第21話:勃発、臨時バトル①
森の中は時折そよ風が吹いていたが、村に入ってからはほぼ無風だ。鳥が留まったのかな、と何気なく視線をあげたティナは、
「……げっ」
あまり品がいいとは言えないうめきを上げてしまった。シグルズが聞いたら怒るかもしれない、とまるで検討外れなことを考える背後で、彼女に続いて見てしまったらしき村人たちの悲鳴が上がる。
「む、
そう。近くの家の二階を越す高さがある木の、そのさらにてっぺんから顔を出しているのは、どうみても巨大な百足にしか見えない代物だった。全身が鉄で出来ているかのように黒々と輝き、草刈りガマの数倍はありそうな牙をガチガチ鳴らして、明らかに臨戦態勢だ。
「――へえ、わざわざここまで出てきてくれるとはな。さがしにいく手間が省けてありがてぇことで」
「ば、バルトさん、知り合い……?」
「馬鹿言え、知り合っちゃいねぇよ。つい昨日、俺があんたの世話になった原因がアレだ」
「えええ!?」
衝撃の発言にさらに声が大きくなる。確かに、あのサイズの百足に襲われたら、牙に加えて鋭い足の爪で全身に傷を負うだろう。毒も確かに持っているし。だけど、リベンジマッチは出来たら他所でやってほしかった!!
リュカを抱き抱えて真っ青になるティナ。しかし当のバルトはそんなリアクションにも大して興味を示さず、いたって不敵に笑みなど浮かべて片手を突き出した。
「おやっさん、預けといた相棒は!」
「おうよ、とっくに仕上がってらぁな! 暴れてこい兄弟っ」
「合点承知!!」
すかさず親方が手渡したのは、装飾の類いが一切ないロングソードだった。見るからに使い込まれた剣の鞘を受け取りざまに払い、ダッシュで間合いを詰めたバルトが積んであった木材を足場に屋根へとかけ上って、
ザシュッ!!
相手が動くより一瞬だけ早く、鋭い刃鳴りと共に一閃した剣が、百足の触覚を見事切り飛ばした!
ぎょわあああああ!!
「っと、危ね……!」
傷を負ったのが気にさわったか、耳をつんざくような鳴き声を上げて、巨大百足が攻撃に転じる。木から乗り移るかと思いきや、勢いよく振り回した下半身でバルトが足場にしていた屋根を粉砕した。ホコリと木っ端が舞い上がる中、初撃をかわした獲物目掛けて全身でのし掛かる。すさまじい音を上げて、今度こそ建物自体がまっ平らに押し潰されてしまった。
「か、怪力……や、そうじゃなくて、あそこの人は!?」
「大丈夫だ、あすこは大分前から空き家になってっから。にしてもバルトのやつ、なんか動きが冴えねぇな……」
ギクッとした。彼が戦うのを見るのは初めてだから比べようがないが、確かにちょっと肩で息をしている気がする。やっぱり、毒で倒れたダメージが回復しきってないのか。
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