第49話:花咲くオランジェ邸②

 「姉さま! お帰りなさい、おじ上も!」


 『わんわん!』


 「アルただいまー! ハティ共々今日も可愛いですわっ」


 「久しぶりだな、アルフォンス。またちょっと背が伸びたんじゃないか?」


 「えへへ、はいっ」


 駆け寄って弟と子犬をぎゅー、と抱きしめるフェリシアはほおが緩みまくりだ。こっちは落ち着いた様子で甥っ子の頭を撫でてやるバルトも、いつになく柔らかい表情をしている。


 平和な光景をちょっとうらやましく思いながら眺めていると、ようやく姉から解放されたアルフォンスと目が合った。あっ、と何かに気付いた顔をして、その場でぺこりと頭を下げる。


 「ごあいさつがおそくなりました、もうしわけありません! アルフォンス・ロビン・オランジェといいます、姉さまがお世話になりました!」


 「いえいえ、こちらこそお世話になりました。ちゃんとあいさつできて偉いねー、ねえシグさん」


 「……は、然様で」


 軽く話題を振ったつもりが、帰ってきたのはやたら堅い表情と返事だった。あれ、と心の中で首を傾げているあいだに、オランジェ家一同の会話が続いていく。


 「そういやアル、お前俺が来ること知ってたな。ゼフィから聞いたのか?」


 「はいっ。おじ上が大きなカニさんと戦ったこととか、お祝いの席で好きなお酒がなくてしょんぼりしてたこととか、精霊さんとエルフさんがいっしょに帰ってくることとかも教えてもらいました!」


 「お、おう、そーか……相変わらず万能だなぁ、当代随一の風司かぜのつかさ


 「――お褒めにあずかり恐縮です」


 呼びかけに応えたのは知らない声だ。続いて、垣根の後ろから背の高い人影が現れる。


 背の半ばくらいはあるだろう美しい銀髪を、右側の肩口で結んで垂らした青年だ。シャツにベストにスラックスという格好で、庭の花らしき薄紅のバラを腕に抱えていた。


 目の色は――わからない。伏し目がちなのか、それとも見えていないのか、薄いまぶたがしっかりと下ろされているからだ。


 「ですが叔父上、随一は言い過ぎでしょう。私の他にも優れた精霊術師は数多居られますよ」


 「相変わらず真面目だな……そこは身内って事でおとなしく褒められとけ。俺だって甥っ子は可愛いんだぞ」


 「ふふ、わかりました」


 穏やかな謙遜と微笑を返して、青年がティナたちに向き直る。依然として目は合わないが、十分以上に誠実な声音であいさつしてくれた。


 「フェリシア、叔父上、お帰りなさい。そしてお客人方におかれましては、ようこそいらっしゃいました。

 現当主が嫡男、ゼフィルス・クロード・オランジェと申します」

 

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