第70話 バレンタイン戦(中)

 私達は無事に買い物を終えて帰路に着いた。


「今日は最高のチョコレートケーキの王様を作ってやるぜ!!」


「わ、私も頑張って王様を作るよ!!」


「二人とも…頑張ってね!失敗しても凹んじゃだめよ?大切なのは!愛なのだから!!」

 と桃華さんが言う。

 おおう!いきなりプレッシャーが!!失敗とか聞くとヤバイ!ほんとに失敗しそう!!

 なんか不安になってきた!


「もう皆で作ってもいいんじゃねぇの?どうせ同じもん作るんだろ?」


「私はフォンダンショコラを作るけどね」

 と桜庭さんが言う。


「流石大人の女!桜庭さん!クックバンド人気1位のそれを作るなんて!」


「ふふ、だってこれを食べてる蒼くんを想像したら楽しみで仕方ないわ!絶対にチョコで口の周りベタベタにしそうだし、服にもこぼしそうだし私の女子力で全力カバーよっ!」


「チョコを食べた後のお世話まで考えているなんてやるわね!桜庭さん!」


「桃華ちゃん…貴方はどんなチョコを作るの?」


「私?私はもうレシピなんて頼らないオリジナルチョコに決まってるでしょ?こう見えて桃華…パティシエ選手権高校生の部で優勝してるから!」


「「なっ!何だってえええええ!!!」」


「ただものじゃ無い小娘と思ってたけど桃華ちゃん…貴方…やはり力を隠していたのね?なんてことなの…そして私には越えられないというの?敵わない!こんなんじゃ蒼くんをベタベタにできないかもしれない!」

 いやできるでしょ?普通にフォンダンショコラ作れば良くない??


 がくりと落ち込むがそこに恐怖の対象が現れた。


「あれ?舞川さんに雪見さん?何してるんです?あ、もしかしてバレンタインのチョコ作りですか?私も友チョコ作ろうと思ってるんですよ!一緒に作りません?」

 とそこには超絶料理下手な委員長の田淵さんがニコニコして立っていた。


「あら、ご学友?なんか女の子集まっちゃったし折角だし一緒に作る?」


「わぁ!是非是非ー!!」

 と桃華さんと桜庭さんに委員長ははしゃいだ。


「「私達は遠慮します!」」

 と私と枝利香さんは逃げた。


「え?何で?」


「いやっ…とにかく私一人でやってみます!ごめんなさい!!い、行こう枝利香さん!!では失礼します!!」


「だな!悪いけどあたしも家族の夕飯作りとかもあるからっ!!」

 と私達はその場からダッシュで逃げた。

 後日あの三人がどうなったか言わなくても解るが散々な目に遭ったらしいのは桃華さんと桜庭さんの顔を見て察した。


「危なかったな!田淵に捕まったら間違いなくバレンタインどころじゃないからな!」


「そうだね、もはや危険因子だよ!私達は頑張ろうね!」

 と枝利香さんと私は握手して別れた。


 マンションに帰る頃どこかでバタバタ音がしたり女の人の悲鳴が聞こえた気がしたけど無事エレベーターに乗り部屋に戻ると吉城くんがニコニコ待っていた。


「おかえり!今日は僕が夕飯を用意しておいたよ?」


「ええ?ほんと?」

 と見ると豪華なディナーが並んでいた。どこのシェフに頼んだんだろう??


「も、もう、こんな豪華なもの頼んで!!」


「ふふ、疲れてるかなと思ってさ、たまにはね?」

 も、もう夫かー!!!


「あ、そうだ…明日は僕学校を休むんだ」


「え?どうして?」

 と聞くとどこから現れたのかひょいっと暁雄さんが現れた。


「やあ、大福ちゃん!知りたいかい?」

 何でいるの?


「実はね僕等イケメンに変な派閥ができてしまってね、今まではまぁ僕の独占だったんだけど、今年は吉城のファンもネットで爆発してしまってね…明日は吉城も僕も必死なのさ!チョコレートを渡す女子からの戦争にね!」


「せ…戦争!?」


「僕は全然ウェルカムだけどー!流石に量が量だけに!全ては受け取れない!換算すると三年分くらいは軽くもらうからね、消化するどころじゃないんだよ!」

 なっなんじゃそりゃ!!ええっ?


「よよ吉城くんもそうなの?毎年?」


「あ、僕は毎年カンボジアに寄付してるよ全部」


「まぁ俺も似たようなものだね、孤児院や養護施設に贈ってるし。病院の子供達とかにも」

 イケメン過ぎるのも大変なんだなぁ…。


「だから明日は街中から狙われることになるんだ…素顔で外を歩くなんて危険過ぎる…チョコとか飛んでくるからね!」

 どういう状況!吉城くんが歩いてただけで女子がチョコぶん投げてくるって事??

 でも冷静に考えたら親衛隊まで出来てしまった事実をみてもあり得そう!


「そこでケルベロスは対策を講じました!」


「対策??どんな?」


「それは…明日になってからのお楽しみだよ大福ちゃん?君も参加するといいよ!…あ、俺のぶんのチョコも作っていいんだよ?」

 と言うとブスリとまたダーツの矢が頭に刺さり暁雄さんは


「それじゃ、また明日!」

 と部屋を出て行った。

 なんなの?参加って?

 ジッと吉城くんに説明を求める目を向けるけど彼は教えてくれず


「さあ、食べようか?美味しいものを食べて明日に備えよう!」

 ???

 もう訳が判らないが私はクソ上手い夕食を口にした。これ絶対私の夕飯より上手い!!

 食後に吉城くんは


「トレーニングルームに行ってくるね、今日は朝までやることがあるから部屋には戻らないよ」

 と気を使われた。絶対私のチョコ作りに協力してくれてるわ!優しいわ!!好きだわ!!


「い、行ってらっしゃい!頑張ってね?」

 と謎の頑張ってを言い見送る。

 吉城くんは一度ハグして額にキスすると部屋を出て行った。

 くっ!やっぱりカッコいい!!


 さてと…


 私はようやくチョコ作りに取りかかった。私は作る!チョコレートの王様を!!


 しかしこの後4回くらい生地の焼きに失敗した。さすが王様は手強い!

 ようやくなんとかハート型の生地が焼けて材料を混ぜたチョコをコーティングしていく。慎重な作業だ。

(時奈!ここで失敗したら水の泡よ!)

(愛を込めるのよ!)

(そう言えば愛ってどうやって込めるの?作ってる時点で込めてんの?今込めるの?込めるって何?美味しくなあれっ♡ってやつ?)

(それメイド喫茶のメイドじゃない?)

(ドラマとかでよく言ってんでしょ!渡す時に愛を込めたって言っとけばいいのよ!)

(なにその後出しジャンケンみたいな愛は!!)

(なんかもう♡型してるケーキだからフワっと誤魔化しとけ!!)


 そして私は出来たケーキを冷蔵庫に入れて冷やした。


「はあ…つ、疲れた…」

 こんなに本格的なチョコを作ったのは初めてで、レシピ通りに頑張ったし、一応味見を少ししたけど悪くはないと…思う。というか普通…。

 でも万一ダメだったらどうしよう?

 だって吉城くんは!世界のグルメを食べ尽くした男!!舌が肥えている!


 桃華さんみたいなパティシエレベルでもないしこんな普通なものでいいのかな?あああ!不安!!


 私はお風呂に入りそのまま眠り、朝早く起きて作ったザッハトルテをラッピングした…。というか…ザッハトルテも普通ならラッピングもど下手くそだった!!な、何だこれ?ゴミ??ヤバイ!ラッピングの仕方を研究しておけば良かった!!ううう!女子力のなさに私はがくりと頭を落としたが何とか袋に入れた。一応保冷剤も入れておいた。


 吉城くんは戻ってこないので朝食を済まし学校の準備をした。しかしテレビを着けてギョッとした。


「おはようございます!皆さん!ケルベロスの総帥紅です!!今日は全世界の女性が待ち焦がれた日ですね!!しかし!あまりに大きな愛で俺は埋もれてしまいそうだよ!」

 と総帥である暁雄さんが朝からウインクしている!


 そして暁雄さんは戦闘員Eの衣装を着た吉城くんを引き寄せた。

 彼は少し青ざめていた。


「もうバレちゃってるから言うけどEくんの正体は栗生院吉城くんだ!彼の親衛隊もできてるみたいだしね!そこで!今日はEくんが街中にたーくさん出没します!!」

 は?たくさん出没する?


「ヴォーリーを探せ!曰く!Eくんを探せ!だよっ!だからEくんの親衛隊の皆さんは本物のEくんを見つけることができたらチョコを渡せるということだよ!ちなみに偽物のEくんにチョコをあげたり投げたりした場合は!向こう3年間は彼にチョコを渡すことを禁じまーす!破った女子にはお仕置きで催眠術で彼に関する記憶を全て消させていただくからよろしくねっ!」

 と恐ろしいことをさらっと総帥は言った。


「さあ!Eくん!折角だから君も一言どうぞ!」

 とマイクを向けられ青ざめて引きつりながらも彼は


「ちなみに期限は今日だけです!明日のものは受け取りませんので渡しに来ないでください!破ったら記憶消します!」

 とサイコは言った。


 そして前代未聞のバレンタイン戦が幕を開けたのだった。

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