第33話:長と王子と奥方のこと④
「私を直接
「は、はい。実は――」
さらりと核心を突いてくる奥方に、驚きながらもフェリシアがちゃんと順を追って説明していく。
一通り聞き終えて、相手は細く長く息をついた。疲れと申し訳なさが入り交じった、重たいため息だ。
「……事情はよく解りました。おそらくですが、我々の森にある源泉も同じように枯れかけているのでしょう。その影響が出ているのです」
「分けてもらったのの大元、ってことですか? 今も繋がってるんですか」
「ええ。あれは銀葉郷の妃が代々受け継いできたもので、他の水源とは成り立ちが異なります」
源泉――エルフたちは瑞碧の泉と呼んでいるが、そこから湧き出しているのは普通の水ではない。
ファンドルンの北側を横一文字に走る山脈は、国境を越えて昔から崇拝を集めてきた霊峰であり聖域だ。そこに降った雨が精霊たちの祝福を受け、長い年月をかけて霊力を宿していったものが、様々な効能を持つ水として地表に現れる。当然、そうたくさんあるものではない。
「山脈を囲む国々で、見つかっておるのはここを含めてわずかに四つだ。これがなかなかに贅沢者でな、世話される相手を選ぶ。まあ大抵は霊力、魔力に秀でた女子となるのだが」
「だから奥方様が管理しておられるのですね」
「うむ。……しかし、それゆえの弊害もあってな」
ミストルティアの肩に手を置いて、長が切り出す。さっきまでの朗らかな調子とは打って変わって重々しい口調だ。それだけ深刻な事態なのだと嫌でもわかった。
「奥がひとりで、ほぼ一心同体と言えるほどの繋がりを持って任される。……もしなにがしかの問題が起これば、それは真っ先にミストを蝕むということだ」
「泉がある聖域には、基本的に妃以外は入ることが出来ません。これまで問題なく続けてこれたのは、ひとえに長命で壮健なエルフの体質によるところが大きかったのですが……」
彼らだからこそ続けられた管理体制だったのだろう。そしてそういう事情なら、なかなか解決に動き出せなかったのも納得だ。何せ様子を見に行くことすらできなかったのだから。
「ティナ殿といったか。シグルズからそなたのことを聞いてな、ひょっとすると泉が気に入って招き入れてくれるやもと思うたのだ。しかし同じ日に同じことで訪ねてくる客人がいるとは、まこと有り難い」
「――なにか、お力になれるということでしょうか」
居住まいを正して問うフェリシアにうなずいて、妃に寄り添う長が続ける。
「そなたが使ったその笛は、郷の守護門だけに効くわけではない。あらゆる隠された入り口、常世との境を切り
ミストルティアの許しを得て、妃の
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