30ー2 蔦莉

 私のお葬式が終わった。蔦くんが、来てくれた。そのことがこの上なく嬉しかった。昨日来てくれなかったからだ。良かった、蔦くんの姿が見られて。私のこと、嫌いになったのかと思った。

 どんどん人が、精進落としを食べに葬儀場から出ていく。しかし、蔦くんは出ていかない。体調、悪いのかな。大丈夫かな。動けないとか。寝てるとか・・・。そんなことを考えている私をよそに、彼は急に立ち上がったと思いきや、棺に近づいてきた。

「蔦莉。君には、僕の聲は届かないかもしれない。」

彼が、棺桶の中の私に話しかける。届いてるよ。聴いてるよ。

「・・・でも、伝えるね。」

うん。

「今まで辛かったね。・・・よく頑張ったね。」

蔦くんが泣いた。目から溢れる雫は、綺麗だった。

「・・・好きだよ。君の全てが。」

私もだよ。私の目からも涙が溢れた。

「・・・手紙も、嬉しかった。」

読んでくれたんだね。ありがとう。

「・・・会いたい。会いたいよ、蔦莉。」

そばにいるよ。ずっと、ずっと、君には分からないかもしれないけど。

–––ありがとう。私も好きだよ。ごめんね。

私は、声にならない聲を出した。

 そばにいてくれてありがとう。こんな弱い体でごめんね。好きだよ。君の全てが。蔦くん、好きだよ。蔦くん。

 泣いている蔦くんを、そっと見えない体で包み込んだ。蔦くんの鼓動が、聴こえた。

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