第94話 水上の告白

次の日曜に私と吉城くんと四宮先生が郊外学習という名のぶっちゃけデートだろうこの泥棒猫が!というものが行われることになった。


四宮先生は相変わらず吉城くんのファンだった。


「全く…めんどくさいよね…時奈さんと二人なら最高なのに…」


「いや、マンションでも二人だし…」


「キナコもいるからね…」

とキナコを抱き上げるイケメン。美猫のキナコは吉城くんをペロペロ舐める。

羨ましいわキナコ!


「そろそろ行こうよ…先生待ってるかも」


「そうだね…キナコを蒼太郎さんに預けて出かけよう」

蒼太郎さんにキナコを預けると


「心愛、お前の娘が来たぞ」

と早速可愛がっている。もはや蒼太郎さんがまとめて飼えばいいのに同じマンションなんだから。…でもそうしたら本当に二人きりだし。キナコのおかげで結構和んでる部分もあるんだよなぁ…。


「それじゃよろしくお願いしますー!」


「うむ!ちゃんとキナコは守る!安心しろ!」

と蒼太郎さんが敬礼した。


「じゃ、行こうか」


「うん!」

と私達は先生の元へ急いだ。


そして待ち合わせで見た四宮先生はロングスカートを履いていた…。髪の毛もいつもはおさげを垂らしているのにほどいている。お洒落してる!!完全にデート気分だ!!


「どうも先生…」

吉城くんはどうでもいいという目で見ていた。


「栗生院くん!どうかしら?先生今日はいつもと違わない?」

くるりと裾を持ち一回転する四宮先生。


「はあ…」

超素っ気なく吉城くんは言う。なんか可哀想になってきたがそこで


「可愛い!!なんて可愛いんだ!!」

と聞き慣れたイケメンがスーツをガッチリ着込んでやってきた!


「げっ!小高先生!何故ここに!!」


「いやあ!別にいいでしょう?俺も参加してもー!」

はあっ…とうんざりして吉城くんは私の肩を掴んで引き寄せる。


「こ!こら!不純異性交遊禁止ですよっ!!」

四宮先生がそれを見てむくれるが自分も暁雄さんにベタベタひっつかれている。


「では行きましょうか!四宮先生!吉城!大福ちゃん!」

と暁雄さんに連れられ移動するとそこにはどう見てもセレブ御用達の超豪華クルーザーが置かれている。


「水上バスは?」

あんぐりと四宮先生が聞くと


「同じようなものでしょう?それに俺と吉城が一般人の乗る水上バスとやらになんか乗ったら女性客が定員オーバーで船が沈没しますよ」

と暁雄さんが言う。


「はっ!確かに!!」

と吉城くんが気付いた。

まぁな!お前等とんでもないイケメン力あるからな!!


そろそろと私と四宮先生が乗り込む。もはや…デッキは快適な空間で普通に高級ソファーやワインのボトルまで用意され、船内はもはや高級な部屋だった。


「四宮先生!貴方の為に買いました!このクルーザー!」

暁雄さんがとんでもないことを言い出した。


「今日の為に?貴方おかしいんじゃないですか!?」

いや先生…これがこのイケメン共には普通のことなんですよ…。

おかしいと言われた暁雄さんがショックで石になった。


「うわあ…面白い」

吉城くんはそれを見てちょっと楽しんだ。


「吉城!お前なんてただ若いだけだろ!何で俺がお前に負ける要素があるんだ?」


「お前が女ったらしの色魔だからだろ!」


「そんな過去はもう捨てた!今は凛子さん一筋!」

と言い四宮先生が慌てた。


「わわわ、私は栗生院くん一筋ですよっ!!今は生徒と先生で手なんか出しませんけど!彼が卒業したらチャンスはありますよね!?」


「いやないです。僕彼女いるんで」


「いやいや、雪見さんより私の方が勝ってるし!!」

と四宮先生に見下されカチンと来た!


「はあっ?先生酷いです!言っちゃなんですけど先生も相当普段地味な方じゃないですか!」


「あら!絶対雪見さんより勝ってるわよ!」

くっ!どこからそんな自信があるんだあんた!似たようなもんでしょ!私のが若いし!


「時奈さんの方が可愛いに決まってんでしょ?」


「いや、凛子さんの方が可愛いね」

と向こうは向こうで火花が散ってるし!!


「大体暁雄さんは出会った頃、時奈さんが入院してた時に足触ってたよね?やらしいんだよ!」


「吉城お前まだそんなの根に持ってたのか!?しつこいぞ!忘れろよ!」


「うるさい!忘れるか!人の彼女にベタベタと!自分が惚れた女に同じことされたらどう思う?」


「えっ!?栗生院くん!?先生を犯そうと?」

いやなんでそうなるの?四宮先生どうなってんですか!?


「吉城?それは許さないよ?」


「いやしないが僕の気持ちも少しは解ったろう?」


「む…確かに…悪かったよ吉城、大福ちゃん」

とぺこりと頭を下げて暁雄さんが謝罪した!

それに驚愕した吉城くんは


「ぎゃっ!気持ち悪っ!!謝った!!」


「おい、謝罪したのになんだそれ?傷付くよ?」

と暁雄さんが眉間にシワを寄せる。


そして暁雄さんは四宮先生に近づくと片膝をついて箱を取り出した。


「は?」

あまりのことに全員目が点になっている。


パカリと箱を開けるとキラリと光るダイヤモンドの指輪がありいきなり船内に音楽が流れて船長やシェフが料理を片手にパァンとクラッカーを鳴らした。


「「「は?」」」

私達3人は呆然とした。

これもしかしてと吉城くんと顔を合わせた。


「凛子さん!結婚して下さい!!」

言いやがったああああっ!!!

暁雄さんが真剣な顔で箱を突き出しているが四宮先生はブルブルと感動に震え……ているわけもなく全力で言った!


「そもそも付き合ってませんからっっ!!」

と。


だよね。


それから暁雄さんは船室でしくしく泣いていた。四宮先生は機嫌が悪い。

私は溜息をついて


「吉城くん…四宮先生と話してきたら?」

と言うと彼は何故?と言う顔をする。


「いや…キッパリ振ってきたら?」


「いつも言ってるけど…」


「そうじゃないよ…ちゃんと言うんだよ…」


「ちゃんと…」

彼は考えてうなづくと先生の元に歩く。



僕は時奈さんにちゃんと振れと言われ四宮先生の元に行く。


「先生…」


「はっ!栗生院くん!ごめんなさいね!変な所を見せたわ!…ほら!あの橋の名判る?まぁ判るわね?栗生院くんだし!」


「四宮先生…あの…本当に申し訳ありませんが僕は他の誰でもない雪見時奈さんが好きなんです…彼女と将来も見据え結婚も視野に入れて付き合ってます…だから他の女性では無理なんです」


「そ…そんなの見れば判ります!!先生もね意地になっていたのよ!いいでしょ!ファンなんだから!ファンは見てるだけでいいのよ!今日はファンサービスで来たのよ!」

先生は柄にもなくボロボロ泣いた。


「年甲斐もなく若い子を追っかけて恥ずかしいわね…。でもファンとはそういうものなの。歳なんて関係ないの。例えば切手が好きだから集める。あれに歳は関係ないでしょ?それに…きっとファンは…全員判ってるわよ…。栗生院くんが幸せになるのが一番嬉しいことなの」


「四宮先生…」


「だから…先生は大丈夫です…君達を応援するわ…いろいろと過去は迷惑かけたわね。今度辰巳さんや西園寺さんの面会に行かないとね」

と四宮先生は笑ったが僕は二人のことを話した。


「そう…西園寺さんが亡くなったの…」


「辰巳さんは保護してます。僕たちの闘いが終わるまでは…」


「…辰巳さんに私も会えるかしら?もちろん誰にも言わないわ…」


「先生がそうしたいのなら…」


「私…辰巳さんに親衛隊をクビにされたけど恨んでないし…先生として…もしあの子が辛い立場で悩んでるなら力になりたいわ」

意外と先生意識あったんだな。


「大人ですもの…」

四宮先生はそう言って前を向く。この人はこの人で変わり始めている。


「ふふっ、そうですね…大人なら小高先生のことも少しは気にかけてあげては?あの人本当にもう先生しか見えないみたいですから」

と言うと四宮先生は赤くなり


「なっ!あんな女ったらし!そそそ、それにねぇ、私はまだ雪見さんみたいに強くなんかないわよ?あんな…全世界の半分くらいの女性たちから嫉妬されるなんてまだ全然無理よっ!!」

それに僕はブッと吹き出した。


「あはは!何だ!そんなことを心配してたのか!大丈夫ですよ!先生は!」


「女性の陰湿さを知らないから笑えるのよ!」


「では暁雄さんに守ってもらったらどうですか?少しは素直になって…」

と僕は先生の背中を押した。


先生はしばらく風に当たると船内へと向かった。


時奈さんがデッキで暇そうにジュースを飲んでいた。


「言ってきたよ…キッパリと」

と僕が言うと彼女はヘラっと笑った。

ん?あれ?様子がおかしい!

はっまさか!!


「時奈さん?何飲んで…」

と思った時には遅く彼女は赤い顔で僕に抱きつき自らキスをしてきた。

これはやはり…酔ってるな…。

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