第19話:アンノスにて①

 石畳をたどっててくてく進むこと、約十数分。行く手の木々が開けて、足元の草地が乾いた土に変わった。アーチ状になった木の枝の向こうに、立ち並ぶ民家がいくつか見える。こじんまりとした、どこか懐かしい雰囲気の集落だった。

 「着いたー! ここがアンノスですよね、リュカくんちどこかな~」

 『ぴぴっ!』

 「このまま進んで、中心にある広場を突っ切った向こう側だ。石造りのでかい煙突があるからすぐ――、ん?」

 ご機嫌で訪ねたティナに説明してくれるバルトが、ふと言葉を切ったのと。そのとなりに並んだシグルズが、険しい顔つきで足を止めたのはほぼ同時だった。ふたりの視線ははるか先、家々の屋根を越えた遠くを凝視している。

 「……どっかで火が出た、か? ここの村じゃないのは確かだが」

 「ああ、風向きからするに旧街道沿いの関所辺りだ。火薬ではない、精霊がざわついている」

 場所と原因をかなり明確に言い当てて、様子を見て参りますといいおいたエルフはさっと木の上に飛び上がった。先日のごとく枝を伝ってとんでもない早さで跳躍していく後ろ姿をぽかんと見ていると、ルミがほっぺたをちょんと突っつく。

 『ぴっ!』

 「あたっ! ご、ごめん、ぼーっとしてた」

 「さて、盗賊ってことはないと思うが、用心に越したことはないな。ちょっと急ぐか」

 やや早足になったバルトを追いかけて、歩くこと数分。家々の真ん中にちょっとした広場が現れた。村全体と同様に控えめな規模で、キャンプファイヤーなんかやったら周りの建物まで火の粉が飛びそうだ。

 そんなささやかに開けた空間では、数名の村人が集まってなにやら話し合いの真っ最中だった。そちらに目を留めたバルトが、大きく手を振って呼びかける。

 「おーい、おやっさん! 何かあったのか!?」

 「――おおっ、バルトじゃねぇか! お前さん飛び出してったっきりだもんで心配したぞ!!」

 輪の中心にいた、いかにも鍛冶職人といった風情の逞しい男性が破顔する。駆け寄ってきて大きな手で背中をバンバン叩いて、嬉しいのと安心したのが混ざった朗らかな声で、

 「ミミの熱がようやく下がったんだ。うちの坊主がオトコ見せやがってよ! でもあれだ、あんたにゃせっかく行ってもらったのに申し訳ねぇな」

 「いや、こっちも自分から言い出しといて遅くなっちまって、すいません。ところで何かあったんですか」

 「大したことじゃないんだがな、今朝がた近所の派出所でボヤ騒ぎがあったんだと。怪しい奴を見なかったかって、騎士が何人か聞き取りに来てたな。

 しかしなぁ、腐っても騎士団の出先に火付けなんざするか? もしそんなふてぇ野郎が村に入ったら、見つけ次第簀巻きにして井戸にぶら下げてやらぁな」

 「そりゃ違いない」

 さすが懇意にしているだけあって、豪快で気っ風のいい話し方がバルトにそっくりだ。仲良しでいいなぁ、とお邪魔にならない位置で見守るティナの目の端で、親方の後ろにある家のドアがそっと開いた。

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