第24話:勃発、臨時バトル④
さっき三名でやって来たのとは違う方向から、何かが恐ろしい勢いで突き進んでくるのがわかった。徐々に激しくなる地響きと、尋常ではない気配に思わず後ずさる。と、
『――ちぇすとおおおおおッ!!!』
どぉ――――――んっ!!!
『しぎゃあああああ』
木立の間から飛び出してきたものが、百足を天高く吹き飛ばした。日本人の習性で『玉屋ー!』とつい叫びたくなるほどのナイスアタックを決めて、ふんと勇ましく鼻を鳴らしたのは、
「い、イノシシ……!?」
「まあ。大きいですね」
そう、この前ティナの家に遊びに来たのと同じ動物だ。ただし、大きさはちょっとした四トントラックくらいという、某映画の主様クラスの超重量級である。しかも、
『
「若い衆……、私の事か!?」
『いかにも! 古より百足はひとの唾に弱い、奴が動けぬ間に早う射てしまえ!!』
実に堂々と人の言葉で言い切った大イノシシに、いきなり若いの呼ばわりされたシグルズが一瞬顔をしかめる。が、今がチャンスなのは間違いがないわけで。
「――致し方ない! ティナ殿、村の衆、出来るだけ後方へ!!」
ものすごく不本意そうな顔でそう叫びざま、一旦口にくわえた矢を素早く弓につがえて撃ち放った。
『っちぎゃあああああ……!!!』
ちょうど降ってきた百足の顔面へ、真っ白い矢羽根が突き刺さる。さっきまで弾かれていたのが信じられないほど深々と射込まれた一撃に、のたうち回った百足はぼうん!! と黒っぽい煙を上げて消えてしまった。後には何か、小さな残骸のようなものが残されているだけだ。
「……終わったか」
「おう、不本意だがな。ったく最後の最後で全部持っていきやがって」
「文句ならあちらに言え、指名してきたのは彼だ」
「へいへい。……ん!?」
こっそり息を整えていたバルトだったが、軽口の最後で突然目をすがめた。その視線は、今まさに大イノシシと話しているティナと、いつの間にか出現していた小柄な剣士に向けられている。
「あの、ありがとうございました! 硬いから二人とも大変そうだったし、すっごく助かりました」
『よいよい、我はそなたに受けた恩を返しただけよ。正確には我が奥と子供らに代わって、だが』
「奥さまとお子さまがいらっしゃるのですか? 賑やかで楽しそうですわ」
『うむ、まことにな! ほれ、少し前に腹をすかせたイノシシとウリ坊が通りすがったであろう?』
「…………ああああ!! あの二メートル越えマダムと可愛い赤ちゃんたち!?」
『さよう、あのとき持たされた野菜が大層美味でなぁ。恩人の一大事ゆえさっさと助けに行かぬかと、えらい剣幕で追い出されてしまった! がっはっは!!』
「あっはっは、マダム強ーい! 野菜も気に入ってくれてよかったー」
意外な接点があったようで、大変機嫌よく笑い合う大イノシシとティナ。それをそばでにこやかに見守っていた剣士は、大股で歩み寄って来るバルトに気付いてぱっ、と嬉しそうな様子になった。
「あら、お疲れ様です。叔父様」
「やっっっぱりお前か……いつも言ってるだろ、もうちょいちゃんと顔隠せって! 関係者が見れば一発でバレるぞ!?」
「平気ですってば。今回は念のため、ゼフィ兄様にも目眩ましの術をかけていただいてますもの」
「だからってなぁ!」
「? あのう、バルトさんてその人と知り合いなんですか?」
明らかに知り合いというか、先ほど聞き捨てならないセリフがあったような。軽く挙手してたずねてみると、苦虫を百匹くらいまとめて噛み潰したような表情になったバルトが深々とため息をついた。いそいそとフードを取ろうとするのを、片手で押さえつけて阻止しながら、
「…………姪だ」
「はいっ?」
「だぁから、俺の姪っ子だ。姉貴んとこの長女で、実家最凶の問題児!」
「もう、失礼ですわね。――改めましてこんにちは、バルトの姪でフェリシア・エステル・オランジェと申します。よろしくお願いいたしますわ♪」
「ええええ!?」
どおりで優しい声だと思った。今やすっかりおしとやかな口調になってなされた自己紹介に、仰天したティナの叫びがアンノスの村に響き渡った。
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