第一章:

第1話:独白①


 はしる。

 落ち葉の積もる大地、その道なき道を。空に伸びゆく木々、そのしなやかな枝の間を。

 目に映るすべては、自分には何の障害にもなりはしない。むしろ一足進むごとにその身を引き、柔らかにしなって先を示し、自らしるべとなってくれる。

 常に自然とともに在り、また彼らを護り育てることを使命とする一族にとってはごく普通のことだ。草木は言葉を発せずとも命あるもので、耳に目に触れる葉擦れや瑞々しい色合いが、その思いを伝えてくれる。

 《――エルフの御方。其方そちらに》

 すぐ傍に伸びていた、樺の若木が囁いた。その声に従い、目を凝らす。

 かすかな気配がする。宵闇をも見通す瞳が、森の木々を透かして追うものの姿を捉える。木立の奥、丈の低い灌木の茂みを、足を引きずるようにして駆け抜ける小さな影があった。

……先程より、心なしか動きが鈍っている。警戒されるのを覚悟で先手を打って正解だったようだ。

 (次こそは仕留める!)

 無言のままに決意を秘めて。跪いていた細い枝から、音もなく跳躍した。


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