第16話 目覚めたイケメンのお願い

 栗生院くんが眠ってからはや2日。まだ目を覚まさない。

 そりゃ普通に考えたらトラックに轢かれたくらいの衝撃とかどうなの?って思う。

 あれで私のとこまで来る為に動いてたんだから凄い。

 そして私なんかの為にいつもにこにこしてる彼は倒れてしまった。

 ざ、罪悪感が…。


「雪見様…朝食をお持ちしましたよ」

 執事の鳴島さんがお盆に美味しそうなハムエッグやスープやクロワッサンなどを運んできた。

 正直嬉しいところだが、私としたことが食欲がない…。


「ありがとうございます…」

 しゅんとした私を見て鳴島さんが語る。


「坊っちゃまなら大丈夫ですよ、今日か明日にはケロリと起きてきますよ、ほら顔色もマシになってきましたし血圧も安定してきましたからね」

 確かに大分良くなってきたと思うけど。


「私の命を助ける為にこんなことになって…目が覚めたらどう謝ればいいのか…」

 彼はクソサイコだが金持ちだ。何故か両親は見舞いに来ないけど。


「坊っちゃまのご両親は小さな頃お亡くなりになられておりましてね…本当なら坊っちゃまも亡くなるはずだったのですが一人生き残ってしまい、一旦は叔父上に引き取られたりもしましたがその叔父上が遺産を狙いの犯行だと気付いた頃にはこんなサイコな性格に変貌してしまいました」


「えっ……」

 私は絶句した。そりゃ誰も来ないわ。


「あの婚約者のことも叔父上の計らいで進められていたことで坊っちゃまは一度しか会いませんでした。雪見様と会ってすぐに破棄しましたけどね。まぁ今は彼女は牢屋にいますけど」

 あんな美人が受け入れられなかったのは理由があったのか。


「鳴島さんはずっと側にいたから栗生院くんはとても信頼しているんですね?」


「…そうであるといいですね。私は坊っちゃまの役に立てればそれでいいのです…旦那様と奥様の代わりになどとても……でも世界はなんと醜いのかと坊っちゃまが知ってしまったから…」

 鳴島さんはちょっと泣きそうなのを堪えて


「しかし雪見様と会われてから坊っちゃまは少しずつ変化なさいました。貴方は凄いのです。自信を持ってください!たぶん雪見様にしか坊っちゃまを本当の意味で救えないでしょうね」

 にこりと笑い鳴島さんは出て行く。


 何か凄いとか言われたけど…私なんか守られてばかりだしいつもからかわれてばかりなんだけど。

 でもいつも楽しそうなのは確かだ。

 何も知らなかった。そりゃ話してくれないけどね。こんなこと気軽に話せる奴いないし。

 まぁ私のことは全力で調べられたんだけどね。今更ながら自分って薄い世界で地味に生きてんなと思った。

 クソダサい上に人生も地味でしかない私なんかほんとにヒロインとしては成り立たないだろう。


 朝食を済ませて窓の外を見ていると、そういやここどこの病院でどこの町だろう?

 やけに静かだしそう言えば私も学校とか行かなくていいのかな?

 そりゃあの怪人事件で一応入院してることになってるけど、

 誘拐されたりしていろいろあって今は彼がこうして目覚めるのをただ待ってる。


 足の痣も薬を毎日一応塗ったりして徐々に薄くなってきてはいるけど。

 まだニュースとかで騒がれてるのかな?学校に行けば間違いなく騒がれるだろうな。


 それからお昼過ぎになりまだ寝ている栗生院くんは呼吸も安定して酸素マスクが外された。

 快方に向かってることは確かだ。

 まだ起きないのか。イケメンの寝ている姿を見れて貴重だけど…

 やっぱりいつもみたいに笑ってる顔のがいい。


「栗生院くん……」

 そっと手に触れるとピクリと動いた。


「!!」

 彼今動いた?閉じられた瞳がゆっくり開く。

 物凄くボーっとしている。

 そしてチラリと視線だけ移動すると


「…………」

 何も喋らず私を見た。

 うっっ…ヤバイ!泣きそう!

 というかもう目から水が!!

 ドバドバ出だした。


「ふぐっ!く、栗生院くん!栗生院くん!」

 それを見て彼は起き上がろうとしたけど目をかっ開き痛さに顔を歪めた。

 当たり前だ。術後だし。


「ふえ…無理しちゃダメだよ!い、今は先生を…」

 とボタンに手を伸ばす。

 …がどうにか動く左手で私の指を握った。

 待ってってこと?


 彼はじっと見つめている。頬には赤みも出てきた。そして…


「ん…あ…と…きな………ん」

 と掠れ声で私を必死に呼ぶ。


「……だ…じょ…ぶ」

 大丈夫って?

 ボロリと溢れる私の私の涙を見たから。

 私はメガネを取り必死でゴシゴシ涙を拭く。

 もうブスになろうが泣いてはいけないのだ!たぶん泣くなって言ってるんだ。

 栗生院くんは私の指を握ったまま、しばらくしてまた目を閉じて眠った。


 それから再び彼が目覚めるのが夕方だった。

 私はいつのまにか寝ていたのか優しく頭を撫でられている気がしてハッとしたら栗生院くんがいつもの微笑みで私を撫でていた。

 ぎゃっ!な、何ということだ!クソダサい寝顔を見られた!!

 雪見時奈一生の不覚だ!!


「おはよう…時奈さん」

 彼は口調も戻っていた。良かった!

 でもたぶんまだ動けないんだろうな手は動かせても。


「栗生院くん!あ、あの私っ!酷い怪我させてごめんなさい!!」


「え?…何で謝るの?酷いことに巻き込んだのは僕だよ?」


「でも私なんか助けずにいたらこんな目には…」

 そこで栗生院くんは顔を歪ませた。


「うっ…いて…」


「大丈夫?先生を呼ぼう!」


「待って…大丈夫…呼んじゃったら二人で話せないよ」

 と言われ真っ赤になる。それに心臓もどくどく言い出す。

 また爆破しそうになるわ!!病み上がりにそんなこと言われると!


「ねぇ時奈さん…僕の…お願いを聞いて?」


「なっ何?お腹減ったの?」


「いや流石にまだ…」

 そりゃそうだよね!私じゃないんだからっ!


「じゃあ何?」


「僕のこと…好きだって言って?…だっていつも僕からだし」


「ええっ!?」

 何だと?何の拷問だろう!!?

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