昼下がり

昼下がり

「––––そして、私たちは、オリジナル曲を上げたんだ。その曲は、色々と不完全な曲でね、今でも私の苦い思い出なんだ。」

 そこまで話終えると、老人は一息ついて、

「少し、腹が減ってきましたね。お気に入りの茶店があるのですが、どうですか。」

と言った。歳のせいか、私は立って話を聞くのが辛くなってきた。時計を確認すると、もう11時を回っていた。丁度いいと思い、

「はい。いきましょう。」

と言った。私の言葉を聞いた老人は、こくりと頷き、

「さあ、行こうか。」

と言った。

 墓は、山に囲まれた小高い丘の上にある、自然豊かなところだった。その喫茶店は、『リコリス』という名前で、坂道を降てすぐのところにあった。

  老人は慣れた手つきでドアを開け、「二人です」と店員さんに言って、指名された席に座った。しばらくして、「ご注文はお決まりでしょうか」と聞きにきた店員さんに、

「セイロンティーのホットで。」

と言った後、私を見たので

「私も同じので。」

と言った。お金は私が払った方がいいだろう、と思い私は値段を見た。すると、予想していた値段とは遥かに安くて、びっくりした。

 老人は、店員さんが離れて行ったのを確認してから、

「さて、話を続けようか。」

と、言った。

「重くなるが、いいかね。」

老人は目線を上げて、私が頷いたのを確認してから息をついた。

「実は彼女は、この時まだ気付いていなかったのだが、ある病気にかかっていてね、それは彼女の体を着々と蝕んでいたんだ。」

その言葉に、また私は衝撃を受けた。


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