第112話 ラブコール2

 今日は校外学習で午前中は琉球博物館や美術館などを見学し、午後はバナナボートにクラス毎に分かれて乗る予定だ。その後、イルカと触れ合えたり出来るらしい。


 博物館では沖縄でも滅多に見れないと言うヤンバルクイナという鳥の天然記念物の剥製などがあった。他にも歴史博物館やシーサー美術館などを見て回った。どう見てもポシェットモンスターのピケちゅうにしか見えない黄色いシーサーもいた。


 お昼を食べて、マリンスポーツのバナナボートに乗り込む私達。眼鏡は外して乗ったのであんまり見えなくて周りはキャーキャー!と叫んでいたがあんまり判らなかったというやつ。


 その後はイルカを触り癒されて宿に戻り、夕食までのフリー時間を楽しむ。宿にゲームセンターがあったので枝利香さんはアーケードゲームで田淵さんと対戦してボコボコにのされていた。田淵さんは機械には異常に強いのだ。


「生身なら負けねぇのに!!」

 と悪態をつく枝利香さんに田淵さんは上機嫌だ。私と枝利香さんは一緒にゾンビを倒すゲームをしたが、私が間違って枝利香さんを撃ち殺し


「うわっ!時奈に撃たれた!!酷えよ!」


「ごめん!間違えたんだよ!」


「よし、お返しにお前も死んどけ!」

 と一回殺される。そういうゲームじゃないよ!?


「そう言えばそろそろかかってきそうですね」

 と田淵さんは私のスマホを見てニヨニヨしたが電話はかかってこずだ。


「流石に諦めたか?それともこっちに向かっていたりしてな」


「いやいや、まさか!流石に約束は守るから待ってるはずだよ?」


「忠犬吉公かよ!」

 と枝利香さんが突っ込み笑った。

 すると枝利香さんの電話が鳴り、枝利香さんは電話に出ると低い声のイケメンが怒りに満ちて


「バイト代を減らそうかな」

 とか言って枝利香さんは


「すいません!ボス!!ていうかお前どこで聞いてんだよ!怖えな!!」

 とまた突っ込んで私によろしく言っておいてと切れた。


「あー怖っ。滅多なことは言えんな」

 部屋に戻ると私達はあっ!?という声が出かかった!!

 私のベッドの上には青い薔薇が置いてあり、メッセージカードに


(怪我がないように、蜂蜜食品には注意してお過ごし下さい。今日もお疲れ様です。明日会えるのを楽しみにしています 吉城)

 と書かれている。


「いやっ!どうやって送ったんだよ!!怖えな!!」


「流石ですね。たかが2泊3日でも離れたくないなんて!どんだけ愛されてるんですか!時奈さん!」

 と田淵さんも引いた。


「はは…持って帰るのが恥ずかし過ぎるからなんか袋買おうかな…」


「こんなのE様ファンに見つかったら時奈タコ殴りじゃねーか!!」


「いや、そこまでは…沖縄旅行に来て何故か青い薔薇持ってる変な人だと思われるだけですよ」

 と田淵さん。その通りです。


「ああ、なら帰るまで暁雄せんせーに預かってもらっとけよ。あいつなら持ってても普通だろ?」


「まぁそうだよね」

 と私達は薔薇を預けに行った。

 暁雄さんは


「ビックリした!大福ちゃんが俺に鞍替えしたのかと思ったよ。全く吉城は余計なことを!んじゃ帰りに空港に着くまで預かっとくよ」


「お手数おかけします…」


「はいはい!君も大変だね。そろそろ夕飯だから皆は集まっておいてね」


「はい」

 と夕食も美味しい沖縄伝統料理を皆はつまんだ。


 *

 最終日、自由行動日だ。

 朝からはまたイケメンコール。


「…もしもしおはよう吉城くん…早いね…」

 寝ぼけながら言うと


『おはよう!時奈さん!今日やっと帰ってくるよね?待ち遠しくて堪らない!空港まで迎えに行くからね!!』


「あの…吉城くん、私大丈夫だからね。無事に帰るから、心配しなくてもいいよ?」


『うん…。ごめんね…。僕はもう時奈さん無しじゃ、生きていけないんだ。本当に宇宙一愛してる』


 グハッ!!私無しじゃ生きてけないなんて!そんな、私なんかあなたに比べたらなんの価値もないダサ眼鏡女なんだけど!!


「………吉城くん。とにかく今日帰るね」

 と私は電話を切るとコソコソと枝利香さんは


「鳴るきゅん?嬉しい!電話くれたの!?えへへ!……あ、お土産にそんなのあるんだ!?うん!見てみゆーん!じゃあ、夜に時奈達と帰るねーん!任しといて!変な輩はあたしが追っ払う!」


 とアホになって電話していた!!

 てか旅行中私が平和に過ごせてるのもこっそり枝利香さんの手があったのだろうか?なんか申し訳ない。私はE様の彼女でどこ行っても顔割れてるんだよね。当然面白くない女達が潜んでいたんだろうが。


 そう言えばちょこちょこと枝利香さんはトイレに行く回数何気に多かった!!

 そ、その時に…。

 いやもう考え出したらダメだ!

 りょ、旅行を楽しもう!!


 *


「へえ、沖縄の土産なんてよ、シーサーかちんすこうくらいしか思い浮かばなかったぜ」

 と枝利香さんは土産物屋で試食コーナーを片っ端から制していた。


「あ、ありましたよ!紅芋チーズケーキ!」


「おおっあれか!変わってんなー」

 枝利香さんは丁寧に包んでもらい鳴島さんへとお土産にするらしい。私は何にしよう。


 と見ると黒いTシャツに赤いシーサーの中々カッコいい男モノTシャツがあるではないか!


「おお、それにすんのか?時奈」


「うん…。そう言えば吉城くんてあんまりTシャツ着たことないかもって思って…」


「そう言えばそうだな、あいつお坊ちゃんだから高そうな白シャツとかだろどうせ。買ってやれそれ!」


「そうだね!買ってくるよ!」

 と私はTシャツを手にした。確かに普段着ないからギャップ萌えでいいかも!

 とイケメンが着るのを想像して照れる。


 お昼は美味しいソーキそば屋で皆で食べて水族館を周り宿に戻り、荷物を整理して、工房で焼いてもらった手作りシーサーを受け取る。


 田淵さんのスノーマンがボキンと折れていて、田淵さんは泣いた。


「何で!?私のシーサーが!!」


「いやシーサーじゃねぇしっ!」


 と枝利香さんは呆れて私達はバスに乗り込み、那覇空港へと出発した。

 沖縄良かったあー!美味しいものもたくさん食べれたし!友達と伸び伸び過ごせる貴重な瞬間だったわー。特に事件も起きなかったし!


「栗生院の奴羽田に着いたら泣きながら時奈に抱きついてくんじゃねーの?」

 と枝利香さんはひひひと笑い、田淵さんも


「そうですね、ヘリでまた派手に迎えに来るとか?」

 とニヤついた。普通に来てほしいけどね。


 *


 バスは那覇空港に着いて、皆は荷物を持ち飛行機に乗り込もうとしたその時…空港内が騒がしくなった!


 見ると黒い服にEのマスクの見覚えありまくりなコスチュームで…後ろには仮面の紳士がいた。


「きゃ!あれって!!?E様!!?」


「うそっ!?」

 と女性たちは一斉に彼を見たが、


「はいはい!悪の組織ケルベロスの下っ端戦闘員Eでーす!皆さん手を挙げてください!この空港は我々が今乗っ取りましたー!」


「ホッホッホッ」

 とE様と紳士は堂々と空港ジャックした。

 何してんのおおおおお!!?


「ということで雪見時奈さんを人質に僕たちは去りまーす!!」

 と彼は私の方に駆け出し、部活に荷物を持たせ私を姫抱きにしてそのまま逃げて、自家用ジェットにかっさらわれた。もちろん茶番劇であったが、ついでに枝利香さんも老紳士と共に乗り込んでいた。


 E様はマスクを取りイケメンな姿を晒すと私に思い切り抱きつき


「おかえり!時奈さん!!」

 と喜んだ。


「よ、吉城くん…確かに…確かに迎えに来てくれるって言ってたけど…まだ那覇空港だよここ!!」


「ん?そうだっけ?何も羽田に迎えに行くとは言ってなかったよ?」

 おおう!そう来たか!!


「すげーな…サイコには敵わねえぜ。ね?鳴キュン♡」


「ホホホ…うちの御坊ちゃまはすっかり待つのが嫌いになられましたな」

 と笑っていた。

 ほんとサイコらしい。


 その後マンションに帰ると約束通りめちゃくちゃ愛されてしまいました。


 ちなみにその後ニュースで


【E様、愛の空港ハイジャック。彼女を拐って逃避行ロマンス!!】

 という恥ずかしい見出しが全国に流れた…。

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