいるらしい。山口のまわりにそういう人間が集まってることもあるだろうけど、マジで一人もやってないと思ってたから、意外だ。


「え! 白木くんも毎年やってんの?」

「うん、いつも姉さんに渡しなさいって言われてやってるんだ。」

「へぇ〜、みんな偉いんだなぁ。」

「みんな? みんなって青木くんの友達のこと?」

「まぁ、そうだね。あと友達の友達も。」


 うわぁ、これやった方がいいのかな。でも何渡せばいいんだろう。親が欲しがってるものなんて分かんないよ。山口はお花を渡してるって言ってたけどそれは流石に無理かもな。色々とキツイ。


 家に帰っても何も思いつかない。いきなりプレゼント渡せって言われても分からんよ。何か聞く方法はないだろうか。おじさんに聞いてみるか。


「おじさん? あのさ、ウチの両親って何が好きなの?」

「知らないなぁ、でもプレゼントは自分で選んだ方がいいんじゃない。」

「えー、でも何贈ればいいのか分からん。」

「分からんか、なんでも何でも喜ぶと思うよ。」


 夜時にも考えてみたが、そもそもプレゼントを買うのが恥ずかしいな。どうしようかと悩んでいるといつの間にか両親が帰ってくる日になってしまった。もちろんまだ買えてない。たしか夕方に帰ってくるらしいので、もしかしたら学校から家に戻ってきたらもういるかもしれない。


 久々に会う両親に不安はあったが、楽しみでもあった。お土産がいつも豪華で、その国でしか買えないようなディープな物もある。それに二人とも尊敬できる親だ。


 エレベーターから降りて、八階の自分の家に向かう。家の鍵を開けようとしたらいつもとは違う感触だったので、ハンドルを捻ってみるとすでに空いていた。


「ただいまー! 久しぶりだね! ユウト! 愛してるわ!」

「ははは。お母さん、そんないきなりだとびっくりするよ。」

「いやだ。アンタ髪ずいぶん伸びたわねぇ、また切ってあげましょうか。」

「いや、大丈夫だよ。今度行くから。」

「ははは。ユウトは背が伸びないなぁ。てっきりもう越されてるかと思ってたのにな。」

「ちゃんと寝てるの? あんまり夜更かししちゃダメよ! とりあえず睡眠は一番大事だから!」

「ちゃんと寝てるよ。とりあえず、荷物置いてきてもいい?」

「ははは。置いてきなさい。置いてきなさい。」


 いきなり家が騒がしくなってしまった。二人とも海外生活が長いせいかめちゃくちゃ明るい。お父さんはいつも不気味になるくらい笑顔だし、母親が落ち込んだところなんて俺は見たことがない。


「……おじさん……いる?……」


 応答がない。一体どこに隠れてしまったのだろうか。てっきり俺の寝室のどこかで密かに帰るのを待っていると思っていたけど、別の所に隠れたらしい。他にどこか有ったかな。


「おかえり、どこに行ってたんだっけ?」

「そんなのもう覚えてないわよぉ! 何ヶ月海外に居たと思ってるの?忙しかったんだから!」


 さっきまで海外に居たはずなのにこんなに元気なのはなぜなんだ。大きな旅行カバンからいろいろなお土産を引っ張り出してくる。缶詰や置物など有りがちなものから、異臭がする紙などの怪しげなものまで入っている。


「これってどこの写真?」

「これはたしかスペインじゃなかったかしら! ほら、ここに生ハムがあるし。」

「ははは。これはアメリカだよ。アメリカでスペイン祭りがあった時に僕たちも行ったじゃないか。」

「じゃあスペインみたいなものね。あ! この写真面白いのよ! 見てみて。」

「なにこれ? よく分からないけど。」

「雪男よ! 雪山に登山した時に撮った写真の中にいつのまにか紛れ込んでいたのよ!」

「ははは。お母さん、これはたくさん毛皮を着込んだガイドさんだってみんな言ってたじゃないか。」

「二人とも何で雪山にまで行ったの? 登山なんてしたことないでしょ?」

「ははは。実は去年からハマっちゃってね。暇な時は登山をしてるんだ。」

「アンタも今度行きなさいよ! 暇な時にでもさ!」


 そのまま楽しい時間は過ぎていき、あっという間に十二時を超えていた。


「あれ? アンタ明日は学校でしょ? 早く寝ないと!」

「あー、そうだ。じゃあ寝ようかな。」

「歯は磨いた? 歯だけは大切にしないとダメだからね!」

「あ、そうだ。日本で何か欲しいものってある?」

「ははは。欲しい物かぁ。そうだな。なんか煎餅みたいな日本ぽい食べ物が食べたいなぁ。」

「何かそれ以外ない?」

「いきなり言われても、何も思いつかないわよ!」

「ははは。もし欲しい物があったら自分で買うから心配しないでいいよ。気を遣ってくれてありがとね。」

「じゃあ、おやすみ。」

「ははは。おやすみなさい。」


 本人に聞いてもダメだった。やっぱり自分で考えるしかないのかな。明日の内に買いに行かないと明後日にはもう海外に行ってしまう。流石に早過ぎないか? ていうか学校があるから買いに行けなくないか。きっといろんな話がお互いにあるだろうし、放課後も無理だろう。


 そういえば塾やスマホの話をしなければならない。今のところスマホが欲しいとはあんまり思えないからそっちはどうでもいいけど、塾には行っておきたい。これもうプレゼントを買いに行く暇ないかもな。


 なんでもいいから買っておけばよかったかもしれない。どうせ年末に帰ってくることは分かってたんだし、そう思うと無念だ。


「あ……まだ起きてる?……」

「あ、はい。おじさんですか?」

「……もっと静かにして……元気にしてた?……」

「あ、はい……二人とも元気そうでしたよ……」

「良かったね……それじゃあおやすみ……」

「おやすみなさい……てかどこにいるんですか?」


 返事がない。やっぱりこの部屋に隠れていたのか、おじさんも二人の様子が気になるんだろうな。別に顔を見るぐらいなら大丈夫だと思うけどな、ダメなのかな。


 おじさんの気配を感じとろうとしてもまったく分からない。一体どこに隠れているんだろうか。

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