第83話 誕生日が終わる前に

「………どいて」


「何か言ったの?もう貴方と彼は終わりよ!!」

 笑い続ける彼女に…

 私は思い切り体当たりして吹っ飛ばした。


「ぎゃっ!!」

 ドタリと畳に倒れた真理亜に私は睨んだ!


 彼女は起き上がり


「ふん!ざまあみろ!雪見時奈!これで明日の新聞一面にこの写真が載るの!帰るわよ!綺羅里さん!!」

 しかし風呂場で西園寺さんが気絶してるのを知らない真理亜は笑い続けた。

 私は彼女に平手打ちをした。


「何すんのよっ!」

 彼女も私を叩いた。

 でも負けずに返してさらにまた叩く!

 そして取っ組み合いになりゴロゴロ転がり

 真理亜に上に乗られ今度はグーで殴られそうになる!


「雪見時奈!お前なんかが幸せになれるとでも思ってるの?」


「何で?…私が幸せになっちゃいけないの?」

 私は泣きながら声を出した。胸がズキズキして痛い。


「ふふ!いい気味!その顔も撮ってやるわ!」

 と彼女は私を押さえつけてスマホを取り出した。

 しかし…


「ねぇ…よくも時奈さんを泣かせてくれたね?君達の悪行はこの部屋の隠しカメラで全て撮影させてもらったから危ないのはそちらだと思うよ?」

 と吉城くんが寝室のふすまから現れた。


「な、なっ!何?何で?貴方動けないはずじゃ!!」

 動けないはずの布団で寝ていた吉城くんはむくりと何もなかったように起き上がる。


「栗生院吉城が!二人!?」


「君がさっきまでキスしてたのは僕の人形だよ。バカじゃないの?人形との区別もつかないでよく親衛隊隊長なんてやってるよ」

 真理亜が青ざめた!

 しかしそこまでだった。襖近くの吉城くんは高速で真理亜に近付き容赦なくスタンガンを浴びせた。


「きゃあああっ!」

 バチバチと音を立て真理亜が気絶した。

 吉城人形も彼女をロープでグルグルと巻いた。


「大丈夫時奈さん!ごめん!痛かったよね!」

 と頰に手を当てる。


「あ、あれ…キスされてたのは吉城人形だったの??」


「そうだよ…。お茶に何か仕込まれてるのに気付いて飲むフリをした。時奈さんがお風呂場へ行ったのを見計らい押し入れにあらかじめ隠してた人形とこっそり入れ替わり僕は押し入れに隠れて様子を伺ったんだ。数分後あの二人が入ってきて身代わりが倒れたフリをしていると二人は人形を抱えて寝室へと運び、西園寺は風呂場へ向かったんだ」


「…隠しカメラって…そんなの始めからあったの?」

 ひいいい!用意周到か!

 私は気が動転して本当に吉城くんが他の女とキスしてるのを見て少なからずショックを受けたのに。


「何か仕掛けてはくるだろうと警戒していたからね…この部屋は本当はダミーとして利用してたんだよ…時奈さん何も言わずにごめんよ?本当の部屋に行こう」

 と彼はそのまま私を抱き抱えると別の部屋へ移動した。部下らしき人がさっきまでいた部屋に入って行ったのが見えた。


「今頃カメラの回収に彼女達の持っていた証拠のスマホやお茶に入れた成分なんかも調べさせているよ。もう彼女は終わりだ」

 確かにあれが世間に出回ると彼女達は言い逃れ出来ないだろう。

 別の部屋に入り鍵を厳重に閉めて確認する。


「ごめんね、ビックリさせて。もう大丈夫。安全だよ…。頰は平気?」


「…吉城くん人形でも傷ついた私って一体…」


「僕が時奈さん意外とキスなんて許すと思う?もう油断はしないって決めてたからね…この宿もあいつらが嗅ぎつけるのは承知の上で予約したのさ…案の定罠に引っかかったよ。奴等は変装して潜り込んだみたいだけどね」

 とイケメンサイコは笑った。

 そしてその部屋にも付いている露天風呂に案内されるとさっきの部屋よりも眺めが良かった!

 なんと滝が見えてそこに小さな虹までかかっていた!


「凄い…」

 こんな神秘的なものを私はTV以外で初めて目にした。


「18歳の誕生日おめでとう!」

 やっぱりバタバタしたけど頰も少し痛いけど私は感動でまた泣いた。


 それから落ち着いて部屋を見るとなんと雛人形が置いてあった!


「雛人形!!本物の七段飾り!!わぁ!!」

 私は童心に返ったように近寄り眺めた!

 うおおおお!凄い!三人官女も五人囃子も、小物の細部まで見ていて飽きない!


「今日は3月3日だしね…明日には片付けるだろうけど…少しでも喜んでくれた?これ気に入ったら宅配でマンションに送ってもらおうか?来年また飾れるね」


「ええっ!いいの?あっ…値段が!!」

 雛人形って高いよね?しかも七段か…。バイトで…。


「いいよ、もし将来娘が産まれたらあげれるし」

 と彼は私を優しく抱きしめる。


「ひぐっ!!」

 娘!!絶対そんなの吉城くんに似てほしいけど!!先だからまだ先だから!!


「時奈さん…じゃあとりあえず温泉に入っておいでよ…ゆっくりして?今度は安心だからね?」

 と彼は座布団に座ろうとしたので


「あっ…あの!いっ…しょに…」

 赤くなりながらそう言うとまさかって顔で見られた。


「タオル巻いておくし!!」

 私は恥ずかしくなりダッシュで風呂場へと向かう。別に一人でも良かったけどこんな眺めを一人で見るには惜しいと思っただけだし!


 しばらくすると吉城くんが赤くなり現れてゆっくり湯船に浸かる。


「まさか…吉城人形じゃないよね?」

 一応確認すると


「人形に譲るわけないでしょ?」

 と返された。


「吉城くん本当に今日はありがとう!いろいろあったけど、こんな眺めが良くて虹までかかってるし!薔薇のネックレスも雛人形も!全部嬉しい!…こんな誕生日ないよ!」

 とまた感動で泣き始めると


「何言ってるの?まだ今日は終わってないよ?夕飯も豪華だしケーキもあるし…まだたくさん時奈さんが喜ぶ顔が見たいよ…」

 彼は嬉しそうに頭を撫でる。

 幸せでもう死にそう。


 お風呂を上ると私達はお土産を見たり、旅館の庭園を周ったり楽しんだ。簡単なゲームや卓球もあった。卓球はド下手くそな私には無理だった。しかも揺らす胸すらないよ!!

 夕飯も美味しいお肉が沢山出てきた!ヤバイ太る!

 そしてケーキも従業員と女将さんまで並び拍手され祝福された!


「さてここでサプライズです」


「え?」

 まだなんかあるの??

 と思っているとテレビがついて中に

 お父さんとお母さんがいた!!


「えええ??」

 驚いて両親を見る。


「時奈…元気かな?18歳おめでとう!そしてあんなイケメンに幸せにしてもらってお母さん嬉しくて仕方ない!玉のこ…ゲホン!!とにかくおめでとう」

 今お母さん玉の輿とか言おうとしてなかった?


「時奈…身体は大丈夫だよね?毎日栄養あるもの食べてるんだろうなぁ?お肉とか。お肉とか。お肉とか。お父さんもお肉好きだけど時奈は昔からお肉の代わりの豆腐バーグで我慢させていたから今本物のお肉を食べさせてくれる良い彼に出会って心から祝福しているよ!」

 お父さん!!もはや遠回しの肉催促じゃないかっ!!辞めて!恥ずかしいよ!!


「時奈…それじゃあ幸せにね!」


「誕生日ほんとにおめでとう!お父さん達もこれから世界一周旅行に行ってエンジョイしてきます!!栗生院様によろしく!!」

 とお父さん達は旅行鞄を最後にジャーンと見せた!!


 ええええっ!?世界一周旅行だとおおお??


「時奈さんをここまで育てていただいたご両親にもプレゼントさせていただいただけだよ!」

 とニコリとイケメンが微笑むが、完全にうちの両親調子に乗っているよ!!


「まぁ最近時奈さんの親にもネットで酷い言葉とか見たりしたからさ…ほんとごめん」


「え…そうなんだ…」

 知らなかった。家族まで馬鹿にされてたのか…。私のせいで色んな人が被害を。


「でも生まれてきてくれなきゃ僕と出会えなかった。感謝してるよ…ご両親には。僕はもう二度と会えないし…」


「吉城くん!うちのダメ親で良ければいつでもコキ使ってよ??」


「あはは!そんなことしないよ!娘はやらんって言われたいし」


「いや絶対涙流して喜んでやるって言うよお父さん…」


 そして気付くともう夜も更けてた。

 寝室に行くと布団はちゃんと二つあった。

 並んで寝るのも恥ずかしいけど…。


「時奈さん…」

 彼は私に近寄り優しく押し倒した。

 一気に心拍数が上昇した。


「まだ…誕生日終わってないね…嫌じゃなきゃ終わる前に触っていい?」

 と真っ直ぐ見つめられる。私は真っ赤になり


「う…は…」

 はいって言おうとして唇を塞がれ、そのまま私達は愛し合った。

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