第23話:勃発、臨時バトル③


 ぎちぎちぎち!!


 豪快な歯軋りのような音が上がって、その場の全員が一斉に振り返った。すると、先ほどの狙撃で息絶えたと思われた大百足が鎌首をもたげているではないか。ことばが話せなくてもこんなに怒りの感情が伝わるのかと、一瞬まったく筋違いな感心を抱いてしまうくらいにはおかんむりだった。これはやばい。

 「おいこらカッコつけ! お前ヘッドショット決めたクセしてなに仕留め損ねてやがる!!」

 「そいつの装甲が異常なだけだ、腕前の問題ではない! そちらこそ最初から目と節を狙って衝けば良いだろうっ」

 「ずっと狙っとるわ、あっちが図体のわりに素早すぎて的が定まらねぇんだよ!! いいから手伝え、ひとりだけトンズラしたら長に言いつけっからな!?」

 「さもそれが最大の報復であるかのように言うんじゃない!!」

 ほぼ文句にしか聞こえない協力要請に、こちらもあれこれ言い返しながらシグルズが参戦する。

 ……しかしながら、その成果はというと。


 ぎゃあ――――すっ!!


 「あ~~っまたか!! 大人しく往生しろよお前ーっっ」

 「くっ、これはもう鏃に魔法を付与して撃ち込むしかないのでは……!」

 「あ、そういう戦いかたが出来るんですね」

 「そうだなぁ。城付きの魔導師なんかは火矢とかに細工して、魔法じゃなけりゃ消えねぇようにできるって聞いたが」

 「へええ」

 「にーちゃんたち、がんばれー!!」

 ファンタジーのお約束戦法はこの世界でも有効らしい。親方の解説とリュカの声援を聞きつつ、思わず眉間にシワを寄せるティナだ。

 ……戦うつもりなんてこれっぽっちもなかったから、こういうとき役立つスキルを何も持っていないのだ、もしかしなくても。例えばバリアを張ったり火の玉でも呼んだり出来れば、ちょっとくらいは手伝いになるのでは。元はといえば無理いって付いてきたのは自分なのに……

 珍しくいろいろ考え込んでいたせいで、周りへの注意が疎かになった。ごく近くでぶしゃっ! と不吉な音がして、八方から悲鳴が飛んでくる。

 『ぴーっっ』

 「おい避けろッ」

 「毒が……!!」


 ――ゴワアッ!!


 紫の液体――百足が尾を高く上げていたので、そこから噴いたんだろう――が、硬直したティナに降りかかると見えた瞬間。なんの前触れもなく頭上で燃え上がった炎が、毒素を包んで焼き尽くした。まったく状況に付いていけず立ち尽くしていると、

 「――ご無事ですか? とっさに燃やしてしまったのですけど、飛沫がかかっていません?」

 心配そうに声をかけてきたのは、初めて見る顔だった。いや、白いフードをすっぽり被っていて容姿はよくわからないが、優しげな声には聞き覚えがない。小柄で華奢だが、片手に細身の剣を握っているので心得があるのだろう。ついでに言っている内容からすると、魔法の方も。

 「いっ、いえ、平気みたいです。ありがとうございました!」

 「良かった。百足の毒はしつこいと言いますから。

 ……あちらのお二人とはお知り合いですか?」

 「はい、知り合ってからそんなに経ってないけど……あっ、でも、とってもいい人たちですよ!」

 「ふふふ、そうでしたか。さて、苦戦していらっしゃるなら手助けをと思ったのですけど――

 もうすぐ助けが来そうだし、見ていても大丈夫ですね」

 「はい?」

 なぜかとても嬉しそうに言うフードの人。首を傾げたティナの耳に、どこからともなく地響きが伝わってきた。


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