第99話 彼の部屋

私は吉城くんをいつものように玄関先で見送った。いつものように抱きつかれて泣かれる。


「ううっ…時奈さん…行ってくるからね?寂しいだろうけど待っててね?好き、愛してる!死ぬほど!」

いや、死ぬな!イケメン!


私は手振りドアを閉めた。

さて…勉強の前に家事でも。と私は布団を干した。マスクをつけ帽子を被り完全に怪しい人だけど、バルコニーに出て万が一誰かに見られたらという不安で変装している。だが、ここはマンションの最上階だ。下からはまず判らない。


だがしかし吉城くん曰く


「ドローンか衛星でもし見られてたら!!」

と慎重派のイケメンが言う。

【こんな所にポツンと悪の組織のマンションが!?】じゃねーんだぞっ!?


そんなわけで怪しい奴がバルコニーで布団干している。ついでに2人の寝室とされ一回も使ったことない部屋の布団も干す。

ていうか恥ずかしすぎて使えるかあああ!

そして最後に私は吉城くんの部屋に侵入し布団を干した。


「ふう…」


別に部屋干しでもいんだけどね。布団乾燥機とか色々あるんだけど実は。だが、貧乏性の私は太陽に浴びておく為にこうしている。


そしてチラリと吉城くんの部屋を見た。彼の部屋はめちゃくちゃ綺麗だ。ルンボがいつも回ってるし散らかってない。本棚と机ベッド、クローゼットとごく普通の部屋。あまりにも綺麗。

(いや…これはカムフラージュである!)

(17歳男子が部屋に何も無いはずない!)

(で、でも!エロ本やDVDが見つかったらそれはそれでショックであります!)

(最近はPCに隠す人多いんじゃない?)


時奈脳内会議の結果PCを調べよと一致した。

そろりとデスクトップPCに近付きスイッチを入れると…


【パスワードを入力してください】

と出た!

いきなり詰んだわ!!無理!!

でも吉城くんだし…うーん…これは流石にないだろうと自分の名前を入れてみた。


あっさり開いた!!

うおおおおおい!!やだ!もう!嬉しいけどもしここに怪盗がおったらヤバイぞ!バレそうなワードだよっ!?


まぁいいわ。探そう。

しかしそこにはいろいろと問題集などのフォルダがあった。私に出すやつ!?

感動してる場合じゃないわ!

どこかに隠しフォルダがないのかしら?

ていうか隠しフォルダなんだから見つかるかよぉ!

諦めるか…。しかしもう一度問題集のフォルダを見てみる。何か気になったし。そして変なピンクのフォルダを見つけた。


「まさか!これ?」

私は何とかクリックする。どうしよう!美人のお姉さんのグラマラス写真とか出てきたら!


ん?

しかしそのフォルダの中の写真は…

私だった。

エプロンしてる私。料理してる私。疲れて寝てる私。制服の私。私服の私。私。私。私。


ぎゃあああ!!見てはいけないものみちゃったよ!!いつ撮ったの!!

いや彼ならやれるよね?


「はあ…」

もしかしたらネットでいやらしいサイト見てるかも!と私はネットの最近見た履歴を調べる。猫のサイトや問題集のサイト面白動画サイト…時奈サイト


「時奈サイト!?」

私はそれを開く。パスワードがまた出てきた!ってことは皆に公開はしてないのか!?

一応また私の名前を入れたけど開かない。だよね。…しかし彼が日頃口にする言葉を片っ端から入力してみた。


【時奈さん世界一可愛い】

でロック解除した!!

あああああ!!パスワードで殺されるとは思わんよ!!吉城くんのバカあ!!


するとやはり私のトップ画像が現れた。

非公開の吉城くんが恐らく作成しただろう自分だけの私のサイト…。ああっ!

しかもそこにブログがあった。自分だけの公開設定にしてるらしいわね。


(4月4日…今日も時奈さんが可愛い!僕の腕の中にすっぽり収まり可愛い。勇気を出して頰にキスすると可愛い声を出す。もう全部可愛い。


時奈さんがソファーで眠っているので毛布をかけてこっそり僕も一緒に眠る。目を覚ます少しの間だけ。時奈さんの匂いが好き。

寝顔が可愛い。時間を止める能力とかないかな?


時奈さんがいれば何もいらない…。早く結婚したい。時奈さん似の子供が欲しい。あの寝室はまだ恥ずかしくて使えないけどいつか彼女が許してくれるなら…。)


ぎゃああああああ!!

もうダメ!読んでられないわ!!

私は急いでスイッチを切った。

これ探しても私の情報ばっかり出てくるだけ!?


本棚にはもはや私が解けない大学レベルの資料や英語で書かれた本もありダメだわ。

ひらりと挟まっていた写真も私だし。

ベッドの下の缶を調べると私の小さい頃の写真が出てきてビビった!


「どういうこと!?」

ま、まさか!私はスマホで国際電話をかけると


「あら時奈!久しぶりね?」

と母がでた。


「お母さん達今、アフリカにいて大自然と触れ合いながら遠くにいる像を眺めていまーす!」


「あっそう…ところで私の小さい頃の写真を誰かに提供してないよね?」


「してないわよ?例え10万貰っても!」


「貰ったんだ…」

私は呆れて電話を切る。

小さい頃の私…あんまり笑ってない…。

ふと…夢の中の少年を思い出した。

あの少年は何て言うんだったか…。


写真を仕舞い元の位置に戻し私は吉城くんの部屋を出る。観葉植物に水をあげたり、キナコの世話や勉強を少しやった。布団を入れて、夕飯の支度を始める。


とそこで鍵のロックが外されて吉城くんが帰宅した。


「ただいま!時奈さん!」

彼は私をギュッと抱きしめる。


「お帰りなさい…」

もう旦那だわ。


「時奈さんの成分がなくて死んじゃうとこだった!」

死なないから!!


「ところで僕の部屋に入った?」


「えっ!!?は…入ったと言ってもあのっ布団を干しただけだよ!?何で判るの?」

何この人は!超能力者か!?


「ふふふ…時奈さん以外の人が入ると侵入者と見なして瞬殺できる仕掛けがあるんだよ…ところで布団を干しただけ?何か見た?」

こっ…怖っ!!瞬殺の仕掛けって!うちにそんな仕掛けがあったの?まさか私の部屋にも!?恐ろしいマンションだったわ!何ヶ月か暮らしてたのに今まで気付かなかったわ!


「い、いや見てません…何も…」


「本当?白状して?」

と壁際に追いやられる。くっ!イケメンの意地悪な顔が迫るし!意地悪な顔もカッコいい!


とそこでボロリと何か吉城くんから手紙が落ちた!白い普通の封筒。


「ぎゃっ!またいつの間にか!」

相変わらずモテモテであるから仕方ないよね。


「一度くらい読んであげても」

と捨てようとするのを止めると


「必要ないよ…」

私が眉を潜めたので彼は手を止めて


「じゃあ時奈さんと読むっ」

と手紙を開けると…


「あっ!!」

絶句した!そこには新聞や雑誌をくり抜いたような文字が貼り付けてある。ドラマなんかで見たことある脅迫文??


【栗生院吉城へ 雪見時奈を連れて次の日曜日にファンタジーランドにて待つ! 来なければ…雪見時奈の両親を殺す!】

と書かれていた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る