第24話「おやすみ」

 ベッドに私を座らせると、その横にガルシアさん自身も腰を降ろす。照明はいつの間にか暗くされており、私達は薄暗い中に取り残される。


「……シルヴィ」

「だ、駄目ですよ。そんな約束した覚えないですし……」


 ガルシアさんは片手を私の頭に乗せる。ほわんと紫の光が差したかと思うと、馬車で私が寝ていた間から彼の発言にこくりと頷く姿まで、はっきりと脳内に送りつけられた。うわー、まずい。


「シルヴィ」

「わっ、 わかりましたよ! 寝ればいいんでしょ寝れば! ガルシアさんも早く寝っ転がってくださいよ!」


 恥ずかしさが増すに増して頭がパンク状態だ。やけくそ気味にそう言い放てば、勢いに任せて彼を押し倒した。眼下には目をみはった美青年の顔があるが、き、気にしたら負けだ。

 丁度枕は複数個あったので、半分こして使うことにした。ぼすんぼすんと半ば投げつけるようにして渡せば、残りを二人の間に詰める。


「それ寂しいから嫌」

「恥ずかしくて眠れないんですもん!」

「……子守唄歌おうか」

「いりませんー! そんな名案思いついたみたいな顔しないでください」


 ガルシアさんもお風呂から上がってそんなに時間は経っていないらしい。まだ湿り気の残る赤髪が綺麗だなと見惚れた隙に、ガルシアさんが手を伸ばしてきた。

 男の人らしい、けれど雪のように白い、傷一つない手。壊れ物でも扱うかのように私の頬に触れると、親指で唇をやんわりと押してきた。


「んっ」

「……はー、可愛い」

「ふぁっ!? あっ」


 口を開けた拍子に、ガルシアさんの指が口内に入ってしまった。焦る私を見てすぐに手を引いてくれたものの、未だに心臓はフル稼働だ。体の内側から太鼓を叩かれているみたいで、お風呂上がりの熱が冷めないどころかヒートアップしている気がする。


「……ふふ。ねえシルヴィ」

「なんです」


 恥ずかしさを表に出したくなくて、赤くなりながらも仏頂面で向き合った私に、ガルシアさんは艷やかな笑みを浮かべた。引いた手を自身の口元まで近づけて、親指に可愛いリップ音を鳴らす。

 思わず鳥肌が立ってしまった。


「か、えっ? 今」

「おやすみ」


 ガルシアさんは照明を消すと、私より先に布団に潜ってしまった。暗闇に目が慣れない中、私は呆然と隣の魔道士を見下ろすばかり。


「……ね、」


 寝れるもんかこんなの!!!

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