第14話:黒づくめの闖入者④
「事情は分かりました、うちのでよければいくらでも持って行ってください。私ひとりじゃ使いきれないし」
「っ、本当か!」
「もちろん。ただ、お兄さんはまだ一人で歩くのがツラいかもしれないので、私も付き添っていきますね。ついでに道とか教えてもらえると嬉しいです」
「このくらいどうってことないが……一緒に来てくれるなら、その方が有り難いか。
村の名前はアンノス、西南にある街道沿いの小さいとこだ。森の入口の一つでもある」
「――はい?」
飛んできた情報に、ちょうど外出用のマントを手に取ったところだったティナの動きが止まる。なんだかつい最近聞いたような、見たような。
「あの、ちょっといいですか? その熱出したって子のこと、家族構成とかをもうちょい詳しく」
「おう。ミミっていってな、今年で四つになる鍛冶屋の親方の娘だ。家には両親とばあさんと、二つ上のリュカって兄貴がいる」
やっぱり。
「あー……そのリュカくんて子、昨日森で会いましたよ。妹さんに薬草を探しに来たって」
「はあっ!? いや待て、群生地まで順調に進めたとして、大人の足でも半日以上かかるぞ!!」
「はい、案の定迷っちゃってたみたいで。見つけたついでに薬草渡して、おうちまで送ったから大丈夫です」
「ホントか!?」
「ウソ言ってどうするんですか。すっごくがんばってましたから、あとでちゃんと褒めてあげてくださいね」
にっこり笑って締めくくると、相手は肺が空になりそうなほど大きく息をついた。顔を覆った片手の下から、かすれた声がこぼれてくる。
「そうか、あいつひとりで森まで来たか……あんなに泣き虫で甘えん坊だったのに、いつの間にか立派になりやがって……」
泣き虫なのにと言いながら、なんだか自分が泣きそうだ。恩人の子どもたちということだから、身内のように大事に思っているんだろう。良い人だなぁと感心しているティナの足元では、こっそり出てきたルミと春ウサギもうんうんとうなずいている。
さて、これで急ぐ必要はなくなった。あとはこの御仁がちゃんと身体を治して、元気になって村に戻るだけだ。
「じゃあ早いとこ会いに行けるように、ご飯にしましょうか! 半日くらい何も食べてないですよね、おかゆでいいですか?」
「お、おう。……すまねえな、何から何まで」
「いいえー。そんじゃ用意してきますね、ルミちゃんにウサギさんは癒しオーラ出してあげて~」
『ぴっ!』『きゅうっ』
「うおっ、お前らどっから出てきた!」
「あはははは」
元気よく飛びついた小動物たちに、驚きつつもちゃんと受け止めてあげている青年だ。そんなほほえましい様子に明るく笑って、ティナはキッチンで作業に取り掛かる。
さすがに畑では収穫できないので、暮らし始めに『お米が食べたいです』と主張したらイズーナがどこからともなく調達してくれた。以来、ナベで炊く方法をマスターして大事に使っているのだが、日本で流通しているものより粘りが少ない気がする。こうやって煮込むときにはよく出汁を吸って、おいしく仕上がるので嬉しい限りだ。
味の好みがわからないので、シンプルに白がゆにしてみた。ついでにスープと果物も添えて、てくてく戻っておぼんをおいて、
「はいっ、あーん♪」
「ぶっ!?」
実に楽しそうに匙を差し出す救い主に、じゃれるルミたちの頭上で青年が思いっきりむせた。しばらく横を向いてげほげほやって、
「っそういうのはいい! 自分で食える!!」
「えー、だって今まだあちこちだるいでしょ」
「ただ単にやってみたいだけだろお前ッ」
「まあまあ、具合悪いときくらい甘えたっていいじゃないですか」
「……………あのなぁ」
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