第26話:エルフの郷へ①


 「――まあ! ではティナさんたち、イズーナ様直々に転生させていただいたのですね。すごいですわ!」

 「転生……ああ、一回死んでるからそうなるのか。考えたことなかったなぁ」

 『ぴぴっ』

 「…………あのなお前ら、みょーな話題で盛り上がるんじゃない」

 ごく自然にとんでもない会話をしている女性陣(含むルミ)に、やや後方を歩く保護者がさすがにツッコミを入れた。

 時は流れて、アンノスの村での死闘からはや数時間。ティナたちは何故か、再び森のなかを歩き続けていた。

 空き家とはいえ、村の建物を破壊したことで怒られて追い出された――とかでは断じてない。原因は全てこの方にあったりする。

 「あらいやだ、叔父様ったらご恩ある方の境遇をそんな風におっしゃるなんて。こんな状況でなければわたくし、実家にお招きして大歓待したいくらいですのよ?」

 「う、いや、その辺はすまん……が、後半については一言言わせろ! の何割かは確実にフェリシア、お前のせいだろうがっ」

 「だって、あんなに早く連絡が回ってるとは思わなかったんですもの。普段はことなかれ主義のくせにこういう時だけヤケにお仕事が早いったら」

 なかなか辛辣なことを言いつつぷく、と頬を膨らませるフェリシア。木漏れ日を浴びて輝く髪は桜色がかった淡い金、潤んだような大きな瞳は瑞々しい若草色だ。整った愛らしい顔立ちとくるくる変わる表情が相まって、大変に眼福な美少女であった。

 ……森に入る際、さすがに視界が悪いからといったんフードを取ったときの衝撃は忘れられない。聞けばティナのひとつ年下らしいが、住んでいるところから数日かかる道のりを一人でここまで旅してきたというからさらに驚いた。こうやって叔父さんにばんばん言い返すところも含めて、お姫様みたいな可憐さに似合わないしっかりもののようだ。

 が。

 「だからって、って理屈にはならん! お前のは他人より威力が高いから、扱いには重々気を付けろっていつも言われてんだろ!? おまけにいつ騎士団が戻ってくるかわからんから、おやっさんたちにもロクにあいさつ出来なかったじゃねえかッ」

 「大丈夫です、辺境とはいえ騎士団の派出所ですもの。建物全体にきちんと防御結界が展開しているのを確認した上でやってますから、音は派手でもせいぜい外壁がちょっぴり焦げる程度の被害しか出てませんわ。

 それに、親方さんだってそれほど気にはされてませんでしたわよ? むしろもし来たら上手いこと他所に誘導してやるから任せろ、って仰られて、やる気満々だったような」

 「そりゃあの人はああいう人柄だから断らねえよ! だけどな、ことの発端が身内だってのと、結果的に世話になってる人を巻き込んでるっていう状況の心理的負担が凄まじいんだよ俺としては……!!」

 あっけらかんとした姪の返事に、とうとう頭を抱えてしまったバルトである。義理堅い性格のひとにはツラい状況かもしれない、確かに。

 『きゅっ、きゅー』

 『ぴ~』

 「……バルトさん、とりあえず元気出しましょうよ。親方さんの方はともかく、騎士団の人たちはフェリシアさんの顔を見てないみたいだし」

 「お、おう……すまん、こいつが無茶苦茶なのはわりと昔っからなのに」

 見かねたティナが背中をぽんぽんと叩くと、バツが悪そうな顔で咳払いしつつ復活してくれた。飛んできたルミと、恩人に抱えられて耳をぴこぴこ動かしている春ウサギにも悪いな、といって指で撫でてやっている。うん、やっぱり律儀だ。

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