第22話:勃発、臨時バトル②
腕に覚えのある人が手伝ってくれないか、と見渡してみるが、村の人たちもさすがに怪獣サイズの虫とは戦ったことがないのか、邪魔にならないように下がって見守ることしか出来ない。無理をしてほしい訳じゃないから仕方ないけど……ああもう、早くシグルズが帰ってくればいいのに!
『ぴっぴっ!』
「、へっ? どしたの、ルミちゃん」
『ぴぴっ』
『きゅう!』
ずっと大人しくしていたルミが鋭く囀った。これまたじっと抱っこされていた春ウサギと一緒に、ティナの胸元をしきりに突っつく。その拍子に何か冷たいものが肌に触れて、あっと思い出した。
「そっか、呼び子!!」
昨日の朝、当の本人からもらってすぐ首から下げたのを忘れていた。エルフの耳なら必ず聞こえると言っていた、緊急事態を知らせるには打ってつけだ。ありがとう、賢い小動物たち!
急いで鎖を手繰って、細い銀色の笛を引っ張り出す。実用するのがもったいないほど美しい呼び子をくわえて、思いっきり息を吹き込んだ。
形はホイッスルに近いが、音色はフルートのような優しいものだ。しかもただ吹いただけなのに、笛からは勝手に音階がついてメロディになったものが流れて来る。思わずおお! と感動したティナだったが、驚くべきはそれだけではなかった。
旋律が流れはじめてすぐ、光の糸みたいなものが漂ってくる。最初はか細くふわふわと、音が続くに従って互いに縒り合わさり、徐々に光を強めながら何かの形を――いわゆる魔方陣を編み上げた。次の瞬間、
ぶわっ!!
「ひゃっ!」
爆発した閃光に思わず笛を離して目をつぶる。ほとんど同時にかーん!! という景気のいい音と、大きなものが倒れる轟音、ついでにちょっと悔しそうなバルトの声が続いて聞こえた。
「……あんだよ、当分帰って来ねぇと思ったのに」
「減らず口を叩くな、病み上がり。少しは脆い人の身であることを自覚しろ、私は構わないがティナ殿が悲しむ」
「へいへい」
相変わらずつっけんどんに言い捨てて、大弓を携えたエルフの青年……魔法陣から出てきざまに大百足を狙撃する、という離れ業を披露したシグルズが振り返った。リュカより淡く繊細な金の髪が、朝の日差しに透けて輝く。
「あの呼び子を使ってくださったのですね。――光栄に存じます、我が姫」
ふっと微笑んで、胸に手を当てて優雅に一礼したシグルズ。その姿は間違いなく、今まで見た中で一番の格好良さだった。
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