13 蔦
「蔦くん、蔦くん‼︎」
「何?蔦莉。」
「見て、私たちの動画にコメントしてくれた人がいる‼︎」
「本当だ。」
「せーので、見よ。」
「いいよ。」
女子って、そういうの好きだよな。そう思いながら返事を返した。
「いくよ。せーの。」
それと同時に、「コメント管理ページ」を開く。
そこに書かれていたものは、遥かに想像を超えるアンチテーゼコメントだった。
「ふじくんと、アネモネさんを侮辱してるのか。」
蔦莉が、いくつか読み上げる。
「下手。そんな声で、ふじさんの歌をカバーしないで。・はぁ、普通に上手いやん。・マジで下手。聴いてて不愉快・最&高ならぬ最&低・中学生?すごいね!・うぽつです。アンチなんか、気にしちゃダメだよ。・こんな声でよく動画出せたな。下手だ。・下手すぎて草。」
・・・どういう意味だ。アンチだらけじゃないか・・・。僕らは、こんな風に見られているのか。自分たちなりに頑張ったのに。僕たちは、最高だね、って言ってアップしたのに。どこがいけなかったんだろう。なんで、こんな酷いことを言われなきゃいけないんだろう。–––いや、自分なりじゃダメなんだ。
沈黙が続く。
「ひどいね。」
蔦莉がそう呟いたのは、秒針が1周ほど回ってからだった。
「うん。怖い。」
「・・・私たち、精一杯頑張ったのにな。やっぱり“自分なり”じゃ、駄目なんだな。」
「うん。・・・こんな風に見られてるんだね。」
「ぐすん。私たち音楽の才能・・・ないのかな。」
顔をあげると、蔦莉が泣いていた。
「えっ。どうしたの?蔦莉。何か僕、泣かせるような事言った?」
「違うの。・・・蔦くんのせいじゃない。・・・ぐすん、私たちの製作の努力も・・・水の泡だなって思って。」
「違うでしょ!」
「えっ。」
「この動画は、僕らの1歩目であって、完成品じゃない。だから、見返したときにこの動画よりも他の動画が、何倍も上手かったらいいんだ。だから、水の泡じゃない。ここからスタートだから。確かに僕らは侮辱されたけど、少しは褒めてくれている人がいる。」
「ぐすっ。」
「・・・だから、才能ないとか言わないで。可能性は、無限大だよ。これからも、ずっとずぅっと、一緒に活動しようね。」
「ぐすん・・・はぁ、うん。そうだね。」
「死ぬまで、歌い続けよう。」
蔦莉が、小指を立てた。
「うん・・・。約束ね。」
「うん。約束。」
僕も小指を立てた。指を絡めて、僕らは笑いあった。
この瞬間が、いつまでも続いてほしい、そう願った。そんな事は不可能だと分かっていても、今だけ今だけでも、この幸せな空気に浸たい、そう強く強く想った。
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