第3話 牛丼屋は無かった…
私はクソダサメガネ女子高生…雪見時奈。
人生初の彼氏がさっき出来た。
しかも出会ったのが昨日でペットボトルの水一本がきっかけという
側から見たらロマンティックとか伝説とかつきそうだけど実際は怪しい悪の組織の戦闘員Eだし、
その上アイドル顔でイケメンなのに彼女になるのを断ったら
私の実家を、爆破するとかいうサイコキチ野郎であり、今なら判る。
人は顔じゃない中身だ!と。
しかも初デートが福牛という凡ミスをかました。
しかし頭の中は肉しかなかったのだ。
店の前に場違いに高級車が止まり中からドル顔イケメンとクソダサメガネ女が出てきて店にいた従業員や客は一斉に入り口を見た。
もはやなんかの芸能人の撮影かと思われているんじゃないだろうか?
客層もトラックのガタイのいいおっさんやトビ職のちょっとヤンキー風のお兄ちゃん、ヤンキーカップル、極道みたいな風貌の男…正直客層も怖い。
普通の家族も何人かいたけど。まともなカップルがいない!!そりゃ来ないよあんまり!
そんな中に光輝くアイドル風のクソ金持ちが入ってきたので
注目されるのは当たり前というかこれどこ入っても見られるヤツだわ。
とりあえず私達は空いているカウンター席に座った。
しかもその隣があの極道風のグラサンかけためっちゃ怖そうな男だった。
大丈夫なの?栗生院氏ー!
「んー?何食べる?雪見さん」
とメニュー表を眺めて楽しそうな栗生院くん。
君は隣の男が怖くないのかね?私はもうチビリそうでやんす。
「あ、鰻重があるじゃん、牛丼屋なのに。んじゃこれにしよ。雪見さんは?」
ドル男ー!牛丼屋で鰻重とか!
いや何を食べてもお前なら許されるだろうけど何故それをチョイスしたんですかあ!
私は涙目で普通に一番安い
「牛丼並みで…」
と頼んだ。
しかし問題はその後でした。
鰻重と牛丼が届き、彼が鰻重を口にした瞬間…
「ふう…思ったより雑だな…」
思っててもそんなことは言うなあああ!坊っちゃま!!
そして隣のタレを取ろうとして思い切りこぼした。
飛び散るタレは極道風の男のスーツを汚した。
終わった。私は死を覚悟した。
もうダメだ。この後コンクリ詰めにされて海に捨てられる!
極道風の男は額に血管を浮かばせて
「何しとんじゃい?お?このスーツいくらする思ってんねん?」
と栗生院くんに顔を近づけて怒鳴った。
「えーと…一万円くらい?ブランドものには見えないので普通に一万円くらい?」
「なめんとんかい!坊主!!」
キレた。そりゃキレる。謝って!早く!
「お客様!他のお客様のご迷惑ですので!」
と従業員が青ざめながら仲裁に入るが
「判りました、ではちょっと外で話ましょう」
栗生院くんは清々しいくらいにこやかに
食べててと私に言って店の外の裏路地の方に行った。
私は…もう何か恐ろしいことが起こると感じつつも牛丼を食べることに専念した。
*
「ええ度胸や、坊主!店のもんに迷惑かけるわけにはいかんしの?」
極道風の男はそう言うと腕をまくった。
そこには刺青がチラリと見えた。
僕はにこやかに男に話をする。
「こぼしたことは申し訳ありませんでした。はいこれクリーニング代です」
と財布から一万円札を出す。
しかし僕の札束パンパンの財布を見て
「なんだお前?どこの金持ちだ?財布の方を寄越せよ、それで許してやるぜ」
とニヤリと笑った。
やれやれ所詮人間とはどうも金で動くようだな。雪見さんとは大違いだよ。
「うーん?嫌ですと言ったら?」
「お前を伸して貰ってくぜ?そっちのクリーニング代をな」
と男は拳を僕の顔面に振り上げてくる。
僕は当たりそうな瞬間に男の拳を左手で受け止めた。
「!?」
想定外のことに男は驚いた。
そりゃそうだよね、見た目はもやしのように細い僕だし、高校生だし?
しかし拳がビクともしないのを見て男は
「何モンだお前は!」
とドスの利いた声で喋る。
「ただのイケメン高校生ですよ?」
と笑うと
「ふざけんな!クソガキがあああっ!!」
と今度は左手の拳を腹に向かって振り上げてきたが
僕は捕らえた方の男の右手をすり抜け捻りあげ背後に回り込み回し蹴りをかました。
これでも悪の戦闘員ですんでね。
男はそのままゴミに突っ込んだ。
「あーあ、散らかしてしまいましたね?後で片付けておいてくださいよ?
店に迷惑かけたくないんでしょう?」
と親切に忠告してあげたら男はますます怒り、懐からナイフを取り出した。
凶器を高校生に出すかな普通。
「ガキめーっ!ぶっ殺してやる!」
と牛みたいに突っ込んできたので振り上げたナイフを交わし
低く男の腹より下にしゃがんで足払いをした。
男は簡単にすっ転び頭にバナナの皮を乗せた。ゴリラかよ。
「んのやろ…なめやがって!!」
ナイフを持ち直しまだやる気だ。
仕方ない。
僕はポケットからアーミーナイフを2本取り出して
男が立ち上がる前に一本を右足の靴の上から地面に思い切り刺した。
「んぎゃああ…うっ」
男が悲鳴をあげかけるのを防ぐために口をハンカチで塞ぎ
もう一本のナイフを男の喉元に向けた。
「静かにっ!迷惑かけちゃダメでしょ?騒音罪で通報されるよ?」
と僕は爽やかに笑う。
「………」
男は震えているようだ。
少しハンカチをズラしてみると
「助けて…くれっ」
と男は殺されると思って懇願した。
酷いっ!僕をそんな人殺しと一緒にしないでよ。
僕は男の足に刺さったナイフを抜いて血だらけになった一万円札ともう一枚一万円を出して男に投げつけた。
「病院代も追加しとくね?」
と爽やかに笑うと男は足を引きずって僕から遠ざかって行った。
やれやれ、人の楽しいデートを邪魔するから痛い目に合うんだよ?
「鳴島ー、悪いけどここ綺麗に掃除しておいて?」
と男が散らかしたゴミを申し訳なく思い頼む。
「気になさらないように坊っちゃま…」
鳴島は背後から気配なく現れてささっと箒を取り出し片していく。
そして僕は雪見さんの待つ牛丼屋に戻って行った。
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