第二章:

第8話:精霊と女神さまと私①


 「あっはっはっ!! そっかそっか、引っ張ったら呪いの角が抜けちゃったかー」

 経緯を聞き終えて、半同居人たる女神様は大変朗らかに爆笑なさった。世間一般男子なら眼福間違いなしの純度百パーセントな笑顔に、答える方は微妙な調子だったが。

 「笑い事じゃないですって、イズーナさん。自分の縄張りで問題が起きてるっていうのに」

 「うんまあ、そうなんだけどね? 口で殊勝なこと言いつつ力ワザで解決しちゃうのがおーざっぱなティナらしいなー、と思ったらおかしくて可愛くて」

 「いーじゃないですか経緯なんて! この子はちゃんと助かったんだしっ」

 的確すぎる評価がちょっと耳に痛い。が、今回に関してはそのおかげで命がひとつ助けられたので、ぜひとも不問ということにしていただきたいものだ。

 『きゅ?』

 「あーうん、何でもないよー。レタスおいしい?」

 『きゅうっ』

 「そっか、良かった」

 自分が話題になっているのがわかるのか、テーブル上でティナにもらった野菜をもぐもぐしているウサギが顔をあげた。裏の菜園で採れたばかりの葉物をあけたら、よほど欲しかったのかものすごい勢いで食べ始めたのだ。

 今は大分ペースも落ち着いて、のんびりレタスを食んでいる小動物を覗き込んだイズーナが再び口を開く。

 「それにしても、春ウサギが呪いにやられるなんてね。さっき聞いた感じだと、エルフの郷ってよくあるの? そーいうこと」

 「い、いえ、そのようなことは決して!」

 唐突に話を振られて、ややひきつった声で答えたのは先ほどのエルフだ。女性陣がテーブルについて寛いでいるのとは対照的に、なぜか床に片膝をついて頭を下げた最敬礼状態である。

 ……でもこれ、大分進歩した方なのである。なんせ彼、最初は本気で五体投地しそうな勢いだったんだから。

 「人間の時でいうならば、数百年ほどの期間を置いて発現が続いております。春ウサギ以外の初期宿主は妖精リス、絹毛鼠などいずれも小動物ばかり。皆、我が同朋が住まう常春の幽世かくりよにのみ棲息しておりますれば――」

 「あーもう堅苦しいわね、もっと砕けた話し方でいいから」

 「う、いや、しかし……古の女神に、その加護を受けし精霊の姫君と同等に話すなど……」

 「しかしもカカシもありませんっ、跪くのもナシ! ほら、サクッと好きなとこ座って」

 「…………し、失礼します」

 いい加減にゲンナリしてきたイズーナが、となりにある椅子の背をぺしぺし叩きながらうながす。ほっぺを膨らませていかにもご不満なようすに、ようやく腹をくくったらしきエルフの青年は一番遠い一角を選んで腰を下ろした。相変わらず緊張しまくりで、端正な顔立ちがわりと台無しだ。

 ちなみに春ウサギというのはこっちの固有種で、妖精と動物の中間みたいな生き物だ。ほぼふつうの野ウサギだが、毛色はキャンディとかマカロンみたいなパステルカラー。ついでにとても賢く、ことばこそ話せないがちゃんと人と意思疎通ができるらしい。

 先程助けることになったウサギも、回復してくるにしたがって地味なベージュからふんわりしたパステルイエローに変化していた。ケガを治療するついでに洗って乾かしてあげたら、毛並みがもっふもふになってとても可愛い。レタス食べ終わったら是非とも撫でさせてもらおう、なんて思っているティナである。

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