第5話:麗しの狩人①

 現代日本の高校生は何かと忙しい。ついでにとにかく空気を読んで周りに合わせることを強要されるから、ストレスだって社会人の皆様に負けてない。そんなわけで、転生時に今後の希望を聞かれた際、ティナは迷わずこう答えたのだ。

 『どこか静かなところで平和なスローライフがしたい!!』と。

 「そう言われてあっさりわかった~、て叶えちゃう辺りが神様だよなぁ」

 ねえ、と相方に話しかけながら作業を進める。

 家の裏手に、適当に柵で囲って作った菜園での会話だ。二メートル半四方程度の畑には葉もの野菜をはじめ根菜、ハーブ、また昨日のものを含めた薬草類が元気よく育っていた。これもティナの日頃の世話と、土地提供者たる女神様の助力の賜物だ。

 『ぴっ、ぴっ』

 「ベリーほしいの? じゃあわたしもヨーグルトに入れよっと」

 『ぴー!』

 ぴょこぴょこして喜びを表す小鳥さんに和みつつ、これだけは植えていない木の実を採りに敷地の外へ足を伸ばした。

 ティナの感覚だと買ってくるものだったベリー系、こちらの人たちにとっては森や山へ取りに行くものらしい。最初は驚いたが、実際やってみるとすぐ腑に落ちた。

 「こんなにいっぱい生るんだったら、そりゃお散歩がてら取りに行く方が早いよね」

 細い獣道を進むことしばし、木漏れ日の差すあちこちに低い灌木の茂みが見えてきた。丸い葉の間に、鮮やかな紅い実が鈴なりに生っている。初夏が旬のベリーはコケモモといって、生でもジャムにしても甘酸っぱくてとても美味しい。

 日当たりのいい場所の実はもうすっかり食べ頃だ。早速摘み取ろうと屈み込んで、


 ――がさり。


 「ん?」

 不意の物音に手を止めた。自分が立てたもの、ではない。耳をそばだてていると、またがさりと重ねて聞こえる。続けて、苦しそうにせき込むような息づかいも。

 「……ええと、まさか昨日の今日で遭難者とか……」

 イズーナは何も言っていなかったし、さすがにないとは思う。でも耳にしてしまった以上、一応確認はしておかないと、ティナの気持ちが落ち着かない。

 肩に留まったルミをその辺の灌木に移して『じっとしててね』と言い含め、身を低くして音がしたと思しき方へ向かう。あまり離れていない、コケモモの茂みが一際生い茂っている一角だ。

 また、小さく咳き込む声がした。これはいよいよまずいと焦りつつも、相手を驚かさないように細心の注意を払って茂みを覗き込もうとして――

 「――動くな」

 突然、本当になんの前触れもなく。背後から忍び寄っていた誰かに、いきなり口をふさがれていた。


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