第14話 イケメンが助けに来た1

「あれ?…ここはどこ?」

 いつの間にか寝てしまっていた私は真っ暗な室内で両手足を縛られて転がっていた。

 さっきまでふかふかのベッドにいたのにえらい違いだよ。


 というか明らかに誘拐された。

 婚約者とかいうとんでもない美人の女の子に。

 そしてゴリラ女に。

 なんか臭いなあ…。


 って!臭い筈だ!!おおおい!

 ガソリンの匂いじゃね?そこら中に撒かれているの?

 嘘っ!

 私は状況を理解した。


 火点けられたらお終いだ。


 なんか…最近凄いイケメンな彼氏ができたと思ったらもうこんなところで死ぬのか…。

 最後に神さまがイケメンとの時間をくれたんだね。ふふふ。


 その時扉が開いてさっきのゴリラ女が入ってきた。

 扉の側には電話が着いていた。


「あの…これ誘拐監禁罪…」

 と私が言うとゴリラ女は鼻息荒く


「残念だけど、吉城様がお嬢様を選ばなかった場合、お前はここで焼け死ぬことになるんだよ」

 とライターを持て遊んでいる。


「この部屋は地下の密閉空間で耐火性だ、燃えるモノが燃え尽きるまで火は消えないよ…あんたにライターを投げて扉を閉めちまえばすぐに引火して爆発するだろうからね」


「ひっ!」

 改めて殺されると決まったら怖い。本当に死ぬのか…。

 いや、でも栗生院くんがあのお嬢様と婚約を復活したらギリ助かるかもしれない。

 そうなると…

 そうかもう栗生院くんと関わることもないのか。


 どっちにしても栗生院くん次第か。


 *


「何だと?」

 僕は目の前にいる元婚約者の条件を聞いていた。


「ですから…あのクソダサメガネ女より私との婚約を復活させればすぐに彼女を解放しますわ!でも断れば…この場で私の命令一つで彼女は焼け死ぬのです」

 この女…婚約破棄した時に家を潰しておけばよかった!


「解らないんだけど?僕と君は一度しか会ってないよね?何故そんなことを?うちとの取引が上手くいかないからってそんなに固執されてもね」

 と言うと円城寺葵えんじょうじあおいはそのお綺麗な顔を歪ませ


「私はあなたに一目会った時に恋に落ちたのです!それからあなたにもう一度会える日を楽しみに相応しい女となれるべくたくさん努力してきましたのよ?それなのにあんな何の苦労も知らないようなクソダサメガネ女のどこがいいのです?」

 と憎々しく言う彼女に僕は冷たい目を向けた。


「それ以上彼女の悪口を言ってみなよ?君が女性でも容赦はしないよ?」

 僕はポケットに手を入れようとしたが


「動かないで!動いたら私はこのボタンを押して地下の部下に連絡して火を点けさせますからね!」

 それにピタリと動きを止める。この女…。

 なんて忌々しい。


 しかし地下という場所の特定はできた。

 僕に付いている通信機で鳴島が聞いているだろう。

 そして雇った精鋭どもが裏口からこの家に侵入している頃だ。

 この女さえ取り押さえられば助けられる!


 僕はやれやれと肩を落とし


「葵さん…ごめんよ、まさか君がそんなに僕を思っているとは思わなくてね?悪かった…あれは遊びだよ、僕がなびくとでも?」


「で、では!私との婚約を復活させていただけるのですね?私を愛していると言ってください!誓約書にもサインを!」

 そこまでしないといけないのか…

 そしてたぶん今の会話は地下に溢れているだろうな…。

 時奈さんは勘のいい方だから嘘だと気付くだろうけど。


 僕は誓約書にサインするとそれを投げて


「愛してるよ葵さん……」

 と嘘を吐いた。

 円成寺葵は赤くなり嬉しそうにしているがまだ壁のボタンから離れない。

 警戒はしてるんだろうな。こいつが本当に時奈さんを解放するとは思えない。

 しかしそこでポケットの通信機が揺れた。合図だ。


 そこで天井からポトリと虫が円成寺の服に落ちた。


「ひっ!なっ!何?」

 そしてそれは服の中で暴れ白い煙を吐いた。


「きゃああああ!何?なんなの?火事?いやああああ!取って!誰かっ!」

 僕はスタスタ円成寺に歩みより


「それじゃあ僕が…」

 と手を伸ばすが彼女は


「近付かないで!ボタンを押すわよ!こんなことで私が騙されるもんか!あの女は殺す!私しか見ないでー…っっ!!」

 そして彼女は天井から落りてきた精鋭に手刀を受けて気絶した。

 僕は誓約書を取り上げて破いた。


「手間取らせやがって…!おい!ゴリラ女!見てるだろ!このお嬢様をぶっ殺されたくなかったらそのままそこでバナナでも食ってろ!」

 そして円成寺葵を雇った精鋭に預けて首にナイフを当てさせておく。


 そして僕は駆け出した。


「鳴島!地下へのルートを教えろ!」

 外の車で屋敷の内部構造を映したモニターと地図を見ながら鳴島が指示を出す。


「坊っちゃま!真っ直ぐに行き、左を曲がった奥に地下への扉があります!扉を開けるとエレベーターがございますのでそれに乗り降りてください!しかしエレベーターの扉が開くとゴリラ女が恐らく待ち構えているでしょう!あの女は訓練されたゴリラです!お気を付けて!」


「了解した!殺してもいいか?」


「一応それは雪見様にバレたら嫌われますよ?」


「むう…解った。ほどほどに痛めつけておく」

 と話してるうちに扉を開けるとエレベーターの前に何人か男が待ち構えていた。


「おい、傷つけずに捕獲だったか?」

 一人の男が言うと


「ああ、顔だろ?腕なら折ってもいいだろ?」

 と一人が言う。五人か…。全くなんてお嬢様だ。

 こいつらも殺しちゃったら時奈さんと上がってきた時に厄介だな…。

 僕はアーミーナイフを一本だけ取り出す。


「おいおい坊ちゃん?そんなもん出してどういうつもりかな?」

 男たちはニヤニヤしながら銃を取り出す。


「はぁ、まあ銃と比べたら劣りますよねっ!」

 と僕は素早く背中に隠し持っていた煙玉を投げつけ周囲を見えなくする。


「なっ!何い?」


 そしてスーツの上着からダーツの矢を何本か取り出し男たちの急所に向けて遠慮なく放った!


「うぎゃああああ!」


「おいどうした?どこ…はぎゃあああ!」

 次々と悲鳴があがる。そりゃ痛いだろう。

 ちなみに煙の中でも見えるよう僕は防煙マスクとメガネを装着して特殊なライトで相手の位置を把握しダーツを放つ!

 銃がランダムに発射され発砲音が響くが僕はそれを避け男たちの握る銃の手元に向け煙に紛れつつアーミーナイフで手首を切り裂く!


「ぎゃあっ!」

 次々と銃が床に落ち僕はそれを二つ拾い残りはポケットや上着にしまい込んだ。

 武器を取り上げられた男たちはもう何もできまい。

 一人の男の額に銃を固定して命令する。


「死にたくなかったらここからさっさと出て行け!!」


「くくく…クソガキ!お前は一体なんなんだ!!」

 涙目で言う大人に


「聞こえなかったのか?じゃあ死ぬか?僕はお前が死んでも何とも思わないがお前が死ぬと悲しむ者もいるんじゃないの?」

 そう言うと男たちは


「わ、解った!辞めてくれ!出て行くからっ!」

 と男たちは扉の方へ走ったが外で待っていた僕の部下にあっさり捕まった。


「坊ちゃま、一人で平気ですか?」

 と通信機から鳴島が心配する。


「後はゴリラだけだ…動物園にぶち込んでやるさ」

 と僕はエレベーターに乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る