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「これ、夏休みの予定表だから。大変かもしれないけど、今が一番大事だからさ。」
塾で夏休みの予定表が配られる。いや、夏休みではなくて、夏の予定表と言ったほうが正しいかもしれない。ほぼ毎日塾がある。本格的に受験シーズンに突入してしまった感じだ。
これでは夏にしようと思ってたことが、出来なくなってしまう。合格祈願とか、その他色々なお願いをするために、神社へ行こうと思ってたけど、これじゃあ無理だ。無理ってことはないけど、めんどい。
「これマジ? ヤバ。無理なんだけど。」
上田さんが独り言で愚痴ってた。どんよりとしたような空気になっていく、教室内は暗い空気になる。
そのまま、その日の授業は終わった。帰りの支度をしていると山口が話しかけてきた。
「これヤバくね? 俺、もう死にそうになってんだけど。」
「俺もさ、夏休みの予定、色々考えてたんだけど、ダメになったかもしれない。」
「何やろうとしてたの?」
「合格祈願に神社とか行こうかなとか思ってたけど、予定表みたら行くのめんどくなってきちゃった。」
「あぁ、そっか。てか意外だな。そういうの信じない方だと思ってた。」
「いや、お守りをさ、ちょっと買おうかなって思ったから。そのついでに合格も願っとこうかなって。」
「普通逆じゃないか? でもなんでお守り?」
「いやぁ、別にたいしたことじゃないよ。」
「そっか。まぁいいや。夏休み頑張ろうぜ!」
お守りを買う理由は、言わなくていいなら言いたくないけど、別に話してもいいかなぁとか思ってた。けど、山口はそれ以上深くは聞いてこなかったので、お守りの理由は山口には言わなかった。
「あ! じゃあさ! 夏休みにみんなで行かない? 予定合わせてさ。」
「でも、みんな忙しいでしょ。大丈夫かな。」
「少なくとも俺は行けるからさ! 森川あたりも来てくれるんじゃない? 暇そうだし。」
「暇じゃねぇーよ。なんの話?」
「神社に行こうって話。」
「へぇ。合格祈願? そんなことするより勉強した方が確実にいいぞ。」
「いや、予定表見ただろ? 勉強なら死ぬほどやるからいいんだよ。」
「たしかになぁ。まぁ、考えとくわ。」
「オッケー! ほらな? やっぱ森川暇だったろ?」
「いや、暇じゃねーよ。てか、行くとは言ってねぇよ。」
「お前は絶対くるね! もう行くって言ってるのと同じだから。森川の場合は。」
俺も行くとは言ってないよ、山口。まぁ、行くけどさ。
帰宅してから気付いたけど、どうやって連絡取ろうかな。俺がいない間にどこに行くのかとか、決まってしまうのかもしれないと思うと、複雑だし、山口達もやりづらいんじゃないかな。
てか、どこの神社に行くとか俺が決めないと行けなかったりする? もし、塾のみんなを誘うとなるとそこそこの人数になりそうだな。結構大変なことになってしまった。これはめんどい。
ちょっとネットで調べてみようかな。お守りがある神社が近くにあればいいんだけど。
パソコンと向き合って調べ物をしているとおじさんに話しかけられた。
「あれ? 何調べてんの?」
「この間言ったと思うんですけど、神社行こうと思ってるんですよ。それで交通とか調べてるんです。」
「言ったっけ? でも近くにあるでしょ?」
「あれですよ。あの、お守りを買いに行ったじゃないですか。でも無かったていう……」
「そういえばそんなことあったね。」
「で、多分なんですけど、大きい神社じゃないと売ってないと思うんですね? お守りが。だから調べてるんですよ。この辺りで一番近い場所。」
「うーん。そっか。力になれそうにないなぁ。僕、神社なんて行ったことないから。」
「ありますよ。七五三だかなんだかで行ったじゃないですか。袴着て。」
「うわぁ! 懐かしい! そんなこともあったねぇ。」
おじさんは昔を思い出しているのかボーッとし始めた。無視して調査を続けていると、いつも行っているショッピングモールから出発してるバスの先に神社があることを発見した。それの名前を検索してみると、神社のホームページがあったので、開いてみる。
「お? 見つかった?」
「あ、はい。」
売店が開いている時間と何が売っているのかが詳しく書いてあった。お守りも数種類あって、交通安全や学業成就など、欲しいものは大体あった。
自分の中ではここで決まりなんだけど、みんなに確認を取らないといけない。断るような理由もないと思うけど、一応確認を取らないと不安だ。こんな時にケータイがあれば……
そういえば白木くんにもお守り買ってみようかな。てか、お守りをプレゼントって重い? なんか怨念がこもってそうだなとか思わないよね? 親へのプレゼントとしても正しいか分かんない。
買い物リストにはステキなプレゼントって書いてあったけど、お守りってステキか? よくわからん。
「あのさ、山口? 神社のことなんだけどさ。」
「お! 一応、塾のみんなに伝えておいたからさ。あとはお前が決めてくれればオッケーだよ。」
「ありがと。でさ、いつも行ってるショッピングモールあるじゃん。そこの先にさ、神社があるらしいんだけど、そこでいい?」
「分かった。言っておくよ。で、いつにすんの?」
「それはみんなの予定聞いてからにしようかな。分かったら俺に教えてくれない?」
「オッケー。てか、青木はいつ空いてる? それも教えてよ。」
「まぁ、多分いつでも空いてる。」
「お前も暇なんだなぁ。森川も予定全部空いてて笑ったわ。」
「ごめんね。なんか巻き込んじゃって。」
「いや、いいよ別に。」
なんか本格的に話が進んでしまっている。日程とかは山口が決めてくれたりしないかな。
その後、山口と打ち合わせをして、八月に入る前に行こうということになった。参加メンバーは六人。山口、上田、森川、あとはほとんど知らない人だ。
どうやら山口の友達らしく、そういえば何度かつるんでるのを見たことがある気がする。話したことがないわけではないけど、どこの中学かもわからない。
はっきり言ってしまうと、山口が全部やってくれた。俺はみんなと連絡を取る手段が無かったので、塾や学校以外では話をすることができない。
「いやぁ、やっと決まったね。ほとんど山口がやってくれてたけどさ。」
「青木が神社とかバスとか調べてくれたんじゃん。青木がケータイ持ってれば俺はなんもしてなかったよ。」
「そう? 早く携帯欲しいな。せめて、高校行くまでには貰いたい。」
「さすがにそれは大丈夫でしょ? まぁ、知らんけど。」
「だといいけど。」
いつだったか忘れたけど、両親は夏休みに帰ってくるって言ってた。あんなことがあった後でも、帰ってきてくれるかは分かんないけど、その時に頼んでみようかな。でも、そんなこと頼んでいいのかな。
二人だって、家でゆっくりしたいはずなのに、自分勝手に携帯買って! なんて言われたら嫌だろうな。でも、高校までに買わないと、白木くんとかと連絡が取れなくなりそう。
間違いなく疎遠になるだろうな。家の場所は知ってるけど、いきなり訪ねたら失礼だろう。それに、高校からはガチで陸上に取り組むみたいだから、忙しくなってそう。
はぁ。めんどくさい。
まぁ、いいか。とにかく今はちゃんと計画を立てれたことを喜ぼう。いろんなことは後で考えよう。
久しぶりに山口としっかり話してわかったけど、この人いい人だ。俺がケータイ持ってないってことを馬鹿にするわけでも無かったし、何故かノリノリで手伝ってくれてたし。
おじさんは山口のことをほとんど知らないと思うと不思議だな。未来からやって来てることも相当不思議ではあるか。
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