29
「ヤッホー、今ハワイだけど、元気ー?」
「元気だよ。けどどうしたの? いきなり。」
「実はね! 夏にも帰れることになったのよ! 今から楽しみにしておきなさい!」
「あ、じゃあ、よろしく。」
「冷たいわね? せっかく帰れるんだから歓迎してよぉ!」
「それじゃ、もういい? 切るよ?」
「じゃ! 元気でね?」
夏に帰ってくるって言われてもまだ冬だぞ。あと半年以上あるのにそんなこと言われてもなぁ。しかし帰ってくるなら出来ることがあるはず。ついに俺もスマホデビューをなんとか済ませたい。理由はどうしようかな塾で遅くなるからとか? でも誰に連絡するんだ?
「なんか夏に帰ってくるんだって。その時にスマホ買ってもらえたりしないかな。」
「帰ってくるんだ。ならさ、この前渡せなかったプレゼントとか渡したら?」
「え。でもちょっと今さら? 遅すぎない?」
「貰ったら嬉しいでしょ。今さらとかないんじゃないかな?」
またこの問題か。この前は直前だったのでダメだったが、今回は時間はある。なにがいいのか頭の片隅で考えておこう。
それより今日は日曜日だ。せっかくの休みをゲームかランニングのどっちに使うか迷っているが、どっちにしよう。ランニングは外が寒くなってきたので、辛い。走っていると暖かくなるどころか、体の冷えが増してくる。だが、最近ランニングを全然してない。
ゲームはやりたい。けど無駄感があってなんか悲しい。楽しいのは間違いないけど半年以上おんなじやつをやってるのでちょっと飽きてる。どうしようかな。ううぅ。
白木くん元気にしてるかな。いつか言ってあげないといけないのは分かってるんだけどね。てか、勉強もしないといけないじゃん! どうなってるんだ俺の生活は! 常にやることが何かしらあるな。
楽したいなぁ。全く努力したくない。俺の代わりに誰かなんかやってくれないかな。空白の時間をつくりたい。別に作ろうと思えば作れるけど。
「どうしたの? 暇そうだね?」
「えー。暇じゃないよー。」
「そうなの? なんか暇そうにしか見えないけど。」
「はぁ。何やったらいいと思う?」
「え? いきなりどうしたの?」
「なーんもやる気起きないんだけど、何したらいいと思う?」
「えー。なんだろうな。うーん、僕も何も思いつかないよ?」
「そうだよねぇ。困ったなぁ。」
脳味噌がどっか行っちゃったみたいに、やる気がなくなった。誰かスイッチ押してくれ! リモコンの電源ボタンを押したらテレビがつくみたいにやる気がオンになればいいのに。
ランニング行こ、なんか悩んでるのも飽きた。体を動かしたい気分だ。白木くんは今日も走ってるかな? 時間的には合わなそうだけど、いつでも走ってるからな。
ジャージと帽子を取りに行くと今度は宿題が目に入る。これもやらないと、ってまたさっきと同じ感じになってる。もうランニングに行こう! それでいいや。体を動かそう。
「ランニング行ってくるね。じゃぁ。」
なかなか最近ちゃんと走れてなかったから、疲れた。明日は学校か、ついでに塾もあるし、風呂入ったらさっさと宿題をやろう。
しかし走るまでの時間無駄だったなぁ。あんな時間って何をすればいいんだろう。白木くんが走ってないと落ち着かないっていってた気持ちが少し分かるような気もする。脳味噌が飛んでった気持ちにならないように走ってるのかも。
好きなことや、やりたいこと。これがあればいいのかな。今までの人生を振り返っても、ゲームとボケーっとしてたことしか、思い出せない。ホントに空虚っていうか、無駄な人生だ。無駄なまま、ここまできてしまった。
今の努力も受験に落ちたら無駄になるし、なんならランニングも無駄だ。ちょっと健康になるだけだろう。肺活量が増えることで日常の、社会人になってからの生活になんの意味があるんだろう。もう持久走大会は終わったよ? どうしたらいいのか分からない。
俺の将来が何にも見えない。例えサラリーマンになっていたとしても幸せになる姿が思いつかない。今から人生が下降線を辿っていって、自分という人間が、誰の記憶にも残らない、くだらない人間になるんだろうなって思う。記憶にも残りたいとはあまり思わないけど、残らないことが、負けのような感覚は分かる。
俺のやりたいことを誰かが教えてくれたらいいのに。俺の生きてる意味を誰かがくれたらこんなに楽なことはないのに。死にたいわけじゃないけど、そこもよく分からない。
「おじさんさ、おじさんがやりたいことって何?」
「僕? 僕は君を立派な人間にすることがやりたいことかな。」
「そう。じゃあ、俺がそれになりたくないとか言ったらどうする?」
「それは、その気持ちはすごく分かるから別にいいかな。そもそも、僕もなんでここにいるのか分からないし。」
「なんか適当に流してたけど、おじさんってなんでここにいるの? どうやってきたの?」
「いやぁ、それが分かったらいいんだけどねぇ。でも、やっぱり君を立派に……立派っていうのはちょっと違うか。なんだろうな。素敵な人間にすること? が僕がここでやるべきことじゃないかな。」
最初からこの世界で生活してる俺には、なんのために生まれたとか、何をしたらいいのかってものはないのかもしれない。ただ生まれただけ。それだけ。てか俺もしかして病んでる?
「気分転換になるようなこと知らないですか? 今日ずっとボーッとしてる気がする。」
「電話があったからじゃない? お母さんから。もしかして頭のどこかで親のこと考えて変になってるのかも。」
「それはあるかもしれないです。プレゼントのこと思い出したら憂鬱になったとか。」
「違うんじゃない? シンプルにさ。会いたくなったとか?」
「……今までそんなこと思ったことないはずですけどね。」
「そんなわけなくない? だって親だよ? しかも君は愛されてる。」
「愛されてるんですかね。ずっと俺一人でこんなところで、俺が邪魔なんじゃないですか? たまに帰ってくるのもめんどくさかったりして。」
「そんな人じゃなくない? 君の両親は素敵な人達だよ。僕は君よりも君の親のことを知ってる。僕がダメになっても、ずっと愛してくれた。多分だけど。」
「なんかキモい話してますね。そろそろ宿題やりましょうか。やっとやる気になってきた。」
「ははは。僕にしか話せないことでしょ? なんでも話していいからね?」
「……考えときます。でも、あんま答えてくれないこともあるじゃないですか。」
「話すのはいいけど、答えられないこともあるよ。」
楽になったような、なってないような。結局何も解決してないな。おじさんが仕事をしてたら、俺もそれを参考に出来るんだけどニートだったんだよな。何も参考にならん。
俺が自分の人生を勝手に決めていいの? 責任重た! やりたくないぃぃぃ。はぁ、どうでもいいから宿題やるか。
塾が始まってからは、宿題の量が倍以上に増えた。今までの勉強がおままごとのようだ。これまでの人生はなんだったんだ。
取り掛かり始めると、時間はすぐに過ぎていく。最初からやっておけば良かった。
「まぁ、なんでもいいよ! 僕よりはマシな人生を歩めるはずだからさ!」
「そんなにダメな人生でしたか?」
「周りから見たら最悪だよ。もう地獄の生活。でも僕は楽しかった。こんなこと言ったら最低かな?」
「うーん。最低ですね。死んだほうがいいです。本当に。」
「ははは……君は遠慮がないね。僕以外にそんなこと言っちゃダメだよ?」
「言うわけないじゃないですか。おじさんが将来の俺だから言ってるんです。サイテー。」
「またか! もぉー。何気に傷ついてるからね! ホントになんでも言っていいわけじゃないから!」
「でも、来てくれてありがとうございます。それだけは本当に思ってます。」
おじさんが働いてない間、何を考えていたのかを考えたことがある。きっと、何も考えてなかったんだろうなと思うと同時に、無力感というか、自分が分からなくなって、怖くなる感覚があるんじゃないかと考えた。
でも……楽しかった。それが聞けて良かった。
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