17
今日も朝からホットケーキ。苦労して飲み込んだ。
「もう、学校? すこしぐらい遅れてもいいんじゃない?」
「うーん、でも……」
「うん、うん。分かってるわよ。行ってきなさい! 歯は磨いたんでしょうね?」
「磨いたよ。それじゃいってきます!」
「ははは。いってらっしゃい!」
次に会えるのはいつになるだろうか。その時にはちゃんとプレゼントを渡せるようにしないといけない。まぁ、色々考えてみるか。
下駄箱で靴を履き替えていると、佐山レイナさんが廊下を歩いていた。そういえば、俺この人のこと好きだったな。最近はあんまり考えなくなってきていたけど、こうして改めてみると美人だな。てか、もしかしたら彼氏とかいるのかもしれない。これだけの美人なら。
「もう年末だね。今年早すぎだよね? 年々早くなっていく気がするな。」
「俺は色々あったから結構遅く感じた。白木くんは冬休みとかなんかするの?」
「年末は毎年、おばあちゃんの家に泊まってるよ。お蕎麦食べたりとかさ。」
「じゃあ、お正月はランニングも休みか。」
「流石にちょっとは走るだろうけど、今よりはね。」
流石にってなんか凄い。もはや日課とかじゃなくてやらなきゃいけないことになっているのかな。年越し蕎麦か、俺も茹でて食べようかな? めんどそうだしいいかな。てかザルあったっけ?
「青木くんもさ。お正月はお父さんとか帰ってくるんでしょ? 久々だね?」
「あ、実はもう帰ってきたんだよね。」
「そうなんだ! 話を聞くだけで疲れちゃうくらい忙しいみたいだもんね、そりゃお正月は休みか。」
「いや、あのさ。もう行っちゃったと思う。今日からまたどこか行くらしいから。」
「あ、そうなんだね。忙しいんだ……」
「いやいや、一人だと楽でいいんだよ! 夜何時に寝てもいいしさ。」
うわぁ。なんか空気重くなってるぅ。別に慣れてるからいいんだけどさ。白木くんは家族で帰省か。俺はおじさんと二人で年越しだよ。なんか悲しい。
「まぁ、年末年始はテレビでも見て過ごすことにするよ。深夜でも面白いの沢山あるから楽しみだな。」
「ははは。ちょっとずるいかも。うち年越しの時いつも眠っちゃってるんだよね。」
「もったいない! せっかく面白いのになぁ。」
白木くんと別れを告げ、教室に戻ると山口達が数人で集まって話をしていた。上田さんに呼ばれて半分無理やり会話に入っていくことになってしまう。
「ユウトも見てよ! これさぁ、タクヤがやったんだよ? スゴくない?」
「青木! この髪さ、マジでカッコよくね? なんか都会って感じするなぁ。」
「凄いね。これ森川くんがやったの?」
「いやぁさ、でも俺が全部やったわけじゃないのよ。もうほとんど親父がやってたわ。」
「年明ける前に髪切りたかったんだよぉ〜。やってくれてありがたい!」
「そういえば親父も最近忙しそうにしてるわ。また伸びたら俺の実験台になってくれよ?」
改めて見てみると、ホントにプロがやったんじゃないかって思うくらい整っている。都会のイケてる大学生って感じがする。あんま知らないけどね。
「お前、クソほど髪伸びてるのな。流石に切った方がいいんじゃね?」
「俺? 確かに伸びてきたね。それじゃ、そこで切ってもらおうかな。場所ってどこにあるの?」
「ウチ? 結構高めだけど大丈夫か? まぁ、少しなら安く出来るかも知れんけどよぉ。予約取るなら俺に言ってくれればいいよ。」
「まぁ、ユウト伸びすぎだしね。切ってもらいなよ。」
「そうだよ! 俺を見れば腕がいいのは分かるだろ?」
「「そうだよ! 切りなよ!」
なんかこの空気怖。二人がいい人だってのは知ってるけど、周りの人達なんか怖いな。お金は多分大丈夫だけどさ、なんか敵陣に乗り込んでいく感じがして嫌だな。美容室とか入ったことないぞ。
「俺に話しかけてくれたらいいからさ。ネットかなんかで調べてみてから決めた方がいいかも知れんな。高いから。」
「いや、切ろうかな。どうせ年明けまでには切ろうと思ってたし。」
「お、いいね。親父に聞いてみるか。ちょっと周りみててくんない?」
そういうと携帯を取り出して何か打ち込んでいる。普通に学校に持ってきてるんだな。
「じゃあ今日の放課後もっかい来てくれな? その時までには日にちとか決まってるだろうからさ。」
なんか髪切ることになってるんだけど、今日の朝の俺はそんなこと全く考えてなかった。なんか空気に流されてしまった感はあるけど、別に髪切ること自体は前から考えていたから、良しとしよう。
「そんじゃ、来週の月曜の六時辺りに来てくれればいいからさ。よろしく。」
その後、詳しい場所や値段などを聞いてから別れた。めちゃくちゃドキドキするな。美容室って俺みたいなのが入っていいの? てかみんなに踊らされてるような気もする。
「青木も切るんだって? 俺的にはお前は整えたらカッコよくなると思ってるんだよねぇ。だから楽しみだわ。」
「ウチも楽しみにしてるよ。てか、なんか無理やり行かせたみたいになってごめんね、断りずらかったんじゃない?」
「いや、いいよ。髪切りに行こうとしてたのはホントだからさ。」
「森川もお父さんも上手いから大丈夫だよ! 俺からも安くするよう頼んどくからさ。」
「ははは。じゃあよろしくね?」
せっかく高いとこに行くなら親に見せたかったな。なんかタイミング悪いような気もする。下校途中に自分の髪を引っ張ってみるとやっぱり長い。もしかしたらショートの女の子より長いかも知れない。この前切ったのはいつだったかな。五ヶ月くらい前に千円カットで切ったのが最後か。
「ただいま。」
「お、おかえり! いやぁ、今日もお疲れ様! ホントにえらいよ」
「てか、おじさんどこに隠れてたの? 全く分かんなかったんだけど。」
「まぁまぁ、僕も長いこと、この家で暮らしてたからね。君の知らないような場所も沢山知ってるんだよ!」
「そういえば、今度の月曜に髪切ることになったよ。なんか友達の親が美容師らしくてね。」
「それはいいね! いやぁ、いつまでそんな長い髪でいるんだよってね、僕もずっと思ってたんだ。」
「俺も思ってたよ。でもなんか苦手なんだよね。髪切られるのって。」
「分かる分かる。切り立てってさ、絶対なんか失敗したって気持ちになるよね?」
「そうそう。鏡をずっと見てるのも嫌だしさ。なんか今から行きたくなくなってきたな。」
「ダメダメ! 切らないと僕が坊主にしちゃうよ?」
「ははは。でも、もう予約取ってあるから坊主にはならないよ。」
「えー! はや! 今日学校サボってた?」
「その友達がスマホで連絡とってくれたんだよ。どうやらもう取れてるっぽいよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
ふぅ、今日も今日で疲れたな。リビングのテレビをつけた。喉が乾いていたので、台所に水を取りに行くとメモが残っている。
「学校おつかれさま!
レトルトばっかり食べてるみたいだったから
野菜を沢山買っておきました。
くさらない内に食べてね?
それと最近ガンバってるって先生からきいてるよ!
あんまり無理しないでいいから、
ケンコウにだけは気をつけるようにしてください!
私たちも気をつけるからさ。
ユウトが元気になるように遠いところから
念を送っておくので受け取るように!
ずっと、元気でね!
母と父より。」
ぼんやりとしてくる。もしかしたら、さっきまでこの部屋にいたのかも知れないな。久しぶりに野菜室を開けると、入りきらないぐらいの野菜が入っている。他にもお肉や調味料などを買ってくれていた。量からして多分二人で買いに行ってくれたんだろうな。俺よりも疲れてるはずなのに申し訳ない。
二人の為にも頑張ろうか。年末だからかは知らないが、こんな俺にも予定が入ってきて忙しくなっている。色々と越えなきゃいけない壁もあるが、まぁなんとかなるだろう。
冷蔵庫にあったジュースを飲みながら、宿題を始めた。
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