第17話 私なんかが幸せでいいの?

「僕が嫌い?」

 ちょっと悲しそうな顔をされる。

 くっ!これが演技だったら相当な役者だよあんた!


「ええ……そりゃ…栗生院くんはカッコいいけど…カッコいいけど…私なんかダメでしょう?美人でもないのに」


「関係ないよ…」

 何言ってんの?みたいな顔で返された。


「………で…好き?」

 と聞かれ恥ずかしくなる。

 今までそんなこと誰にも言ったことないし、口にするのも辛い。


「ずるい…す……好き」

 震えながらようやくそれだけ言うと彼は


「僕もめちゃくちゃ好きだよ…」

 と返されて一気に体温が上がる。

 ひいいいい!ダメだ!私のキャパシティを超えている!

 限界だ!もう爆発する!イケメンの攻撃は防げない!

【めちゃくちゃ好きだよ】砲を撃たれて怪人クソダサメガネはイケメンヒーロー栗生院くんにより大爆発で飛び散った。


 ー完ー


 とかにならないし!!まだ!!


「ああ…身体が動けば抱きしめてキスくらいしてるのに残念だよ…」

 追加の爆撃投下。

 既に身体が半分石化しかかっております!


「時奈さんからしてくれてもいいんだよ?」

 とどめっ!

 完全に石化した。


「あれ?…時奈さん?おーい、おおーい!戻ってきてー?」

 しかしそこで鳴島さんが夕食を持ち入ってきて


「坊っちゃま…ご無事で何よりです」


「鳴島…心配かけた…」


「雪見様はずっと側におりましたよ?坊っちゃまが死ぬんじゃないかって心配な顔で手を握っておられました」


「な、鳴島さん!!」

 ぎゃあ爺さん!何ケロリとバラしてんのやめて!恥ずか死ぬ!!


「ああ…そうなの…嬉しいよ…」


「坊っちゃま…3カ月は安静にとのことですが守ってくださいね?バイトは代わりの者を雇いましたから」


「さ…3カ月??嘘だろ?あのゴリラどんだけだよ!」


「ああ…あのメスゴリラですが、雇いましたよ。坊っちゃまに手負いを負わせました珍獣ですからね…調教してこれからはせいぜい役に立って貰いましょう」

 とニヤリと鳴島さんは笑う。


 なんかゴリラゴリラと言われてるあの人を雇った?


「そういう話は彼女のいない所でしろ…」

 ちょっとむうっとした顔で言うと


「申し訳ありません、取り急ぎ伝えたかったもので。お二人の幸せなお時間を邪魔して申し訳ありません!」

 と鳴島さんはささっと夕食を置いて逃げた。

 ひっ!ひい!待って!私も出たい!ここから逃げたい!


「僕の手を握ってずっと側にいてくれてたんだね…あれ夢じゃなかったのか」


「へ?そ、そう言えば一回起きたんだよ?栗生院くん…」


「泣いてたから…励まそうとしてさ…でもどうにも動かないし意識もはっきりしなくて…夢かと思って、次に目が覚めたら時奈さんが眠っていたから…」


「う…うん…」


「でも3カ月も動けないなんて…辛い」


「仕方ないよ大怪我だよ?絶対に安静にしてないとって言われてるんだからね?」

 こいつ無理して動きそうだから心配なのだ。


「3カ月…側にいてくれる?」


「私が退院して学校が終わったらね?」


「じゃあ退院するまで同じ部屋でいいよね?」


「なっ!!」

 何ですと??それはいろいろヤバし!!


「ええ?嫌なの?じゃあ君のアパートを爆破…」


「もう爆破しないって言ったのに!」


「アパートを爆破したら流石に僕と一緒にいれると思って…」

 いやもうほんとサイコだから!考え方!


「やっぱりいろいろ恥ずかしいから部屋は別に…」


「うん?ダメだよ?」

 なんかいつものサイコも戻ってきやがったわ。


「時奈さんの恥ずかしいところいっぱい見たいし」


「ひぎっ!!」

 思わず胸を抑えると


「早く動けるようになりたい…」


「安静だよ?」

 これはほんとに見張ってないと無理をするなと感じた。


「わかってるよ…無理はしないよ…情けないほんと…こんな怪我するミスするなんて…カッコ悪いわ…」

 とか言い出すので何言ってるのかと思う。


「栗生院くんはカッコいい…私にはヒーローに見える」


「……悪の組織の戦闘員Eだよ?」


「悪でもカッコいい人はいるんじゃないの?」


「……っっ!!」

 栗生院くんは驚いて私を見た。

 動かせない手を必死になってあげて私はその手を取った。


 温かい。


「時奈さん…好きだよ…愛してる!何これ?おかしい!僕おかしいんだ!どうしよう!はぁ…好きだ」

 と爆撃をかましてくる。

 うん、お前は元からサイコでおかしいのは知ってるけどこれは本気で私を好きと言っててなんというか…


 私なんかがこんな幸せでいいの?

 やばいよ!やばいよ!なんかのフラグでこの後私は死ぬ運命かもしれない!!

 絶対死ぬ!ホラー映画では真っ先に死んでくタイプだ。

 なら今だけ幸せになっていいのかな?

 私は赤くなりながらも


「うん…判ってるよ…ありがとう」

 と言って慣れない笑みをこぼした。


 *

 彼女は夕食を食べて少し話した後、カーテンの向こうのベッドですやすや眠っている。

 僕は相変わらず動けない。薬でダルいし身体も重い。少し動くと辛い。

 痛み止めも飲んでるけど。腹部損傷に肋骨にヒビ。

 内臓が破裂してないだけマシだけどもっと鍛えておかないといけないね。

 3カ月入院はキツイがここは僕専用の病院だろうからマスゴミに嗅ぎ付けられることもないだろう。

 後は時奈さんが退院してからだ。

 女子校にマスゴミなど生徒達からも注目されるだろう…。

 彼女を守りたいけど動けないなんてほんと情けないのに。

 僕のことカッコいいとか悪でもいいとかなんなのこの子は。可愛い。

 普段なら抑えてるのに全く止められず僕はアホになった。


「こ、これが世に見るバカップルの心境なのか?」

 はぁ、好きな子が横で寝ているのに動けないのも辛い。いや幸せだけどね!


 それから僕がやっとまともに身体を起こせるようになるまで1週間はかかった。

 ちょうど彼女が退院するタイミングだった。

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