激甘リハビリ生活

第19話 キス慣れなどしない

 学校が下校のチャイムを鳴らした。


「お熱いね、また彼氏の見舞いだろ?」

 と声をかけたのはなんか何故か仲良くなった不良の舞川さんだ。

 彼女のおかげで私は注目されどもかなり助かった。

 不良だけど私が他の女子に質問責めや軽い嫌がらせを受けたら駆けつけて徹底的にその女子に睨みを利かせ手出しさせなくする。


 他にも彼女は貧乏で頑張ってることとか話してくれてなんだか共感した。

 基本的に良い子なんだな…って思った。

 しかも何故か迎えにきた鳴島さんの前で彼女は熱い視線を向けている。


 え…まさかのジジ線?

 舞川さん凄い趣味だわ。

 いや、確かに鳴島さんはイケジイだろう。でも結婚してないの?

 私はそれとなく聞いてみたが


「私ですか?かなり若い頃病弱な妻に先立たれまして子供もおりません身です」

 ええ、そうだったのか…しかし舞川さんとの年の差はお爺ちゃんと孫くらい離れてると思うのに。

 でも芸能人でもとんでもない年の差カップルとかいるしなぁ…。


 と考えてると病院についた。

 栗生院くんが入院して1ヶ月が過ぎた。

 彼は車椅子での移動を始め、リハビリも開始し始めた。

 早いっ!

 安静にと言われていたが少しだけならと医師の許可がおり、頑張っていた。

 まだヨタヨタと歩く姿を見て泣きそうになる。


「時奈さん!お帰り!」

 彼はリハビリ室に来た私を見ると棒に持たれかかり息を切らせている。

 また無理しやがって!

 と駆け寄ると抱きつかれて額にキスされる。

 おい、外人じゃないんだよ!

 リハビリの講師の先生はこんな時だけ壁の方を向いて見ないようにしてるし!見たら殺すとでも言われてるのか?


「うぐっ!!!」

 私はやはり変な声出して真っ赤になる。

 …あれからひと月毎日病院に行く度に頬やら額やら瞼やら手に隙あればキスされる。

 いい加減キス慣れしろよ自分!毎日されてんだぞ!流石に唇にはされたことないけど。


 彼曰く


「唇には退院してもっとムードのあるところでしたい!!楽しみにしててね!」

 というこだわりがあるらしい。

 いや怖い。3ヶ月後にファーストキスの予約が入ってるよ!どんなオーダーだよ!

 そしてどんな凝ったシチュエーションになるのかもはや想像してはいけない!


「栗生院くん…大丈夫?額に汗が…」

 とハンカチで拭いてあげると

 彼はまた喜んで抱きしめる。


 そりゃイケメンの汗とか最高のご馳走ですけど!

 そろそろ病室に戻って安静にさせないと!

 彼を車椅子に乗せ私は後ろから押している。


「今日も舞川さんとお喋りしたよ…不良だけど優しいとこあるし…私のお弁当をつままれたよ」

 というと栗生院くんが反応した。


「いい友達ができて良かったね…でも時奈さんのお弁当をつまみ喰いするなんて羨ましいね…。僕なんて未だにあまり食べれないのに…。ああ、時奈さんのお弁当食べたい!」


「まだダメだよ…流石に」

 彼はまだ点滴と柔らかい水みたいな病院食しか取れないので不満だ。

 固形物が食べられるのはまだ先。


「早く退院したいなぁ…元気になったらまたバイトして身体動かしたい」


「あ、あんまり無茶しないでよ…退院してすぐ戦うというかボコられに行くなんて…」


「時奈さんは優しいな…はあ…好きだ」

 と言われ髪にキスされる。

 ひいっ!激甘ーーーっ!

 緊急警報がブーブーと私の中で鳴り響く。

(私の髪の状態を確認せよ!)

(はっ!昨日もきちんと洗っております!

 何故かあるマンションの浴室の最高級なシャンプーのおかげで私の髪はここ1ヶ月かなりのキューティクルを維持しております!)

(ボディはどうだ?)

(相変わらずツルペタであります!)

(やかましい!そこはいい!そこにはもうふれるな!撃ち殺すぞ!)

(申し訳ありません!火傷の跡は完全に消えてマンションにある何故か高級なとんでもないいい香りのボディシャンプーを貧乏ったらしくちまちま使っておりますが匂いに問題なし!高級シャンプー万歳!であります!)


 などと言うくだらない脳内会話でボーッとしていたら


「時奈さん?おーい?おーい?戻ってきて?」

 という声でやっと正気に戻る。


「はっ!」


「大丈夫?ごめんね?まだ慣れない?それとも嫌?」

 とイケメンが切ない顔を向けてくる。

 まだ攻撃しようと言うのだろうか。もうこっちは立っているのもやっとだよ!

 崖に落ちる寸前までイケメンに追い詰められているよ!

 バリアを!A●●●ールドを張れ!


「…嫌じゃないけど恥ずかしいし私でいいの?」

 と1ヶ月も毎日されてるのにこの後に及んで疑う自分に後悔する。

 だって!実は私なんかよりめちゃくちゃ可愛い看護婦さんが血圧を測りに来ているところを見たりしてるし。

 しかもめっちゃボインでわざと私に見せつけて栗生院くんに胸を押し当てていた。

 しかし栗生院くんは一言


「邪魔!くっつくのやめてくんない?クビになりたいの?」

 とバッサリ冷たい目でボイン看護婦を振ってたけど。


「おい、鳴島…あの看護婦減給しとけ」


「はっ!坊っちゃま!」

 ひいいいっ!胸押し当てられたら普通は喜ぶと思うんですが減給されたボイン看護婦にちょっと同情した。


「同じ胸なら時奈さんのがいい!」


「無いから!いや!あんなに無いの!やめてっ!」

 とシクシク泣いた。


「ごめんね?でも大きいと肩凝るんでしょ?僕はどっちでもいいけどというか僕がいずれ大きくするから心配しなくていいよ」

 と言われて鼻血でそうになるやんか!

 やめろ!A●●●ールド粉々になった!!



「時奈さん…まだ疑っているようだけど僕は君がいれば世界中のボインを撲滅してもいいくらい愛してるんだよ?」


「辞めたげて!流石にボインに夢見た男子が可哀想だよ!」

 このサイコならやりそうだから怖い。

 世界中からボインが消えたら一体どれだけの男性が嘆き悲しむんだろう?

 少なくともオッパイマウスパッドの売れ行きが良くなるだろう。


「…だから早く元気にならないとね!」

 と、どっから出したのかベッドサイドにダンベルがあった。

 ひいっ!


「ダメダメ!こんなのまだ!」

 とダンベルを取り上げようとしてめっちゃ重かった!


「鳴島さん!なんとかしてください!!」

 と私が涙目で言うと

 スッと現れた鳴島さんが軽々取り上げた。


「坊っちゃま…安静にと言ったでしょう?これ以上言うことを聞けないのなら明日は雪見様にはお見舞いをご遠慮してもらいましょうか?」

 と言うと栗生院くんは


「判ったよ、大人しくしておくよ…」

 と口をとんがらせた。

 やれやれ。

 何だかんだ毎日お見舞いに来て幸せな時間を過ごしている。

 栗生院くんも少しずつ良くなってきてるし。

 近頃はあまりマスコミの姿も見なくなった。ひと月立てば落ち着くのねー。

 ようやく平穏がきたのかな?

 いや病院では激甘ハードですが。

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