第8話 バイト先に怪人が現れる

 はあ…

 授業が終わり、下校し私はバイト先に向かった。

 もうすぐコンビニにイケメンが舞い降りる。騒ぎになるのやだなぁ。

 しがないクソダサメガネ店員なのに。


 バイト先に着くと大量の在庫処分しなくてはならない売れない怪人チョコスナックのダンボールの山があった。

 これは悪の組織の経営する会社が出している商品だ。悪いけど全然売れない。

 子供は正義の会社の出しているヒーローのお菓子を買い漁っているからだ。


 だがこちらも売らないと赤字なのでとりあえずセールで安くして出さなければならない。

 賞味期限も迫っているし。


 私がモソモソと商品を陳列していると…

 来店の音楽が鳴る。

 そしてきゃあああ!!

 という悲鳴が店内に響いた。


 ああ…来たよイケメンが…。しかし私には陳列の仕事がある。もう無視しとこう!うん!

 と続けてモソモソダンボールから商品を出そうとしてダンボールを思い切り誰かに蹴られた。


 え?


 そして私は目の前にスライム怪人が立っていることに気づいた。

 全身がゼリーみたいにプルプルしてるけど人型で一応目玉が一つギョロリと付いている。


「おい、店員!俺たちのお菓子がセールされてるってどういうことだ?あーん?」


「ひっ…ひい!」

 私は初めて怪人と遭遇した雑魚店員になってしまった!

 他の店員は店の奥に隠れているみたい。ヒーローに連絡してるのかも?


 これはなんか殺されたりするパターンでは??

 怪人は私を掴み身体から蛇みたいな細いゼリーを出して私の足に巻きついた。


 熱い!ズボンが溶けてしまう。

 ひいいいっ!やっぱりここで殺されるんだ!雑魚は殺されるのよ!


 しかしそこで


「おい…僕の彼女に何をするんだお前は…」

 と栗生院くんが現れる。

 ええええっ!ヒーローかよ!

 いや、ヒーローではないけど、この人下っ端だもんね正体!

 なら怪人には勝てない!


「おおお?何だお前は?ヒーローか?綺麗な顔しやがって!その顔をドロドロに溶けさせてやろう!ゼリリリリリ!」

 と怪人はビュルンとゼリーの蛇を栗生院くんの顔めがけて放った。

 ああ!お顔が!栗生院くんの顔がああ!


 しかし彼はそれをさっと避けて私の前に立つ。


「大丈夫?雪見さん…ちょっと待っててね?こいつをお仕置きしないとね?」

 と言い、何かグローブを装着してそれにポケットから出したライターで火を付けた。


「なっ!何してるの!火傷しちゃう!!」

 私は驚いて叫ぶが彼はお構いなしで笑う。


「大丈夫心配ないよ?特別性なんだ!…それより…僕の彼女に酷いことしたよね?お前」


「ゼリリリリリ!変身しないのを見ると一般人だな?バカめ!怪人の力を侮るなよ!死ねえ!」

 と怪人は栗生院くんに向かって大量のゼリーをぶつけてくる。


 しかし彼はその全てを炎の物凄いパンチで消し炭にした。


「ゼリッ!?」


「お前は火が弱点だろ?ゲームでよくやったよ…。本当なら爆破してやりたいとこだけどね、雪見さんの店だし我慢してやってるんだよ……」

 そして怪人が戸惑った隙を栗生院くんは見逃さず素早く怪人に突っ込んであろうことか怪人の中に入った!

 そして怪人の身体を火がついたグローブで中から殴りつけると怪人が膨れ上がり爆発した!

 スライム怪人は消し炭になり吹っ飛んだ。

 辺りには炭が散乱し、目だけがベチャりと落ちてそれを栗生院くんは無言で踏み潰した。


「栗生院くん!!」

 私が駆け寄ると栗生院くんは自分の火傷より私の足を心配した。


「大丈夫?痛いでしょ?」


「わ、私よりあなたの方が!!」


「僕は平気だよ?軽い火傷程度。すぐ治るこんなの…」

 しかし私はボロボロ涙が出て彼にしがみつく。


「!?ゆ…雪見さん!?」

 何故彼が怪人に勝てたのか知らないけどそんなのいい、

 私は栗生院くんが無事で良かったと心底思ったのだ。


「僕は大丈夫だよ?ほんとに大したものじゃない。実は下に耐熱繊維の下着も着ていてね。それより雪見さんのが酷い!早く冷やそう!」

 と彼はまた私をお姫様抱っこで


「鳴島!水!」

 と栗生院くんが叫ぶとどこからともなく老執事が大量に水を抱えて走ってきた。

 後には部下らしきスーツマンも同じように水や氷を抱えてくる。一体何処にいた?

 客から黄色い歓声が上がり、店長が奥から出てきて


「大丈夫かい!これ氷!使って!」

 と冷凍庫から出してきた氷を袋に詰め持ってきた。店長め!今頃!


 溶けたズボンで太ももまで足が見えていてそれに添うように蛇が巻きついた跡の火傷がある。恥ずかしい…。


「手当は僕がしますのでもう、行っていいですよ?」

 と栗生院くんは店長を睨みつけた。


「あ、ああ!任せたよ!」

 その時店に怒号が響いた。


「怪人はどこだああ!通報を受けてグリーン参上!!」

 どうやらヒーローグリーンが来たらしい。

 もう終わってるけど。


 栗生院くんはちょっと焦げた上着を脱ぎ私の足の上にかける。


「ん?君は…怪人?」


「一般人ですよー?弱い怪人だったので倒しました」

 とにっこりと栗生院くんは敵であろうヒーローに微笑む。

 するとグリーンは


「へえ、君怪人を倒したのかい!中々やるな!どうだい?うちに来ない?」

 と勧誘された!!


「いえいえ、僕は彼女を命がけで守っただけなので…ごめんなさい」

 グリーンはちらりと私を見て


「えっ?これ…っ!この子が君の?彼女?」

 と物凄い失礼なことを言われたが私はクソダサいメガネ女なので当然の反応だった。

 しかしそれに栗生院くんはキレた。


「何だと?僕と釣り合わないってこと?それはちょっとイラつくなぁ…」

 と今まで見たこともないくらい怖い顔でグリーンさんを睨んだ。

 栗生院くんは私なんかの為に何故か本気で怒っている!

 これは止めないとグリーンさんが死ぬ!


「なっ…何者だ!君は!」

 グリーンさんも栗生院くんの気迫に気付いてなんか構えてる。

 ヤバイヤバイ!何か判らないけど私の中の何かがヤバイと告げてる。


「坊っちゃま!!」

 そこに鳴島さんが止めに入った!

 おおおっ!鳴島さんこそまさにヒーローではないの?窮地を救う!


「どうも申し訳ありません、グリーン様!いつもお勤めご苦労様です!うちの坊ちゃんは格闘技を習っていまして、たまたま弱い怪人だったので何とか倒せたのです!お手間を取らせ申し訳ない。後日正義の組織へ失礼を働いたことを謝罪に…」

 と言う鳴島さんに


「…いやいい、俺も悪かった…彼女をバカにされたら怒るよな?うん、怪人もいないし俺は帰るわ!じゃあなっ!」

 とグリーンは帰っていった。


「ちっ、ギャラリーがいなければぶっ殺してたよ…」

 小声で恐ろしい声が聞こえたが気のせいだと私は思った。

 そして散乱した炭だの商品だのの片付けを思い絶望する。


 栗生院くんは人払いをするとコンビニの休憩室で買ってきた水を私の足にかけ始めた。水道水でいいのに!!六甲の高い綺麗な水をかけとる!!勿体ない!


「すぐに処置したかったのにあのグリーンが邪魔してごめんね?やっぱり殺しておけば良かった」

 物騒なつぶやきを漏らすがそこへ店長が遠慮がちに様子を見に来た。


「店長さん、雪見さんは怪我をしたので早退でいいですか?代わりの人員は僕が手配をしておきますので」


「えっ…あ、ああそうだな!雪見くん、病院行きなさい、ほんとに災難だったよ…あ、でもうちの店有名になるな…怪人に襲われたし!よしこれからマスコミも来るから忙しくなるぞ!」

 店長あんた…ヒーローだけじゃなくマスコミにも通報したのか!なんて現金な!


「ではこのまま行きましょう雪見さん」

 と姫抱っこのまま栗生院くんは私を抱え、ギャラリーはまたうるさくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る