第12話 もしや私…束縛されてませんか?

 ヘリの中でも私は相変わらず栗生院くんに抱き抱えられ膝に座らせられたままだ。

 彼はちょっと機嫌が悪いようだ。

 やはり敵のレッドさんに正体がバレそうになったことはまずかったはず。


「大丈夫だよ…心配しなくても正体はバレてないと思うよ?」

 と言うと栗生院くんは


「え?…ああ…そっち?でもそっちは何か勘づいてしまったかな?レッドはグリーンより間抜けではないみたいだ」


「坊っちゃま…正義の組織が坊っちゃまを調べる可能性大でございますよ?まぁ、ボロが出るようなことはないでしょうが坊っちゃま自身が気を付けていただかないと…最近は雪見様のことになると感情的になられます」

 と鳴島さんに注意される。

 いくらこいつがサイコの金持ちでもみ消すのが上手くても自身の身体能力などで不審がられては意味ないということか。

 戦闘員Eになって日々戦っているから実は怪人よりも戦闘員の方がヒーロー達の動きが解るんじゃないの?


「でもあいつ!僕の時奈さんの足触ってたんだよ?許せないでしょ?あのまま腕折ってやろうかと思ってなんとか留まったけど」


「坊っちゃま…それは我慢なさって正解かと…しかし確実に疑われましたね」


「うう…」

 腕を折るとか普通に言ってるけど栗生院くん…やっぱりいつもヒーロー達にわざとボコられてるんだ。

 ということは栗生院くんヒーロー達より遥かに強いのではないか?

 私はそう思って彼を見ると栗生院くんは頬を染めて


「時奈さん…鳴島もいるし今はダメだよ…」

 は?何がでしょうか?

 いや、ずっと姫抱きの方がおかしいし!これは見られてもいいんかい!!

 思わずそういう意味じゃないと判ってても赤くなるわ!だってお前イケメンなんだぜ?


「レッドさんの方が好み?」

 とちょっと不安な顔をされる。

 何だそれ?まるで嫉妬してるような…まさかな。

 いつものからかいだろう。

 だって私はどこから見てもクソダサメガネ。メガネ無くても地味顔だし。


「…レッドさんは皆のアイドルみたいな人でしょ?それにあの人女の人に慣れてそうな気がしたから私個人ではあまり好きじゃないけどね」

 顔はともかく、女ったらしのスケベ野郎より、百歩譲ってクソサイコの方がまだマシか…。

 少なくとも栗生院くんは女の子に真剣になったことなど…ない…と思うけど?

 もしあったらどうしよ?とチラリと思い、ズキリと胸が痛む。ううっ。


「着きましたよ、雪見様…こちらは坊っちゃまの別邸でございます。セキュリティも高くもうマスコミはおろか怪しい人物も近寄れませんので安心して静養してください」

 と老執事は微笑む。


 それにしても物凄い別邸だ!

 テレビで金持ちの家を紹介するのがあるけど生でこんな家に入れるとは!

 しかも坊っちゃまの別邸とはなんだ?恐ろしい…株でもやってんの?こいつほんと何者なんだろう?


 しかも歩けるのにまだ姫抱きで部屋の中に連れてかれるし。

 というかデカイよー!リビングだけでも高級な家具が並んでいる。

 いくらするのかとか考えたらもうダメだ。

 そして寝室に通されると私はまじか!!と思った!

 だって!巨大な窓からはオーシャンビューってやつ…海が見える!!

 一体どこなんだここは?本当に日本なのか??

 ひいいいっ金持ちって奴は何でもありだなっ!!


 私がオロオロしてると栗生院くんはベッドにソッと私を下ろす。

 なんだこのベッドは…物凄いふかふか。


「これはフランス産の超高級ベッドでちゃんとぐっすり眠れるような作りだよ?疲れにくいんだって」


「あの…今更だけど何でこんな良くしてくれるの?私なんか…」

 と言われて栗生院くんは私をベッドへと押し倒した。

 ゲッ!


「はいもう、お休みだよ?ちょっと眠った方がいいよ?緊張して身体も硬くなっているし」

 緊張してんのは目の前のイケメンと豪華な家のせいですが!!


「ちゃんと痕が残らなくなるまで家には帰さないからね?あ、両親にも伝えておくから安心してね?」

 と言われてキュンがまた爆発しそうだ。

 だってイケメンとオーシャンビューだ。

 クソダサメガネにはキツイ!すると栗生院くんは私のダサメガネを取り見つめた。

 ひっひいいい!メガネとっても美人とか可愛いわけじゃないからね!私は!


「素顔も可愛いね」

 と言った。赤くなりながら。

 嘘でしょ?嘘だわ。

 また私の反応を見て楽しむ演技だわ!

 しかし全身が熱い。可愛いなんて!

 嘘でも可愛いなんてこんなイケメンに間近で言われたら女子はもう瀕死である。


 栗生院くんは私が必死に耐えてるのを見て少し笑うとようやく離れて


「夕飯は何が食べたい?病院食味気なかったでしょ?」


「いや物凄く美味しかったけど?栄養満点で…」

 というか普通に美味すぎる!私の普段食べてるものが貧相すぎて差が凄いわ。


「じゃあ、時奈さんの好きなお肉にする?」


「うっ……いや…で、でもあまり食べるとふ、ふと…」

 ただでさえあまり運動できないのに!!肉の名を出すのはずるい!


「ふふっ、じゃあ楽しみに待っていて?ああ、暇なら映画とか見ていていいよ?」

 と何かリモコンを渡される。


「ここを押すとほらスクリーン降りてくるよ?」

 と上から巨大なスクリーンが現れた。

 一体ここはどこの世界なんだ?

 ちなみに私のアパートには未だに旧時代のアナログ箱型テレビしかない。


「本当は添い寝してあげたいけど…これから…」


「バイトなの?」


「うん…戦闘員Eだからね…」


「もし私がいない隙に逃げたらやっぱり家爆破するの?」


「……もうしないよ時奈さんの両親や親戚の家爆破なんて…でもどこに逃げても捕まえるよ…。それは許してね…好きだよ…」

 と言われて指にキスされる。

 ひいいい!またっ!


「それじゃ、夕飯までには戻るね?さっさとボコられて帰ってくる!」

 とにこやかに照れながら言い、彼は部屋を出て行く。

 私はドキドキしてふかふかのベッドで落ち着かない。

 なんだろ?優しいしイケメンだしサイコなとこあるけどやっぱり…やっぱり…


 私は栗生院くんのこと好きなのかな?私ごときが!

 絆されてはいけない!遊ばれておもちゃにされてちょっと束縛されているだけ。


 んん?束縛?もしや束縛されとるの?

 好きだよってのがなんか本当に言われてると勘違いするくらい心地よいのだ。


 しかしその時だった。栗生院くんがバイトに行ってしばらくすると何か騒がしい音がした。何事?


「困ります!円成寺様!坊っちゃんに誰も通すなと言われております!お帰りください!」


「私は彼の婚約者よ!破棄なんてそんなの許せないわ!しかも理由が好きな子ができた?ええ!見たわよテレビ!なんなのあの女性店員!クソダサいメガネのあの女が好きだなんて!あんな女に負けたなんて!」


「お帰りください!」


「ええい!どきなさい!」

 ドタンと投げられる音がして


「ぎゃあ!?」

 と物音がした途端部屋のドアがガチャガチャ鳴ったと思ったら鍵をぶっ壊してとんでもない超美人が現れた!

 どこの女優なのか?と思うくらい男が見たら鼻血だして喜ぶと思う。胸も凄い。


「あんたね?私の婚約者の吉城様をたぶらかしたクソダサメガネ女は!!」


「ひっ…ひいい!」

 何か知らんが物凄く怒っている!

 というか婚約者いたの?そ、そりゃいるわな?そしてクソダサメガネ女が大事にされてたら怒るよ!


「ごっごめんなさい!」

 咄嗟に謝る。許してください!ヒロインの座は譲りますから!


「どうしてやろうかしら?」

 ボキボキと美女が骨を鳴らした。

 警備員を軽くぶっ飛ばした音がしたし、このお嬢様実は物凄く強いのではないのだろうか?

 やばい、私なんか瞬殺だ!


「安達!とりあえずこの女を確保よ!私との婚約を復活させるまで吉城様との取引に使いましょう!」

 と後ろからゴリラみたいな体型のデカイ女が現れた。え?

 私はあっという間にゴリラに捕まり乱雑に目隠しされ車に乗せられ出発した。

 先程までいた彼の顔が思い出された。

 わ、私はヒロインじゃないのだからこんなこと思っちゃいけないけど…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る