第4話:大森林の小さな家③
「目の前が真っ暗になって、気が付いたらここにいたんだよなぁ」
「もー、こっちから見ててびっくりしたわ! 大急ぎで連れてきたんだからっ」
「はい、ホントに。その節はルミちゃん共々、お世話になりました」
そんな光景を、たまたま天界から見ていたのがイズーナだった。千夏の運の悪さに心底同情した彼女は、自分の神域であるファンドルンまで彼女の魂を連れてくると申し出てくれたのだ。
『もしまだ生きていたいなら、ワタシがあなたに命をあげる』と。
「そういえばさ、その後どんな感じ? 異世界の人に『命の林檎』をあげたのは初めてなのよね」
「いたって調子いいですよ。身体は前より健康なくらいだし、髪も肌もつやつやです!」
先の質問に対して、千夏はもちろん是と答えたのだが。そのとき新しく生まれ変わるためにいただいたのが、女神自らが管理しているリンゴだった。
促されるまま、きれいに熟した果物をかじった瞬間のことは忘れられない。素晴らしくおいしかったのはもちろん、あたたかい命の息吹が一気に体に満ちあふれたのが分かった。ついでにクセっ毛の極みだった髪がサラサラに様変わりし、普通の黒い目だった瞳も夕焼けを切り取ってはめ込んだみたいな色合いになったのである。――もっとも、
「そっちも嬉しかったけど、ルミちゃんがいっしょに生き返れた方がありがたかったなぁ。わたし結局助けられなかったし」
「そんなことないわよ。拾おうとしてくれてとってもうれしかった、っていつも言ってるもの」
『ぴっ!』
「……え、そう?」
『ぴ~~』
その通り、と言わんばかりに羽根をぱたぱたさせる小鳥さんである。ティナが精霊の仲間になったためか、この子とは何となく意思の疎通が出来るようになったのもうれしいオマケだ。それにしたって賢すぎるので、やっぱりルミの方にも神様補正があったのだろうけど。
「……あっ、で、でも基本はことなかれ主義ですよわたし。目指せ、今度こそ平和に長生き!」
「ハイハイ。解ってるってば」
「という訳で野菜取ってきまーす! ルミちゃん行こうっ」
『ぴっ!』
ほめられた照れ隠しか、やけに早口にで言い立てて慌ただしく出ていくティナである。そんな様子を微笑ましく見送って、イズーナはふと小首を傾げた。
「んー? 何かこっちに近づいてる気がする……悪いものではなさそうだけどなぁ」
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