彼氏が悪の組織の戦闘員Eなんですが…

黒月白華

彼の正体

プロローグ

 私は雪見時奈ゆきみときな17歳。人見知りで頭も悪く顔も特に可愛くはない。

 肩まで伸びた髪は二つに結ったもので黒縁ダサメガネをかけ、

 

 がお似合いだ。


 小学校の頃はパシリとしてクラスの女子グループの女王様に目をつけられ、

 その子から逃れるように遠くの女子校に通いバイトしながら一人暮らしを始めた。

 そんなダサ女がコンビニバイトの帰り道に通りかかった公園で不審者が怪我して疼くまっているのを発見した。

 なんか全身黒ずくめで悪の組織に出てくる下っ端みたいなマスクを被ってゼエハア言いながらお腹や腕を痛そうに抑えていた。


 何この人…。

 怪我してるけど、明らかに不審者だ。

 どうしよう通報するべきか…。でも救急車が先か。


 悩んでいるとその黒づくめと目があった。

 ヤバイ!殺される?


「うっ…っしまった…一般人か…」

 と呻き辛そうにしている。大丈夫か?黒づくめの人!

 私はコンビニから買っていた本日の飲み物を彼に恐る恐る近づいて渡した。

 これは店長が上がる前にサービスでくれたもので貧乏な私には貴重だったが、仕方ない。

 怪我人が目の前にいるし見過ごせない。


「ど、どうぞ…」


「……」

 黒づくめはその水を見た。水ですみません。スポーツドリンクの方が良かったかな?

 黒づくめは悪の組織の下っ端みたいな額にEの文字が刻まれたマスクを取ると汗だくでボロボロではあったが

 何これアイドルか?と思うくらいの綺麗な顔立ちの男が現れた。


「ありがとうございます、お姉さん…」

 意外と礼儀正しい。そしてゴクゴクとまるでCMに出てくる爽やかなイケメンみたいに飲んだ。

 くっ!これが見れただけでも貴重な水を渡した甲斐があった!通報は辞めとこう!


「それでは私はこれで…」

 と言い去ろうとしたらその手をがっしり掴まれ


「いやいや、正体を見られて逃げられるわけにはいかない、ごめんね?」

 とこれまた少し舌をだし懇願され、

 ぎゃっ!これはイケメンだけにしか出来ない【奥義舌チラ出し】ではないか!

 ブサイクがやったら確実に死刑だ。

 というか目が腐る。


 どうしたものかと思っていると上空からバラバラと音が聞こえた。

 え?何?ヘリ?何で?

 救命ヘリではないがよく判らないヘリ。

 まさか悪の組織に連れさらわれる?


「ひっ!」

 私は振りほどこうとしたががっしりとお腹をホールドされた。

 はひいいいい!!!


 人生初!時奈は悪の組織で下っ端でアイドル顔の男に抱きしめられてる!!耳元で


「騒がないでください…お願いだから」

 と言われキュンの導火線に火がつく。


 私はこれから連れさらわれる。もしかしたら海外にでも売られて豚みたいな労働させられるのではないか?

 そんな不安が襲う。


 ヘリは公園に着地して中から身なりのいい老執事が駆けてきた。


「坊っちゃま!大丈夫でございますか?ああ、またボロボロになって!…その方は?」


「水をくれたお姉さん」


「水?」

 老執事が怪訝そうに見る。


「小娘!まさか坊っちゃまに毒を?坊っちゃま離れて!」


「おい、鳴島!やめろ!普通の水だよ!ちゃんとしたメーカーの!蓋も空いてない新品だった!安心して!一般人だよ!助けてもらったんだ!

 喉乾いてたし…だから丁重にもてなせ」

 どういうことだ?坊っちゃまに執事だと?

 何だこのアイドル顔男!

 まさかのクソ金持ちなの?


 考えているうちに軽々とヘリに乗せられる。私はそのヘリの中身に仰天した。

 部屋?

 床はフサフサの高級な絨毯に柔らかそうなソファーにテーブルの上には

 美味しそうなチキンやら豪華なよくわからない食べ物に救急箱が置いてあった。


「???」

 キョトーンのポカーンであった。

 まさか一般人が突然ヘリに乗せられ豪華な旅にという企画のテレビか?と思った。

 どこかに隠しカメラが?


「座って適当に食べていいよ」

 とドル男が言う。


「あ、あの私…何で…え?」

 混乱して眉を潜めていると


「僕は栗生院吉城くりゅういんよしきと言います…」

 と頭を下げられる。


「へあっ?わ、私は…雪見時奈です…」

 と名乗ってしまった!バカ!誘拐なのよね?これ?


「突然こんなとこに連れて来てごめんね?雪見さん…でも人に聞かれるとアレなので」

 ああ、海外にでも売られるからか…。さようなら私の人生。


「水ありがとう!助かった!」

 水を渡しただけでお礼なんて…そんな眩しいステージ終了後の笑顔で私なんかに微笑むと勿体ないです!

 お金を払わなくてはいけないのではないか?


「僕ね、バイトで悪の組織の下っ端やってるんだ…秘密にしといてね?」


「は?」

 いや悪の組織の下っ端みたいな格好してるけどバイトですと?

 こんな執事までいるクソ金持ちの御坊ちゃまが?


「黙っていてくれれば何でもする。お水のお礼もしたいし、好きなものはない?欲しいものは?好きな宝石でもなんでも言って?」

 お水一つでお礼を言われ好きなものをくれるとかどんだけ成金なのか怖い。


「いえ、何も何もいりません」

 の私の震え声に


「何もいらないの?そんなっ!」

 驚いた顔をされた。だってタダ同然で貰った水の見返りに宝石とか場違い過ぎる!


「世界一周旅行とかでもいいんだよ?」

 やっぱテレビの撮影か?


「あの…ほんとにいいのでもう下ろしてください…」

 すると彼は


「家まで送るよ?どこ?」

 と言う。

 へ?帰してくれるの?誘拐じゃなかった!

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