ささなき
房成 あやめ
日の出
日の出
ある日の朝、墓地でどこか見覚えのある老人を見た。老人は、誰かの墓を、どこか懐かしそうな、切なそうな目で見ていた。私は、勇気を振り絞り、話しかけてみることにした。
「いい朝ですね。」
「・・・そうですね。」
老人は、自分に話しかけられているのを確認してから言った。老人の顔が昇りたての太陽の光に照らされる。老人は、眩しそうに目を細めて口を開いた。
「宇宙は綺麗だ。」
今にも消え入りそうな声だった。まるで、自分たち人間が汚いような言い方だ。
墓が、朝焼けに照らされ、キラキラと光っている。
「そうですね。」
「おい、君。なぜ君は私に声をかけたんだい?」
そういえば、何故だろう。でも・・・
「なぜか、思ったのです。この人に話しかけなければ、とね。」
老人の頰が緩んだ。人を包むような優しい顔だった。
ちっちっ ちっちっ
鳥が鳴くこえが聴こえる。
老人は、もう一度墓の方へ向いて言った。
「君。この鶯の鳴き方をなんと言うか、知ってるかい?」
このこえ、鶯のものだったのか。鶯といったら“ほーほけきょ”くらいしか知らない。・・・鳴き方に名前などあったのか。
「いいえ。知りません。」
「笹鳴きといって、惜春の頃に鳴く、鶯の声でね。私と、この声には深い関係があるんだ。」
深い関係。どういうものだろうか。私には、見当もつかない。
「これを話せば、長くなるが、聞いてくれるかね。」
今日は、休日。時間は惜しくない。会社も休みで、子供たちは友達と遊んでいるだろう。この頃、これと言って何もドキドキすることがなかった。丁度いい。
「もちろん、いいですよ。」
私の言葉をきき、老人は、深呼吸してから話し始めた。
「私の同窓に、
老人が懐かしそうに言った。このころの私は、軽い話だと思っていた。次の老人の言葉を聞くまでは––––。
「私たちが、まだ少年少女だった頃、彼女は母親から虐待を受けていた。」
その言葉が重く響いた。
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