第28話 クッキーを作りました

 今日は調理実習の時間にクッキーを作る日だが、その班分けに私クソダサメガネと不良の舞川さん…

 それにクラス委員長の田淵さんの3人で組んだのだが…。

 私と舞川さんは料理に慣れていたが…委員長は料理が壊滅的に下手だった。


「おい、委員長てめえ…分量間違えてんぞ?バター50gなのに何で500gなんだよ!!お前どんだけベッタベッタのクッキーにする気だよ!!バニラエッセンスも適量って書いてあんのに何で一本丸々使い切ってんだよ!腹壊すどころじゃねーよ!!」

 と舞川さんが怒鳴った。


「ごっ…ごめんなさい!数学が苦手で…」


「関係ねーよ!計りの文字も読めんのかっ!バカっ!!」


「まあまあ、もう一度作り直そう…委員長はベーキングパウダーを……ってええええ!!何で一袋丸ごと入れるの??」

 こんもりとベーキングパウダーの山ができてそれの上に卵がベシャリと乗って

 卵かけご飯ならぬ卵かけベーキングパウダーになっとるうううう!!!


「おい、時奈…こいつ冷蔵庫で寝かせておくか?それともオーブンで焼いとくか?」


「だ、誰にだって失敗を元に成長するのよっ!」


「お前のは失敗どころじゃねんだよっ!もう分量はいいからオーブンだけ温めとけ!」

 何か嫌な予感がする…

 委員長は


「そんな簡単なことできるわよ!」

 と思い切りレバーを最大に振り切るくらい回した。

 私は慌てて元に戻した。


「委員長…あの…もういいですから…委員長は冷蔵庫で固まった生地を型抜きする時に参加とかしてくれたらいいんで…」

 委員長はそれなら誰でもできるわ!と大人しく座って待っていた。


「とんでもねーモンスターがいたよ。だから誰も委員長と組まなかったんだよ…炙れたもんには理由があるんだな…」

 と舞川さんはため息をついた。


 舞川さんが分量を計りなおし私が材料を丁寧に順番どおり混ぜ合わせ生地を作っていく。

 冷蔵庫でしばらく寝かせてようやく型抜きをすることになる。


「ついに!私の出番ね!!」

 と両手に型抜きの型を持ち委員長は気合を入れた。


「まっ!待て!委員長!ちょっとまだ生地を伸ばす作業がっっっ!!」

 しかし委員長は止まらず


「秘技!千住観音!!」

 とか叫びながら丸まったままの生地にボショボショ型をはめそれがボッタボッタ床に落ちるのを私と舞川さんは真っ白になりながら見ていた。


 その後、委員長を柱にくくりつけ、私と舞川さんは黙々と放課後居残りで作っていく。

 先生も早く帰りたそうだ。


「ごめんな時奈、病院に行く時間遅れちまったな」


「い…いいよう…いつも会ってるし少しぐらい面会時間なくても」


「いやお前が良くてもあのサイコ彼氏がヤバイんだがな」


「あら、彼氏…?あのテレビに映ってたイケメンのことね?雪見さん!」

 縛られたまま委員長が参加してきた。

 とりあえず私たちは委員長を無視して焼き上がりを待っている。


「舞川さんも鳴島さんにあげるの?」


「まあ、世話になってるしな!」


「あら舞川さん、最近黒髪にして更生したと思ったら好きな方ができたのね?」

 舞川さんは無視して


「それより時奈、そろそろあたしのことは枝利香でいいよ!栗生院のことも下の名で呼んだら?」


「えええっそんなっまだ慣れないしっ!!」


「今日遅れたこと怒ったら呼んでみな?コロっと許してくれるぜ?あいつお前のことになるとアホだから」

 それは舞川さん…枝利香さんのが酷いかもしれないけど…。


「あら、私も玲子って下の名前を呼んでもいいのよ?」

 無視。


 香ばしい甘い匂いが漂ってクッキーが焼けたことがわかる。

 オーブンから取り出してみると美味しそうに出来ている。


「よしっ!やっと出来たな!最初からこいつをくくっとけばもっと早かったわ…」

 それは判る。


「ちょっと!あんた達あたしの分も残しといてよ!!」

 先生が来て一つつまむ。


「はい、合格!…委員長?とりあえず貴方は調理器具を綺麗に洗ってから帰ってね?」

 と先生は委員長に言い渡した。


「あいさー…」

 力なく委員長はようやく解放され洗剤に手をつけた。

 しかしそれが悪かった。委員長は洗剤をたっぷりつけたスポンジを両手に握り


「秘技!戦慄の浣熊!!」

 と叫びながら泡をビシャビシャ飛ばす!


「ヤバイ!時奈!クッキーを死守しろ!!アホによってクッキーがダメになる!!」


「いやあああ!!!」

 と私と枝利香さんはなんとか10枚分のクッキーを確保した。他は全滅した。


「ふふっ…私にかかれば洗い物なんてお茶の子さいさ…」


「っじゃっねーよっっっ!!」

 バシンっと委員長に竹刀が振り下ろされ、私と枝利香さんは5枚ずつ分けた。


 本来なら三人で1人15枚は焼けてるはずだ。委員長の分は無しになった。


「当然だよ、お前はもう買ったものしか食うんじゃねぇよ!」

 とギロリと睨んだ。


 *


「というわけであの…5枚しかないんだけど…」

 と恐る恐る差し出す。


「それで遅れたのかあ…その委員長の家爆破してもいいんじゃないかなあ?だって僕との時間を減らすなんて罪深すぎるよ!」

 と怒っている。

 これはあの作戦をした方がいいのだろうか?

 まさかそんなことで収まるか?

 しかし試してみたい気もした。

 いやしかし恥ずかしいな。


「こっ…今度は家でちゃんと作ったの持ってくるよ…よよよ…吉城くんっっ」

 と言うと彼は時間停止した。

 えっ


 全ての時間が止まったような感覚…。

 動いてるのは私だけ?と錯覚しそうになる。


「あの…大丈夫?栗生院くん…ねぇっ」

 と手を振ると


「はっ!幻聴かっ!!」

 と言われたのでもう幻聴にしとこう。


「じゃあこのクッキー…食べさせてくれる?時奈さん…実は手が使えなくて今」

 と手を差し出すと包帯が巻かれていた。


「ええっ?どうしたのこれ!!!」


「いやあ…ちょっと壁にレッドの写真貼って思い切り殴ってたら血がでちゃって!」

 それもうコンクリートの硬い壁殴ってるのと同じだし!!!

(トレーニングルームを帰る時にチラリと覗いたら壁の一部が血だらけでボコボコになっていたし。)


「まぁ大したことないけど…」

 ということであーんと口を開けられるので仕方なく食べさせてあげる。

 くっ!まるでリア充!いやリア充か!!


 あっという間に最後の一つになりそれも食べさせていると最後にパクリと指まで食われる。


「ひゃっ!くくくく栗生院くん!!!」

 ペロペロ舐められようやく離すと


「ご馳走さま…」

 と微笑まれ頭がショートする。

(メインコントロール室?応答せよ!応答せよ!)

(ダメです!完全に回路が切断されました!)

(なんてイケメンだ!復旧まで一体どのくらいかかる?)

(わかりません!こうなったら予備電源に切り替えましょう)


 バツン!!


 と予備電源が入りようやく私の意識が戻った。


「ごめんごめん、時奈さん、ちょっとふざけただけだよぉ」

 とウェットティッシュで綺麗に手を拭かれる。

 ああ…イケメンの唾液が……って何勿体無く考えてるのおおおお!


 こんなクソ甘入院生活もようやく後少しだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る