老人の回想 中学3年生 冬
17 蔦莉
ある日の昼休み、紫花と一緒に理科室に続く廊下を歩いている時のことだった。ズコ!という派手な効果音とともに、私は転んだ。その音の後に、おでこを、強く得体の知れないものに押されている感覚に襲われた。私は泣きそうになるのを我慢し、ジンジンと言っている額を抑えながら、
「いった〜!」
と言った。それを見た紫花は
「大丈夫?寝不足?この頃そういうこと多いよね。」
と顔を覗き込んで言った。確かに、一週間に何回も何にもないところで転んでいる気がする。紫花の優しさを感じながら
「うん。そうかも。」
と私は言って立ち上がった。
「何時に寝たの?」
と紫花が聞いてきた。私は、まだジンジンと言っている額に気をとらわれながらも、
「うんとね、12時くらい。」
と言った。その言葉を聞いた紫花は、衝撃を受けたように
「えぇ!12時?」
と、大声を出した。その声に振り向いた先輩や下級生、先生方が一斉に振り向いた。私は、『何してんじゃ、このヤロー!!!』という念を込めて、思いっきり紫花の横腹ををこづいた。
「グハッ。」
紫花は小さく吐き出し、私に痛みを訴えてきた。が、そんなに痛くなかったようで、横腹をさすりながら
「蔦莉ちゃん、いつも10時代に寝てるんじゃなかったっけ?」
と言った。私は
「そうなの。だから今日すっごく眠い。」
と答え、紫花と一緒に理科室に入った。
キーンコーンカーンコーンチャイムが鳴り、眠たい声の科学の先生が入ってきた。
「え〜・・・今日は・・・物質の構成について、話していきたいと・・・思います。」
私が、『寝たらダメなのは分かっているが、ここで寝たらどんなに気持ち良いだろう。』と意味のない葛藤しながらも、夢の世界に入っていくのは、授業が始まってから実に数十秒後のことだった。
この頃の私は、この生活の幸せにまだ気付いていない。いかに『普通に』生きることが幸せなことかを––––。
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