第64話 海中のイケメン

 グリーンさん…隆さんが上に上がり少しして部屋がビシリと大きな亀裂の入る嫌な音がした。


 あっ…これ!もうすぐって言うかもう割れる!間に合わない!私はロープを持ち自力で何とか上がろうと試みたがそのワイヤーロープが上の方でガアンと音がしたと思ったらスルスル落ちて来た!


 えええええ!

 切れた?切れたよねこれ!足元に落ちたロープを見て愕然とした。これもう助からないやつ!もうすぐ部屋割れて鮫に喰われるエンドだあああああ!


 そんなことを思っていると部屋が割れて海水が流れ込んできた!

 ひいいいっ!


 そして部屋は割れた!!

 部屋の残骸と共に鮫がこちらに迫ってくる勢いがした。


 もうダメだ…喰われる!目がよく見えないから避けるのなんて不可能だし私はほぼ泳げない。

 ドボンっと音がしたのを感じたけど…。もう鮫に喰われる!


 しかしそこで鮫は向きを変えたのか上に行った。


 え?

 何で?


 上はよく見えない!何が起こってるの??

 誰かが戦ってる?隆さん?


 *


 僕は切れたワイヤーロープを見てそこに彼女がいないのも見て自然と飛び込んだ!

 部屋の残骸の下に落ちて行く彼女とそれを追う鮫がいた。このままでは!


 と僕はナイフで自分の腕を少し切って血を流した!


 こっちだ!来い!

 鮫は血の匂いに反応して僕の方に向きを変えてやってきた。


 牙を剥き出し襲いかかるのをやっと交わす。

 交わした時に鮫のヒレに捕まりナイフでえらを何度も刺した。鮫が暴れて一旦離れるが、喰ってやると勢いよく鮫はこちらに口を開けながらやってきた。


 肩が痛むが何とかするりと交わし鮫の目にナイフを突き刺す。

 また酷く暴れてナイフを目から引き抜いた。

 しばらくジタバタとしていた鮫はまた突っ込んできた。僕は動かない肩と反対の手にナイフを握りそしてわざと喰われようとした。噛まれる寸前にナイフを口に縦に入れ、鮫の弱点である鼻先を思い切り何発も殴り付けた!


 鮫はグッタリして海中に沈んでいく。たぶん気絶した。


 僕は彼女の元に急いだ。


 *


 息が…続かない!

 もうダメだ…ほんとに死ぬ…。

 最期に会いたかった…吉城くん…。

 そしてごめんなさい…私は天国でいつまでもあなたを見守っています!

 私なんかを好きになってくれてありがとう。そしてぼんやりした目を閉じようとした時…


 彼が必死にこちらに向かってくるのが見えた。あれ…幻か?

 ああ…噂の走馬灯かな?

 嬉しい幻だわ。神さまやるじゃん…。


 しかしそこで顔を寄せられてキスされる。

 口に少し空気が入る。

 彼は微笑むとゆっくり目を閉じ気を失った…。


 え?


 よく見ると肩の出血が凄い。

 これ現実じゃないよね?

 幻この野郎!そんなわけない!

 私を助ける為にここまで来てくれたなんて都合のいい…そんなっ!そんなイケメンがどこにいるんだ!!

 沈んでいく彼の服を必死で掴み、私も一緒に沈む。


 誰か!誰か!誰か!!

 助けて!神さまどうか!お願いだから幻でもいいから彼を助けて!!


 その時水音がしてぼんやり二つの人影が見えた。私の意識ももうそこまでだ…。



 *


 次に私が目を開けたのは1日後のことだ。

 頭がぼんやりした。

 どこここ?

 でも病院…だよね?

 誰もいない…。


 え?死んだの?死後の世界?


 いや病院だよね?薬の匂いが僅かにする。

 ………


 あれ?夢だったのかな?

 イケメンが助けに来てくれたよね?

 ああ、夢だったんだ。


 ガラリと扉が開いた音がして


「時奈!!」


「時奈!目が覚めたのか!?」

 とお父さんとお母さんの声がした。

 え?何?どうしたの?

 また凄いオシャレしてない?


「お父さん…お母さん…」

 すると私の手を握り


「そうよ!時奈!!良かった!!」


「お前溺れて死ぬところだったんだぞ!!」


「ほんとに良かったわ!後で記者さん達の前で会見しなきゃね!!」


「そうだな!!全く、栗生院くんがいなかったらどうなってたことか!」

 と言われてハッとした。


 起き上がり


「く、栗生院くん!?彼はどこに??」

 すると目を伏せる両親…

 え?まさか…そんなっ!!?


「いや…時奈…彼がどこの病院に連れて行かれたのか私たちには判らないんだ…」


「へ?」

 悪の組織の戦闘員である彼の素性は全てネットで伝わり、今や正月からとんでもない騒ぎになっていた。正月のお笑い番組が潰れる勢いなんて初めて見た。


 そしてやっぱりあれは幻ではなかったのだと実感した。私を命がけで助けてくれたイケメンだ。


「うっ!ううっ!!」

 私は病室で嗚咽を漏らし泣いた。



 数日後、お見舞いに枝利香さんがやってきた。


「よぉ、時奈!大丈夫か?」

 いつものように声をかけられるが彼女も元気は無かった。


 それもそうだ。テレビやネットで鳴島さんの闘いが記録されていて、鳴島さんは片足を無くしておそらく重症なのだから。鳴島さんがどこにいるのかもやはり判らないし、新しい悪の組織の総帥になったレッドさんこと紅さんもどこにいるか不明…というか新しい組織自体どこにあるのか誰も知らないし幹部や怪人達もどこかに消えているのだ。


 ただセントユニバースの残骸や関わった白服さん達は逮捕されている。彼の叔父である黒幕の蔵馬氏は自害した映像がネットで出回り悪事も全て報道されていた。


 世界は変わった。

 でも彼がどこにいるのか…判らない。

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