20
「場所はここだから。バックれたりすんなよ?」
「オッケー。」
「てか絆創膏どした。じゃあな。」
話を聞くと今日美容室に行くことになっていたらしい、そういえばそうだったな。ネットで地図を印刷してくれたらしく、さっきまでそれを見て場所を教えられていた。
そこそこ近場なので徒歩でも行けるだろうか。流石にあの不安定なままで行くのは怖い、自転車はやめておいて歩く。なんか今までなんで自転車要らないとか思ってたんだろ。めっちゃ使うじゃん。
怪我のせいかほとんど話さなかったような人からも声をかけられる。自転車の練習で怪我しましたとはいえないので適当にはぐらかしていたが、山口達に話しかけられた時にはちょっと困った。すげぇ心配してきて理由を言いそうになったが、チャイムに助けられた。
「青木くん、転んだの? それで昨日走ってなかったのかな。」
「そんな感じだね。走りはしなかったけど、体は使ったから、実は今、全身筋肉痛なんだよね。」
「そっか。なにやったの? 部活じゃないもんね。」
「何ってわけじゃないよ、なんか色々やったような。なんもやってないような。」
「そうなんだ。でも今週で冬休みなんだって。早いよね。びっくりしちゃった。」
「俺としては休めるんだったらありがたいかな。」
「ははは。そんな怪我してたら登校とか嫌になるもんね。」
「最近忙しいからさ。塾も行くことになったしね。」
「そっか。来年受験だもんね。」
白木くんって頭良いのかな。成績とは詳しくないから分からないけど真面目そうだから悪いってことはなさそうだけどな。こういうことって聞いて良いのかな。
「ユウトも塾かぁ。ダルイよあそこ。宿題とかマジで多いしさ、先生も熱入りすぎだし。」
「そうなんだ。まぁ、良いよ。多分それぐらいじゃないと俺やらないから。」
「はは。まぁ、ウチも成績は良いしさ。成績は良くなると思うよ。そこだけだね。良いとこなんて、しかも冬休みの間は大晦日のギリギリまでずっと塾なんだよ。頭おかしいよね。」
「そうなんだ。それはめんどいな。」
帰宅して早速美容院に行く支度をする。一番のおしゃれな服を探してきてみたけど、クソだせぇ。これで行くの嫌だな。学生服で行っちゃってもいいかな。それはそれでダサいか。
二つを見比べて、結局学生服で行くことにした。歩きだから時間もあんまりないし、初めての場所なので迷子になっても良いようにもう出かけるちゃおう。玄関まで行くとおじさんが話しかけてくる。なんだ?
「どこ行くの? 自転車練習しない?」
「前に言ってなかったけ? 美容院行くんだよ。予約だから遅れないようにしないと。」
「学生服で行くの? 大丈夫?」
「出来るなら服で行きたいけど、別に大丈夫でしょ。だって同級生だってことは向こうも分かってんだしさ。」
「やっぱり早く服買った方が良いよ。だってなんか変じゃん。」
「まぁ、今度ね。今はこれで行くしかないじゃん。てか別に問題ないと思うけどな。そんなにおかしいならやめるけど。」
「うーーん。あの服よりはマシなのかな。僕も美容室とか行ったことないから分かんない。」
「とにかく行ってくるよ。いってきまーす。」
「いってらっしゃい。」
ふぅ、緊張してきた。言われると尚更、服装が気になるし、何より時間までにつけるかな。ポッケに地図を入れて、大体の場所まで向かう。
すこし迷いながら目的の場所へ行ってみると美容院の特徴的な外観が目に入った。言われた名前と見比べてみるとここが森川くんのお店らしい。中に入るのが躊躇われたが、時間も分からなかったので意を決して入った。
「いらっしゃいませー。」
「青木じゃん。ちょっと早かったね。そこでなんか読んで待ってくれよ。」
「オッケー。」
「ついでにさ。どんな髪にするのかも決めといて。雑誌とかあるでしょ?」
雑誌をめくるとなんかどうやったらそうなるのかわからないような髪の人がたくさん載ってた。これってオシャレなの? よく分からんな。短くなればいいけど、なんか取り返しつかないくらいになったら嫌だな。なんて言えば上手いこと伝わるんだろ。雑誌を見せてやってもらった方がいいかな。
「青木さん? こちらの席にお越し下さい。」
「あ、はい。」
「結構髪伸びてますねぇ? 今日はどんな感じにしますか?」
「じゃあこれみたいにしてください。」
バシッと決めたスーツ姿の男性が写っているページを指差す。前髪がそこそこ残り、横に流されている。なんか無難だと思ってたけど、よくみると挑戦的な髪型かもしれないな。もう遅いけど。
「森川くんの同級生なんですよね? 仲良いんですか?」
「一緒の友達がいるんですよ。」
「青木、冷たいなぁ。俺ら、仲良いじゃん?」
「森川は髪切ったりしないの? ここに居たから働いてるのかと思った。」
「俺まだ中学生だぞ? 働いてるわけないじゃん。」
「じゃあなんでここに?」
「せっかく来るっていうんだから見にきたんだよ。俺暇だしさ。塾が休みで。」
「あ、森川くんもあそこの塾なんだ。」
「そうだよ。お前も入るんでしょ? よろしくな。」
「痒いところありますか?」
「あ、大丈夫です。」
本格的にハサミが入り始める。なんか色々と怖いな。こんなにオシャレなとこでも失敗したりとかすんのかな。多分そんな難しくはないと思うけど、俺には分からん。
「てか、学生服で来たんだな。」
「うん。あのぉ、なんだっけな。なに言いたいんだっけ?」
「いや、知らんし。」
「前髪を切りますので、目、瞑っててくださいね。」
「はい。」
今どうなってるんだろ。上手いこといってるといいけど。チラッと目を開けるとまだ長い。もうちょっとかかるんだろうか。
「お前って結構あれだね。髪キレイだね。男じゃ珍しいよ。」
「そうなの? 比べたことないから分かんないけど。」
「なんかリンスとか使ってんの?」
「いや、シャンプーとコンディショナーだけだけど。」
「それなら買ってかない? ついでにさ?」
「いやぁ、どうしようかな。そこまでお金持ってきてないよ。」
「まぁ、結構高いからな。でも、これから使うだろうから確かめてみれば?」
今までとは違うハサミでバサバサと髪を切っている。ついに仕上げって感じだ。目にまでかかっていた髪も今では床に落ちている。改めてみると伸びてたなぁ。
「後ろの方こうなってます。いかがでしょうか?」
「あ、オッケーです。」
「はい。前髪はこうなってます。」
どうやら切り終わったみたいだけど、ここから頭を洗うらしい。新しい自分の髪に浸ることもなく、倒された椅子に体を任せると、いい香りのシャンプーで頭を洗われる。これが噂のジャンプーか。
「ドライヤーかけますね? 熱くないですか?」
「ちょうどいいです。」
「はい、お疲れ様でした。それではこちらでお会計の方よろしいですか?」
軽く見てみると、なんか違和感があるような気がする。これだから切り立てって嫌なんだよな。なんかおかしい気がするな。でも全体的にただ短く切っただけのようにも見えるので、多分伸びれば大丈夫なはず。
会計に千円の割引をされていたので、森川くんに軽く礼を言うとジャンプーを勧められた。値段をみるとそれだけでもう2、3回ぐらい髪を切れるぐらいの価格で驚いた。なんでこんな高いん? それは流石に買わないでおいた。森川くんも本気で売ろうとしてたわけじゃないので、残念がるわけでもなく、入り口近くまで見送ってくれる。
「いい感じじゃん。また伸びたら来てな?」
「今日はありがと。また明日。」
「じゃーなぁ。」
俺が歩いて歩道に出ると、森川くんが追いかけてきた。
「あれ? 自転車忘れてない? そっち駐輪場じゃないよ?」
「俺、歩いてきたんだよね。ちょっと散歩ついでにさ。」
「ふーん、そうなんだ。家近いん?」
「まぁ、遠くはないね。じゃ、また。」
「またな。」
早いとこ乗れるようになっちゃおう。その方が精神的に楽だな。
家に帰るとおじさんがやたら褒めてくれた。気恥ずかしかったので、まともに相手にせず、適当に流した。もう一度洗面台で見てみても、やっぱりなんかおかしく思っちゃうんだよ。明日、学校行くのちょっと億劫だな。
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