第19話「告白された気がする」
「着きましたぞ、ささ、お手を」
「あっありが」
「必要ない俺が降ろす」
「うひゃあっ」
太陽が真ん中に昇る頃合い。馬車が城の元に止まると、キッシュが扉を開ける。
シルヴィがぺこりと頭を下げ、彼の手を取ろうとするとふわりと身体が浮いた。
(……わ)
一瞬普段よりも高くなった視界に目を瞬かせたシルヴィ。少し離れたところに、馬に二人乗りをしているナハトとエスの姿が見えた。他の兵士同様に慌てるナハトの一方、エスはやっと見つけた愛馬の頭に頬を擦り寄せている。馬の方は若干嫌がっているようだが。
いつもの田園風景とはまるで違う。城下町の営みが詰まった空気を吸い込むと、少しばかり胸が踊る。シルヴィの瞳が、太陽を反射した。
「ガルシアさん!」
「何」
「もっと高くしてください!」
「いいよ」
「おっ、おいシルヴィ! てかキッシュさんは止めないのかよ!」
ガルシアの黄色い瞳が宝石のように光を溜める。途端、シルヴィの身体は風に舞う白いタオルのように上空へ飛び上がった。
眉をひそめて声を上げるナハトだったが、先程知り合ったキッシュの瞳に優しく静止される。
清々しいほどの青空の下に、フェリトル王国全体が視界いっぱいに広がった。見慣れた田畑や山地、人が賑わう都市、初めて見る海に港町。たくさんの人が居て、生き物が居る。
平和を生きる故郷の姿に、シルヴィは感動を覚えて唇を結んだ。
(綺麗……)
くるりと下を向けば、小さくなった兵士たちの姿が見える。きっとあの中にガルシアたちも居るのだろう。頬を緩ませたシルヴィは、ありったけの感謝を彼らに念じる。
「! 今シルヴィに告白された気がする」
「ばーか」
無論通じない訳だが。
(でも、今まさに魔物が出現してるんだ)
この時にも誰かが傷ついているかもしれない、そう思うとやるせない気持ちで胸が詰まる。
エスが魔物を討伐した後、ナハトは馬車の中でシルヴィに宣言した。
『俺は兵士になる。お前も、村のみんなも全部、俺が守ってやる』
『シルヴィは俺一人で十分』
『んだとクソ魔道士!』
(私も力になりたい)
ガルシアもナハトも、誰かを守るために動ける人だ(ガルシアは微妙なラインだが……)。キッシュをはじめ、多くの兵士がこの国を守っている。片田舎で便利屋をしながら薬学書を読む、ただそれだけの平凡な自分だが、みんなの力になりたい。
(そろそろ降ろすか)
ガルシアは、ふわりと地上に降り立つシルヴィに天使とはこういうものかと頬を染めた。しかし、彼女の面持ちにふと首を傾げる。
「シルヴィ」
「行きましょう、ガルシアさん」
(それだけが、今の私にできること)
(……? まあいいか)
バラバラな思考回路が合うことはなく、歩幅だけを揃えて城内へ進んだ。ガルシアは一人ふと考える。
(……今の王様は、どんな人だろ)
なお、まだ一庶民であるナハトは入れなかった。
「いやなんでだよ!!」
「あははー、ナハトは兵舎ねー」
「くっそー!」
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