ヒロインポジション譲ります

第11話 ヒーローがお見舞いに来た

 (あ、栗生院くんだ)


 たまにヒーローと怪人達の戦いをテレビ中継される時がある。

 その時にほんの数秒だけど、下っ端戦闘員達がやられている所がテレビにチラリと映る。

 Eのマスクをつけた戦闘員がヒーローの蹴りを受け後ろに吹っ飛ぶところ…。

 側から見たらやられている場面だけど…。

 栗生院くんはあんまり痛くなさそうに見えるなあ?

 顔も隠れているし痛いのかも判らないけど…。

 やっぱり楽しんでるのかなあ?

 何となくだけどそう感じる。本人もそう言ってたし変な人だし。


 そして廊下がザワザワしだした。

 私はテレビを消してささっとイケメン防御システム(イケメンを見る心の準備)を作動させる。

 この前も帰る時にあの野郎、額にキスとかしていき、私は石化が溶けるまで大変だったんだぞ!

 ガードを覚えねばなるまい!


 そしてノックの後、後ろからキャーキャー言うファンや子供達、おばさま達を引き連れて入ってきたのはなんと…

 ヒーロー変身前のレッドこと小高暁雄おだかあきおさんとグリーンこと若竹隆わかたけりゅうさんだ。


 なっ…何で彼等がここに!?

 レッドさんは

「ごめんね君達…病院の外でなら待っていていいよ。だから少しだけ静かにしてくれる?」

 とファンの女性達にウインク。子供にはヒーローカードを配っていた。

 グリーンさんはそれをうざそうに見ていた。ちなみに彼は荷物持ちと化していた。

 グリーンさんは私と同じくらい地味だし気持ち判るわ…。


「やあ、テレビ見たよ、怪人に襲われてイケメン彼氏が庇ってくれた子は君だね?雪見大福ちゃん」

 グリーンさんがボコりと殴り


「雪見時奈さんだろ?バカ!」


「痛い…。どっちでもいいじゃん、色白なんだから」

 いやよくない、大福なんて食い物と例えられても困る。

 そしてレッドこと小高さんはいきなり私の布団を剥ぎ取ってパジャマのズボンをめくりあげる。


「ぎえっ!!」

 な、何すんだこの人いきなり!!水泡は落ち着き少し赤くなるくらい回復し、

 痛みも消えたけど!!一応これでも女なんだぞ!ダサいけど!


「ふーん、回復してきたんだね、良かった良かった!」

 と言い、私の足をいきなりさすった。


「!!!?」

 もはやパニックになってしまう。ずっと触ってるし!

 いやイケメンに触られて喜ばない女子はいないけど!私一応未成年なんですよ!!


 するとその手をよく知ってる手がガシリと掴んだ。


「栗生院くん!!」

 彼はまた恐ろしい顔でレッドを睨みつけた。


「っ!…君が…イケメン高校生か!なるほどね」

 バシリとレッドさんの手を払うと栗生院くんは


「何か用ですか?」


「…お見舞いだよ。怪人にやられたんでしょ?グリーンが間に合わなかったお詫びもしたかったしね?」


「レッドさんのお詫びは僕の彼女にセクハラすることなんですか?」


「あれ?知らない?痛いの痛いの飛んでけーってやつ」

 クスクス笑うイケメンレッドに


「出てってください!お見舞いなんて騒ぎになるだけです!」

 いや栗生院くんも相当騒ぎになるくらいイケメンなんだけどね?


「おい、やめろよ!何で火花散らしてんだこのイケメン共!レッド!謝れこの女殺し!」

 とまともなグリーンさんが止めた。


「わかったよ…女子高生の生足が気持ちよくてつい」

 ひいっ!ど変態だわ!


 栗生院くんがまた射殺さんばかりの怖い顔になる。

 レッドさんは20代くらいのイケメンで大人の余裕をかまし


「中々面白いな君、正義の組織に来ない?」

 とグリーンさんに続いて勧誘した。


「お断りです!」


「あれ?君もしかして悪派なのかなぁ?」

 と揺さぶりをかけられる。そりゃ栗生院くんは間違いなく悪派だろう。

 だって下っ端をバイトでやってるくらいだもん!


「僕は…中立派かな…というかほんとは正義も悪もどうでもいいんですよ…時奈さんがいればね」

 レッドさんは私を見ると


「あのさあ…君の為に言ってるんだよ?君は怪人を倒したんだよ…だからもっと強い怪人が君に接触してきたらどうするの?」

 確かにそうだ。だって彼の正体は怪人でさえ知らないし。


「正義の組織でも君を保護する責任もあると思うんだが」


「御心配なく!僕はそんなに弱くないので」


「そうみたいだね…」

 とレッドさんは自分の袖を捲る。するとそこに赤くなった手首があった。

 さっきの私の足を触ってた時に止めたものだ。

 そしてレッドさんは一瞬の隙を突いて栗生院くんに向かって何かを投げた。

 それを栗生院くんは微動だにせず右手であっさり捕まえた。

 それは小さなパチンコ玉二つだった。


「君…何者?」

 レッドさんは急に鋭い視線になった。

 ひ、ひいい、イケメンとイケメンが睨み合っている!!


「…僕はただの高校生です」


「そう…ただの高校生ねぇ…まぁそういうことにしとくよ、また来るよ?大福ちゃん!」

 とレッドさんは私に投げキスを飛ばして病室を出て行く。何というキザな!!


「おい、待てよレッドおー!ご、ごめんねあいつが!じゃあなっ!」

 とグリーンさんが慌てて後を追った。

 栗生院くんは病室の戸を閉めると


「時奈さん…病院を出ましょう!」


「えっっ!!?」

 入院してまだ5日目くらいである。


「あんなのがまた来るなんて耐えられない。ヒーローだし…」

 そりゃ栗生院くんは悪の組織の戦闘員Eだもんね。言ってみれば敵である。

 毎回ヒーローにボコられる役とは言え敵に変わりない。


「それに時奈さんにあんなセクハラしやがって…この世から消してやりたくなるよ…」


「栗生院くん!ダメだよ!あの人一応レッドだよ!!センターカラーいなくなったら決めポーズ寂しくなるよ!」


「あの人がいなくなっても僕がいるじゃないですかっ!」

 ヒギイイイイ!!メガネ割れるから!!

 割れた破片が目に刺さって失明するからそんなカッコいいこと言うなあああっ!!


「大丈夫です!山に埋めて土に還すから正義のヒーローらしく最後はエコで地球に優しい!」

 ふああ!これがなければお前ほんとイケメンの中のイケメンやぞおおおお!!

 これがあるからやぞおおおお!!


「こっ殺すのはダメだよ…」

 私はグッタリそう言うとバラバラとヘリの音がした。


「じゃあ行きましょうか時奈さん!」

 と栗生院くんはまた私を軽々しく姫抱きにして病院の屋上へ向かった。

 その際に看護婦やら、なんかいろいろと人に見られまくったのは言うまでもなかった。


 *


「なぁグリーン見えたか?」


「何が?」

 病院の帰り道、ファンサービスを終えて帰る途中でレッドは俺に聞いた。


「これだよ」

 とポケットからパチンコ玉を出す。


「それが何か?」


「さっき俺はこれを3つ投げたんだとんでもない高速でさ。あの高校生は二つ受け取り一つを高速で俺に投げ返した。それがこれ」


「なっ…なんだって?嘘だろ?まぐれだろ?」


「一体どんな動体視力してんだろうな?ヒーローでもない一般人なのにさ…あの高校生…なんかあるな」

 レッドは目を細めて何かを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る