第三章:
第16話:独白②
困った。
茂みの奥に身を潜めて、ため息ひとつ。視線の先には、国境に向かう旧街道を管理する騎士団の派出所があった。
国の南西に広がるファンドルンの大森林。豊かな自然が多くの幸をもたらしてくれると同時に、その奥地には多くの魔物が生息する魔境でもある。近年は森を避けられる安全な道が整備されたため、森林を突っ切る旧街道を通る旅人はめっきり減っているという。
そんな背景もあって閑散としているはずの派出所なのだが、今日に限って妙にひとの出入りが多い。その中でも特に目立つ、銀の甲冑に群青の外套を纏った姿に、思わず顔をしかめてしまった。王都を管轄する中央騎士団の装束だ。
「もう都から連絡が回ってる……」
敬愛する兄から極秘の使命を託されたのが、二日前の未明のこと。本当なら、夜に紛れてここを突破しているはずだった。それがあちこちで予想外の事態――荷馬車が横転したとか、山肌が崩れたとか、大規模な火事で町に入れないとか――により、最短ルートから大きく迂回する羽目になったのだ。
あれが偶然ではなく、全て追手による工作だったとしたら。むしろ、そちらの方が説得力がある。
「……バレているのなら、こちらにとっても好都合。遠慮なく正面から行かせてもらいましょう」
聡明かつ芯から穏やかで、身内に対してどこまでも優しい兄。そんな彼が自分を使者に立ててくれたのは、ひょっとしなくてもこういう事態を想定してのことだったのではないか。きょうだいの中でいざというとき、一番容赦も遠慮もないのは、他でもない自分だ。
腰に佩いた細剣を抜き放つ。紡ぎ始めた詠唱に、刃に刻まれた刻印から灼熱の炎が躍り出た。
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