第23話「一緒に寝よう?」

「部屋は二人部屋のほうが良いか」

「うん」

「やめてください!!」


 グレイスの零した一言に、シルヴィは目を釣り上げて叫ぶ。国王と言えどこれは譲れない。譲ったら大変なことになる。シルヴィが。

 国王は眉をひそめて二人を見やった。顎に手を添え、「ふむ」と考え始める。


「二人は恋仲ではないのか」

「恋仲恋仲」

「違いますってばー! ガルシアさんは黙っててください!」


 魔道士は表情は変えず、ただ嬉しそうに頷く。グレイスはその様子を見ると、顔を引き締めながら顎に置いた手を口に移動させる。


「ふ。魔道士を見て勝手に解釈してしまったようだ。わかった、部屋は二つ用意しよう」


(今笑った!?)


「あげない」

「俺は自ら貰う事はない」


 ラズイーズの件で神経質になっているのか、ガルシアの声は冷たい。それと同等の淡白な声音が即答して鼻で笑う。流石国王とシルヴィは感心する他ない。


 結局、一人一部屋客室が与えられることとなった。しかも、国王はわざわざ一番西と一番東の二部屋を選んだらしい。シルヴィはホッと胸を撫で下ろすが、ガルシアは少しだけつまらなさそうだった。


 謁見室から退室し、右と左で行き先を分かつ。シルヴィが「それじゃあ」と手を振ると、ガルシアは頬を染めてちょっとだけ振り返した。メイドに案内され、シルヴィは西の部屋、ガルシアは東の部屋へ向かう。


 部屋につくやいなや、シルヴィは内装を堪能することも無くベッドに飛び込む。ふかふかの羽毛布団に身体を沈み込ませると、ぶはあ、と息を吐いた。


「つ、疲れた〜!」


(久しぶりの一人! 快適!)


 しばらくごろごろと寝返りをうっていたが、ふと上半身を起こした。ぼさぼさになってしまった髪を手櫛で梳き、立ち上がっては部屋を探検し始める。

 ベッドとはまた違う柔らかさの絨毯、サラサラな白いカーテン、きらびやかな照明にびっくりするくらい大きなクローゼット。

 おまけのように設置されたバスルームにはお高そうな猫脚バスタブが置いてあり、シルヴィのテンションは何処までも上がっていく。


「おっ、お姫様みたい……!」


(早くお風呂入りたい! あと寝る! 寝たい! ふかふかベッドで!)


 無駄に大きな窓を見れば、外はすっかり夕暮れ時だ。橙色の空模様は、自宅で見るのとそう変わらない。ふと村のことが気になり、窓に手を添えて太陽を見つめた。


「……」


(……私の帰りを待つ人は居ない)


 不意にそんなことを思って胸を痛める。自業自得、と自嘲めいた笑みを浮かべて、シルヴィはバスルームへ足を運んだ。




 ーー★ーー




「ふう」


 極楽過ぎた……最高……一庶民には身に余りまくるよこんなの……。

 お湯の温度からバスタブの設計、石鹸まで全てにおいてパーフェクト。グッジョブ。

 私がお風呂に入ると、瞬時にメイドさんが来て替えの服を用意してくれた。なんであんなにタイミング良かったんだろ、もしかして視られてる? 監視?

 ちょっと不安になって、タオルで髪を拭く手を止めると周囲を見渡してしまう。うん、特に異常なし! メイドさんがタイミングのプロだからだと無理やり結論付け、私は使ったタオルを籠に入れる。後でメイドさんに洗ってもらおう。


「ふふふ」


 いよいよ就寝だ、思わず笑みがこぼれてしまう。着慣れないシルクのパジャマをちらりと見下ろし、まさにルンルン気分でバスルームを出た。


「おかえり」

「ただいまです! ……ってあれ」


「待ってた」と口にする、見覚えしかない魔道士さん。言ってもいいだろうか、最早見飽きてきたとまで言えるかもしれないと。そのくらい今私は疲れています。とても。

 ガルシアさんは立ち上がって私のところまで来ると、優しく手を握ってベッドに案内した。照れの混じった表情で、小さな声で話し出す。


「馬車の中の約束、果たしに来たから」

「約束?」

「うん」


 ガルシアさんはこれ以上無いと言わんばかりに顔を惚けさせ、とろんとした瞳で私を捉えた。カッコいいなどと思う間もなく、私の手の甲にそっとキスを落とされる。少し長い口づけの後、口元に私の手をやったままの姿勢で彼が微笑んだ。


「一緒に寝よう?」


 な、なんか雰囲気が……妖しいぞこれは。

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