第91話 迷路と白い塔
銀の兎亭の入り口に判りやすく銀の兎の像が立っていた。
中に入るとちょっとした喫茶スペースと共にお土産の銀の兎グッズ等がある。
私は席に座る前に真理亜さんのお土産を買っておいた。
彼女は今までと違い、私がお見舞いに来ると細々と笑うようになるがまだどこか申し訳ない様な表情になる。早く元気になってほしいな。
そして、ホワイトベルを壊滅させることができた時彼女は再び自分の罪の為、少女院に戻ることになる。
今は命の危険があるから保護しているに過ぎないのだと吉城くんは言った。
彼は私の気持ちを汲んでくれているがやはり彼女をまだ許せないのかも。
その時髪の長いお化け…いや女装した吉城くんが入ってくる。
店員さんがギョッとしたが私達が近寄って行ったのでお仲間かと思われたっぽい。
「よぉ、幽霊。来たな?」
枝利香さんがニヤニヤする。
「幽霊とは失礼な」
「じゃあ何て呼べばいい?」
一応聞いてみると
「黒美でいいか」
と適当に吉城くんが付けた。
「はいはい黒美ね」
まぁ妥当だなと皆うなづき席に座る。
注文したジュースがやってきてどこに行くか地図を見る。
黒美ちゃんが私のジュースを味見している。
「問題なし」
と言いながら渡すけど関節キスになるから!!
しかしそんな様子に慣れている二人はもはや気にせず
「やっぱりこの中心の白い塔かなぁ…塔にたどり着く前に迷路が周りにあるみたいです」
と田淵さんがトントン指指した。
「うん…そうだな…とりあえず行ってみる?」
と私達はまず迷路へと向かった。
迷路って確か壁沿いに手を当てて行くといいとかなんとかあった気がするけど。
入り口は3つあった。
「洞窟迷宮へようこそーっ!」
とまたグラマラスな妖精が現れた!
「ふふふっ、この迷宮は迷ったら出て来れない恐ろしい迷宮です!白い塔へと辿り着けた者は僅か数人と言われています。旅人達よ…。リタイヤ時はこのベルを鳴らしてね?」
と白いベルを渡される。
全員ホワイトベルが頭に浮かぶ。
そんなベタなっ!と思うが。
「どうする?時奈と黒美は真ん中であたしは右、委員長は左で誰が塔に先にたどり着くか勝負しよう!」
と枝利香さんが提案する。
「いいね…じゃあそれでいこう」
「私が一番に着いて皆さんにお団子を食べさせましょう!」
「「「それだけは遠慮するっ!!」」」
と三人口を揃えてスタートした。
私と黒美ちゃん(吉城くん)は真ん中を通った。
「どっちだっけ…壁に沿って歩けばいいとか」
「それもそうだけどオーア・アルゴリズム法で探索した方が早いかな」
と言われて目が点になった。
おーああるゴリラ?
「ふふっ、まぁ見てて」
と彼は迷路の地図を出すとペンで分岐点を探し突き当たりになった所を塗り潰して行った。
見ていると段々塗り潰された所以外が一本の道になりゴールを示した!
「う…嘘!!凄い!こんな方法あったの!?」
最短であっという間に正解の道を探し出した彼のハイスペックさはやはり健在だ。
「じゃ、行こうか時奈さん」
と黒美ちゃんが手を差し出してくる。
私はしっかり握り歩き出した。
洞窟内は薄暗くちょっとした小物も置いてある。
冒険者らしき作り物の骨になった亡骸とか。宝箱とかもあり、中には偽物のルートを示す紙が入っていたりして惑わせてくる。
「ふうん、中々面白いね…結構広いし」
「枝利香さん達は大丈夫かな?」
「田淵さんはともかく枝利香さんは無理じゃないかな?」
確かに…枝利香さんは闇雲に走ってそうだし。
田淵さんはたぶん私と同じように壁に手を沿えて行ってるかも。
しばらく正解の道を進むと広い分岐点に出る。三又の洞窟に別れ正解は右だからそっちに進もうとしたらいきなり落とし穴がパカリと空き私は落ちそうになった所を彼が咄嗟に抱き抱え避けた。
「何だこれは…」
落とし穴を見ると竹槍が中に詰まっている。
流石にこんなの落ちたらグサリと刺さるぞ!
「ええっ…」
明らかに死ぬ。
「やっぱり…ここ変だね。時奈さん僕から離れないでね」
とカッコいい幽霊が言う。
「うん…皆大丈夫かな?」
「ああ…このベル…もしかしたら鳴らしたら敵が出てきて田淵さん辺りはもう捕まってるかもね」
「ええっ!?」
「そしてたぶん塔にいる…急ごうか」
と彼は私を抱えたまま走り出したので
「あ、歩けるよ!!重くない?」
と言うと
「全然!この方が早い!」
と、壁から何故かシュッと矢が出てきた。
それをヒョイと避ける黒美ちゃん。
つか、何ほんと!死ぬよ!私達を狙ってるとようやく理解できた。
そして天井からブンブンと大きな刃物が揺れている場所もあった。これタイミング悪かったら死ぬよっ!しかも速いよ!こんなの通れない!!
「しっかり捕まって、怖かったら目を閉じて!行くよ!?」
「ひっ!」
思わずギュッと黒美ちゃんの首にしがみつき目を瞑る。
黒美ちゃんは私を抱えたまま、トントンとステップを踏むように動き刃物を全て避け向こうへと到着した。
「ひええっ…」
よく首が飛ばなかったと考える。
「刃物の先は階段になっているね…」
黒美ちゃんは私を一旦下ろして小石を拾い階段に投げると階段が滑り台になった!
ひいいいいいっ!!!
これ滑ったら後ろの刃物まで落ちちゃうとこじゃん!!怖っ!!
慎重に滑り台を登り、ようやく塔が見えた。黒美ちゃんはまた小石を何個か投げると何と地面が爆発した!!
「地雷だね…」
とそこで
「おっ!黒美!時奈!来てたか!」
と枝利香さんが到着した。
「枝利香さん!大丈夫だった?怪我は?」
「あ?大丈夫だよ!変な仕掛け一杯あったけどな!」
「やっぱり田淵さんは来ないか…捕まったな」
「え?捕まった?リタイアだろ?」
枝利香さんがキョトンとした。
事情を説明したら
「そう言うことかよ!なら尚更とっとと塔に入んなきゃな!」
と枝利香さんが拳を作ると塔の扉が開いて中から着ぐるみの熊さんが顔を出した。
「敵かっ!!」
と枝利香さんが構えたが、黒美ちゃんが
「鳴島!」
と叫んだ。
熊は顔を取ると鳴島さんの顔が現れた。
「はあん♡鳴キュンだあっっ!!」
と枝利香さんがアホになった。
鳴島さんは着ぐるみを脱ぎ捨て
「坊っちゃま…皆様ご無事で。お先に来て待っておりましたと言っても私は迷路の地下を通ってこちらに来ましたが」
「地下があったのか」
「リタイア用の通路を兼ねているのでしょうね」
と鳴島さんは田淵さんがいないことに気付いた。
「田淵様は」
「恐らく人質に取られたな」
「なんと…」
「とりあえず中に入ろう!危ない仕掛けもありそうだし注意していくぞ!」
と私達は塔の中に入る。
瞬間扉がロックされた音がした。
「おや、先程は簡単に開きましたのに…それに地下への通路もいつの間にか閉鎖されておりますねぇ」
と床を見る鳴島さん。
「汚ねぇ真似しやがるな…あたしらを閉じ込めたってのか…?」
塔は上へと続く長い階段がある。長いっ!
「登るしかないな…エレベーターくらいつけとけよ!」
と黒美ちゃんがぼやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます