21ー3 蔦
「・・・長くて16年、短くて6年くらいしか・・・生きられないんだ。」
「えっ。」
16年・・・短くて6年・・・。
「・・・パーキンソン病になっちゃったんだ。」
「・・・・。」
蔦莉は何も言わない。
「・・・お前、それいつ分かった?」
「1ヶ月前。」
「何で‼︎・・・何で・・・もっと早く言ってくれなかったんだよ‼︎ずっと、隣にいたじゃないか!」
僕のことを信頼していないのか。1ヶ月あれば、何ができたか・・・。
「何でって、私だって心の準備とか、どう言お」
「もう、良いよ・・・。今日は帰ってくれ。」
しまった。そう思った時には、もう全てが遅かった。
「蔦くん。・・・待ってよ。」
そう蔦莉が呟いた気がした。しかし、僕は振り向けなかった。僕は、彼女に対して取り返しのつかないことを、言ってしまった。彼女が、深く傷つくようなことを。
僕は、傷ついたんだ。彼女の方が、ショックを受けているって、分かっていても。
長くて16年・・・彼女は今までの倍くらいしか生きれないのか。あぁ、なんと儚い人生なのだろうか。きっと、僕よりショックの強さは大きかっただろう。
なのに、なのに、何故、僕は声を荒げてしまったのだろう。何故、人には感情というものがあるのだろう。何故、僕は未熟なのだろう。何故、人と人には、壁があるのだろう。何故、人の命が限られているのだろう。何故、彼女と同じ人として、生まれてこられなかったのだろう。何故、よりによって彼女が、病気になってしまうんだ。
この時間が勿体ない。もっと一緒に蔦莉といたい。こんなことで、時間を潰してられるか!
気付いたら僕は、蔦莉の家に続く道を走り出していた。早く早く会いたくて。一緒にいる時間を増やしたくて。ただただ、道を走っていた。
ごめん、蔦莉。ごめん。
「ごめん。」
どん
その時、誰かとぶつかった。
「蔦くん‼︎」
蔦莉が叫ぶ。よかった。会えた。
「蔦莉!よかった。いま会いに行こうと思ってたんだ。・・・僕、この状況で離れ離れになりたくない‼︎この時間が勿体無い!蔦莉ともっと一緒にいたい。・・・声荒げちゃってごめんね。」
今僕が、思っていることを素直に伝えた。届け、届け。お願いだ。嫌われるのも、同然だ。
「・・・・すごいね。」
返ってきた答えは意外なものだった。
「えっ?」
「私たちのユニット愛。」
胸が、イタイ。でも、嫌われなくて、良かった。
「私もね、勿体無いなって思って、走って来たんだ。」
えっ、走ってきた?
「手足、大丈夫?」
思わず聞いてしまった。
「うん。」
「あれから、調べたんだ。寝たきりになったら、死んじゃうんでしょ。」
「うん。」
「ごめんね。声、荒げちゃって。蔦莉の方がショックだったのに。・・・ごめんね。」
頭を下げる。そんな僕の肩に、蔦莉の手がのった。
「ううん。・・・私ね、死ぬまで歌いたいんだ。」
「うん。・・・約束だもんね。」
「だから、ライブ、いっぱいしたいの。車椅子になるまで・・・いや、車椅子になっても、寝たきりになるまで。で、寝たきりになったら、作詞するの。」
これは、叶えられない夢かもしれない、他の人は。しかし、彼女は、きっと叶えてくれる。きっと、彼女は音楽がある限り、一生「死にたい」なんて言わない。そのことに気付くと、強張った筋肉が緩んだ気がした。
「うん。・・・うん。ぐすり。」
頰に熱い液体が流れる。どんどん、どんどん。
「えっ?」
蔦莉が戸惑っている。
「なんで、なんで・・・蔦莉なんだよ。うぅ・・・ぐずん。」
何が何でも、彼女の人生に寄り添おう。僕はそう決意した。
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