24−2 蔦莉 

 春になって、私たちは高校2年生になった。

 前に、蔦くんらしき学生がいた。私は無意識のうちに彼を見つめていた。こっちを見ないかな、と思いながら、蔦くんだったら嬉しいなと思った。風に煽られた男子学生が横を振り向いた。その瞬間、心臓が高なった。

 その横顔は、とても美しかった。

 前にいる男子学生が蔦くんだと分かると、

「蔦く〜ん!!」

と出来る限り大きな声を出した。私の声に反応した彼が、振り向いて

「はよ。」

と片手を上げた。私は嬉しくなって、早足になった。

「おっはよ!」

彼に十分近づいた私はそう言った。蔦くんは私の後ろにいる本田さんに気付き、

「おはようございます。」

と声をかけた。山田さんは

「おはようございます。」

と挨拶を返した。礼儀正しいなと私は思った。

 しばらく歩いていると、黙っていた蔦くんが口を開いた。

「蔦莉、受験のことなんだけどさ。」

「うん。」

私は、『受験する』と言うのだろうな、と少し緊張した。

「先生にも言ったんだけど、僕さ、しないよ。」

蔦くんの言葉が私の予想していたものと反対で、びっくりした。

「え?」

「だから、受験しないの。」

蔦くんはもう一度そう言い直した。

「なんで?」

訳がわからなかった。こんな賢い人が、なぜ大学を受験しないのかが。

「もう、決めたんだ。」

蔦くんは、そう言った。私が何も返さずにいると、

「もう、決めたんだ。」

と暗示するように、そう言った。


「おはようございます。」

私たちは校門にいる先生方に挨拶し、校舎に入った。久しぶりに同じクラスになった私たちは靴を履き替え、隣に並んで階段を登った。私は何度か転びそうになり、後ろにいた本田さんが笑って私を支えてくれた。彼女がいるから、安心できた。

「蔦くん。」

私はそう呟いた。私も大学に行かないことを伝えないといけないからだ。

「ん?」

「私もさ、行かないよ。大学。先生にも、ちゃんと言ったよ。」

蔦くんは、案の定驚いた顔をした。

 ちょうどその時だった。廊下で担任の小森先生とすれ違った。私たちに気づいた先生は、

「おい、倉井!伊藤!大学、本当に行かないのか?お前らなら、高いとこ狙えるぞ。」

と振り向いて言った。私たちは顔を見合わせて、

「「いいんです!」」

と笑った。そんな私たちを見て先生は、

「伊藤。放課後、職員室に来い。」

と言って、忙しなく去っていった。私は何で蔦くんだけなんだろう、と思いつつも

「呼び出しだ・・・。何でだろ。」「ね・・・。」

と言い、顔を見合わせた。

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