23

 

「もう、年末って感じだね。今年はどうだった?」

「なんかずっと忙しかったな。昔みたいに早退とかして気楽に生きてたい。」

「でも、僕が来てからでしょ? だったら今年の半分はグータラしてたんじゃない?」

「たしかに。そんな気は全くしないけどな。てか、未来の自分がやって来るってヤバいよ。」

「ははは。いいじゃない。そんなことがあっても。」


 大晦日も近い、学校が休みとは言えやることはたくさんあるが、好きにできる時間は増えた。


 この間はずっと欲しかった小説と、塾で持ってた方がいいと言われた英語辞典を、プレゼントで貰った図書カードで買ったり、買い物のついでに初めて一人でファミレスに入ってみたりと色々なことを試してる。パスタが美味しかった。


「この間さ、ハンバーグ食べたじゃん? あれ良かったよね。」

「僕もびっくりしたよ。あんなり美味しいとは思わなかった。」

「その後、俺がランニングしてる間にさ、おじさんが作ってくれた煮込みハンバーグも美味しかったけど、やっぱり初めて食べた時が美味しかったね。」

「それは仕方ないよ。材料が足りなかったんだし。」

「食べたいものあったら言ってよ。料理楽しいかもしれないし。」

「それなら、カレーとか? 最近レトルトでしか食べてないしさ。」

「いいね。今度作ろうかな。」


 忙しいと話す時間がなくなるから、上手くいかなくなっちゃうのかもしれない。


「そういえば! 買い物リストってやってる? あとは何が残ってるんだっけ?」

「えーと、ちょっと待ってね。紙持って来るから。えっと、スマホ、服、プレゼント、花束? これぐらいかな。」

「服買いに行こうよ。なんか年末だしいろいろやってそうじゃない?」

「それなら年始の方がいいんじゃない? なんか良くやってるじゃん。いろいろと。」

「そっか。でもさ、服とか買いに行ける? 僕さ、あそこらへん怖いんだよね。なんか。」

「俺もまだ怖いかもなー。でも服欲しいしな。買いたいな。」

「友達とかと一緒に行ったらどう? オシャレそうな子とかもいるじゃん。」

「もし、そうなるとしても流石に今は無理じゃない? だってもう年末だよ?」

「服買いたいって話から上手いこと出来ないかな。別にさ、急いでるわけじゃないんだしさ。」

「明日か明後日で塾も終わりになるからさ、その時までになんか話してみようかな。」

「頑張ってね!」


「じゃあ年明けにでもどっか行くか! いやぁ今から楽しみだな?」

「それじゃよろしく。今年もお疲れ様。」

「良いお年をだっけ? まぁなんでもいいや! じゃあな!」


 帰り道寒すぎてマフラーが欲しくなった。しかしホントに山口と買い物に行くことになっちゃったな。仲良くなったもののちゃんと面と向かって話したことないし、考えてみれば共通の話題とかないじゃん。誘ってみたはいいけど、失敗だったかな。まぁ、いいけど。


「ただいま。あ、山口と服買いに行くことになったよ。」

「え! 今年もうないよ! 年内に行くの!?」

「そんな訳ないじゃん。年明けたら一緒に行くんだってさ。多分次あった時に色々話すよ。」

「そうなんだね。おめでとう! いやぁ、僕が服を買いに行くなんて驚きだなぁ。」

「てか、何話せばいいと思う? 山口とさ、会話が弾むとはあんま思えないんだよね。」

「それは確かにね。でもなんとかなるんじゃない? 確か……いい人そうだしさ。」

「それは間違いないけどね。」


 いきなり二人で買い物か。一人で服買いに行くよりはマシだけど、それも何かな。でもそんなこと考えんのおかしいかもしれないな。だって友達なはずだし。


 その晩は雪が降り出してきた。寒さは増していたが、なんとなく年末という気持ちがなかったところに降ってきた雪は今年の終わりにも思えた。


「蕎麦茹でたけど食べるよね。めんつゆはあったよね。」

「うん。あるよ。しかし大晦日か。なんかまだ十月って気分だな。」

「分かる。この間さ、雪が降ってきた時に初めてなんか年末感あったよね。この時期ってあんま降らないけど。」

「年末だからって何がある訳でもないしね。仕方ないのかもね。」


 テーブルに座ってテレビを見る。面白いところがあれば二人で笑うし、つまらないところは二人で話す。全く同じところで同じ反応をするので、やっぱり自分なんだと年末になって改めて思う。今年の総括なんてなんもないけど、それでも未来から自分がやってきたことだけは、未だに意味がよく分からないし、特別な事のように思える。


 いつもは一人だった。大晦日、日を跨ぐまで起きていても何もなかった。でも、今年は違う。


 時計の針が進むにつれて、お互いにソワソワし始めて、テレビにも集中出来ないような、そんな気持ちに変わってくる。その時が来たら、どっちから口を開くんだろう。眠たいが、興奮しているような高揚感が湧き上がってきた。


 もうそろそろだ。今年の終わり、そして来年の始まり。


「あのね。一つ言って置いてもいい?」

「え、何? いいけど。」

「ありがとね。ホントに。たくさん頑張ってくれてさ。しかも僕は何もしてないのに。」

「どうも。でも俺の為でもあるから、別になんとも思ってないよ。」

「そう。何も出来ないのが悔しくてさ、もっと色々なことを教えてあげたかったし、教えてあげれると思ってたけど、全然ダメだった……僕はなにも知らなかったんだよ。結局はさ。」

「そんなことないですよ。だって俺はおじさんに会ってから努力とかするようになったんだし、それに書いてもらったじゃないですか。買い物リストも。」

「それも結局は僕の為だよ。僕がやりたかったり、欲しかったり、そんな、僕の自分勝手な……」

「いいじゃないですか、自分勝手でも。だっておじさんのやりたいことは俺がやりたいことでしょ? おじさんが欲しいものは俺が欲しいものだし、それなら俺の為になってます。」


 沈黙が流れている間も針は進む。このまま年明けかぁ。ある意味思い出に残るだろうけど、なんか嫌だな。


「分かんないんですよ。」

「……」

「自分が何したいかとか、何をした方がいいとかなんて分かんないです。なんで、教えてもらってありがたかったです。すごく。」

「そう……」

「言われてみてハッとすることがあるんですよ。自分の悪いとこはなんか目を逸らしちゃうというか、それなのにやりたい事とかもよく分かんなかったり。」

「うん。」

「そんな感じですよ。あと少しで新年なんで、明るくいきましょうね! ネガティブなのはおじさんの悪いところですよ。」

「ごめんね……あ、もうこんな時間になってたんだなぁ……せっかくだしさ……カウントダウンでもする?思い出作りにさ。」

「それは流石にやめとこうかなぁ。」


 カウントダウンがテレビから聞こえてくる。はぁー、来年も忙しいんだろうな。もう疲れたよ……それでもなんとか踏ん張っていくしかないのかな。なんか、憂鬱だ。


 年明けと同時に画面いっぱいに金と銀のテープがぶちまけられる。なんか盛り上がってるな。


「あけましておめでとう。今年も宜しく。」

「こちらこそあけおめです。来年、じゃねぇや。今年も頑張るんでよろしくお願いします。」


 ついに、新年だ。ホントにそんなにしないよ。マジでなんか年明けじゃない気分、おじさんも言ってたけど、まだ十月じゃないの?


「あけましたけど、別になんてことないですね。なんかフツーというか。」

「そうだね。あ、聞こえてきたよ。」


 ゴ〜〜ン


 除夜の鐘が聞こえてくる。煩悩を流してくれるらしいからありがたく聞いとこ。


 ゴ〜〜ン


「これからもよろしくね。僕は絶対に君の味方だからさ。」


 ゴ〜〜ン


 味方になってくれるみたいだし、今年も頑張ろうかな。


 ゴ〜〜ン

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