15 蔦

 僕は、奈々先生に『自分に自信持った方がいいよ。』と言われてから、僕は自分に自信を持つにはどうすればいいかを考えた。母に

「僕、どうしたら自信持てるようになると思う?」

と聞いたりした。母は、

「うぅん・・・」

と唸ってから

「蔦は、絶対メガネとマスク外した方がいい。」

と言った。僕は、まだマスクを外したくなかったから、

「僕、コンタクト欲しい。」

と母に頼んだ。すると、彼女は笑顔になって

「いいわよ。」

と言った。

 久しぶりに母と出かけた。母は、離婚してから残業や休日出勤を頻繁にしていた。休みの日はずっと寝ていて、家から出なかった。だから、僕は嬉しかった。自分のために、外に出てくれたことは滅多にないから––––。


 次の日、さっそくコンタクトレンズをつけて行った。すると、クラスメイトから「伊藤、お前イケメンだな!」とか「伊藤君、そっちの方がいいよ」とか、先生にまで「おう、伊藤イメチェンか!かっこいいじゃあねえか」と言われた。蔦莉は

「おぉ。いいじゃん!似合ってる!」

と言ってくれた。そのことが嬉しくて、その日一日浮かれていたのを覚えている。クラスメイトに話しかけられやすくなり、自信を持てるようになった。


 ある日の朝、靴箱を開けると一枚のピンク色の便箋が入っていた。高鳴る心臓を抑えながら、蔦莉からかなと思いながら開けると、彼女とは全く違う筆跡の文字が並んでいた。残念に思った、その時だった。僕の背後に影ができ、首にわずかな息がかかった。鳥肌が立ったが、クラスメイトが登校してきたのだろうと思い、上靴を取り出そうとしたら

「放課後、校舎裏にきてください。話したいことがあります。・・・って、お前ラブレター貰ってるじゃん!」

と誰かが手紙を読み上げた。僕は、びっくりして後ろを向いた。すると、そこには学級代表の清水がいた。

「うわぁ!」

と僕が飛び跳ねると

「ぉはよ!」

と笑顔で言った。僕はまだドクドク鳴っている心臓を抑え、

「おはよ」

と呟いた。

 靴を履き替えた僕らは、廊下を歩き階段を登る

「にしても、お前急にモテ始めたよな。」

清水は、僕の横顔を見ながら言った。僕は視線を感じながら、

「そうなんだ。コンタクトにしてから、たまに手紙とか入ってたりするんだ。」

と彼の方を向いて言った。すると、彼は

「お前さ。好きな子とか、いたりする?」

と言った。その瞬間、蔦莉が微笑む顔が浮かび、自分でも分かるくらい顔が赤くなった。そんな僕を見て、

「おまっ!かわいい奴め・・・さては、好きな人がいるんだな〜!」

と清水は僕をこづいた。僕は

「いちゃ悪いか!」

と笑いながら、清水をこづき返した。

 『好きな人』・・・か。僕は蔦莉が好きだ。この世で一番大切だ。それは、もう自覚している。きっと、奈々先生のおかげだ。ありがとう、先生。

 あと教室まで一階というとき、清水は僕の顔を覗き込み、

「でさ、誰?」

と息を切らしながら言った。僕は

「調子に乗るな〜!」

と笑いながら彼の頭を思いっきりチョップした。

「痛ってぇ〜!このヤロ〜!」

と言いながらも彼は、僕にチョップした。痛すぎて笑っていると、清水も笑い出した。それから、僕らは笑いまくった。こんなに腹の底から笑ったのは、久しぶりだ。


 その日の放課後、僕は指定された通り校舎裏に行った。そこには、高めの二つくくりをしているの女子がいた。僕の足音に気づいた彼女は振り向いた。見覚えがあった。確か、蔦莉の友達だったはずだ。名前は・・・分からない。

「あの!」

アニメのキャラクターのような声の彼女は、耳まで真っ赤になっている。

「伊藤君、私小林紫花って言います!その・・・」

小林さんと言うのか。彼女は目を瞑って

「好きです!」

と言った。案の定、告白だった。(勇気を振り絞ったんだろうな。申し訳ないな)と、思いながらも

「ごめん。僕好きな人いるから。その子以外の子とは考えられないから。本当にごめん。」

と、彼女の目を見て言った。彼女は悲しそうな顔をしたが、

「うん。・・・はっきり言ってくれて、ありがとう!すっきりした。」

と笑った。

 僕は、つられて笑った。彼女の笑顔は、他人まで幸せにする。それは、一つの才だ。将来彼女は、幸せな家庭を築くだろう。

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